塩鮭

これは正解がない問題である。

ランチタイムにオフィス街を歩くと、看板を出して本日のランチをアピールしてくるお店も多い。

私はランチアピール戦争に巻き込まれるようにお店を選んだ。
そのお店のアピール看板にはこう書かれていた。

Aオムライス ¥○○○
B塩鮭定食  ¥○○○

私はBが食べたいと思った。

しかし、この注文は一筋縄ではいかないことに気が付いた。

「しおざけ」vs「しおじゃけ」問題だ。

さけ vs しゃけ

一般的に「鮭」というのは「さけ」でも「しゃけ」でも正解だと信じてきた。
それは自分のなかで留めておくことが出来たからだ。
しかし、いざ人に向かって言わなければならない時が来た。
白黒付けるときが来たのだ。

ー 調べようか…

ふとそんなことを考えた。
しかし調べる道具といえばスマホくらいである。
今のスマホは大画面で見やすい。そのメリットも店員さんや隣の席の客に調べているのを見つかるリスクを考えるとデメリットとなる。

(あの人「鮭」が読めないのかしら)

そんな声が頭をよぎる。

だがお店には入ってしまった手前、店員さんが注文を取りに来るのをタイムリミットとすれば時間は無い。

ー 調べよう…

私はおもむろに調べた。気付かれるリスクと闘ったのだ。

…どっちだよ!

っていうか冬のものだったのかよ!

いわゆるどっちも正解というやつだ。
こうなると正解は店員とのフィーリング次第ということになる。店員さんが人生で培ってきた「鮭」に対する向き合い方との駆け引きである。

私の選択

まず私が「しおざけ」か「しおじゃけ」か選ばなければならない。

決断の時が来た。

「 S H I O J A K E 」 だ

店員さん。あなたの人生に、僕は、"SHIOJAKE"でぶつからせて頂こう。

決着…

店員さんが注文を取りに来た。
さぁ勝負だ。店員さん。

「ご注文お決まりでしょうかぁ~」

優しい笑顔に包まれた問いかけであった。
しかし私は心の中では碇ゲンドウのようなオーラを携えているつもりだ。

いざ勝負!

「しょ……しお…」

……噛んだ

そう、この問題は「しおざけ」か「しおじゃけ」かではない。
サケ・シャケに惑わされて全く気付かなかったが「【し】お」と「【さ】け」というアクセントとなる部分がサ行で重なっているのだ。

これは言いにくい。アクセントをサ行で塗り固めることで言いにくくしてある。

このお店の人たちはなんというリスクと闘っているのだ。
それを乗り越えた者しか「SHIOJAKE」の権利は訪れないというわけか。

見事。実に見事だ。

実際にした注文

「Bランチで」