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カツラ探偵

出会いと別れはいつも同じ所を回っている。
もうすぐで、お正月だなとなんて言っていたのも束の間、来月で4月である。時間の流れは早いなとつくづく思う。

 昔からそうゆうことはよく考える方だったが、社会人になって数年が経った現在、それをさらに痛感する。そう、現在私はここで営業三課の部署で、営業の仕事をしている。
「この会社に勤めてもう5年目か!私も順調に成績も上がっているし、もうすぐで係長、いや課長になれるかも・・・」と今後のことについて妄想を膨らませていた。
 ただ、その一方でプライベートは充実していないことも同時に思った。「結婚まではいかなくても、付き合うくらいはしたいよな」としみじみ思う。思うがどうしようもない。休日に素敵な出会いなんて無いに等しいことだし、職場で作ればいいじゃないと言われても、上手くいけばいけばそれはアリだと思う。だけどリスクも大きい。仮に恋人解消となってしまうとそれは気まずいし、違う部署でも仕事で一緒になってしまう可能性は高い。
あー、いい出会い欲しいな!とどうしても考えてしまう。

「おーい、笹原。笹原」と声が飛んでくる。
上司の飯塚部長からだった。私は「はい」と言って椅子から立ち上がり、数メール離れている部長の席まで行く。
「部長、どうされましたか?」
「実はな、話したいことがあって奥の会議室までいいか。ああ、佐藤も一緒に来てくれないか?」と部長の席に近い部長から呼ばれた佐藤さんは小さい声で「はい、分かりました。」と答え一緒に行くことになった。
俺は、小声で「一体なんなんだろうね。」と佐藤さんに耳打ちする。
佐藤さんも「何なんでしょうね?」と返してくれた。
会議室は普段はガラス張りになっているのだが、声は漏れない。後、四方をブラインドで隠すことが出来て、部長がすぐにブラインドを下げ始めたので、これは深刻な話しだと思った。

「実はな」と部長は口癖の台詞から入る。
「ここだけの話だが、この営業三課にスパイがいることが判明した。先日、社長からそういう話を聞いてな。で、速やかに犯人を探して欲しいと頼まれてな。」と切り出される。
「それでまず佐藤。佐藤は、まだ来て1ヶ月でまだまだ仕事は半人前だ。で話しても大丈夫だろうと思った。」
「次に笹原。笹原は大丈夫だ。営業の成績はトップだし、スパイになって特することもないだろうしな」
「で、ここからが重要なんだがスパイはどうやら1人のようだ。それとある特徴があるらしい。それで本当は省いた所もある」と話を続ける。
「その特徴は一体何なんですか?」と私は気がつくと食い入るように聞いていた。
「カツラだ。」と部長は至極真面目に答える。
私は耳を疑った。へーカツラ、カツラってあのカツラだよな。禿げてる人が付けつやつの!
てなんてピンポイントの特徴だよと思う。
 混乱している私を他所に、佐藤さんが「ああ、そっか!私は女性で髪もショートではなくロングだし、それに笹原さんもまだ20代で髪は地毛ですし。そういう事ですね!」と冷静に話を進めていく。
その後は部長から早くこの問題を解決したいことと、出来れば1ヶ月の内に終わらせて欲しいとのことだった。それから明後日には、どうしたらこの問題を解決出来るか教えて欲しいと言われた。もちろん、他の人には他言無用で頼むと言われた。

私と佐藤さんはお互いに連絡を取り合うために通話アプリの交換をして、「まぁ仕事が増えちゃったけど三課の為だから仕方ないね!」と少し談笑してから会議室を後にした。

その後はというと、特にこれといったことも思いつかず、日にちだけは刻一刻と過ぎていった。
 営業先で車を走らせながら明日のことを考えていた。お腹空いたので、近くの定食屋に立ち寄る。今日は定食の気分だ。唐揚げ、チキン南蛮、いやさば味噌も捨てがたい。と思いつつも、結局唐揚げ定食を頼んだ。
待つ時間に明日のことを考えるのであった。
明日がいよいよ解決方法を発表する日になった。一番楽なのは、一人ずつ会議室に呼び出して「失礼します」って言いながらカツラを外してみることだと思うけど、それも難しい。
難しいだけならいい。昨今ではモラハラなど社内でのモラルが厳しくなっているから、最悪会社が訴えられるなんてことになるかもしれない。そうなれば、今までのキャリアに傷が付いてしまう。
 
ふと、壁に目を向けていると手書きのポスターに目が入った。ふむふむ、探偵やっています。特にカツラに関してはお任せください。私は声に出して読んいた。次の瞬間、これだ!と思い、佐藤さんにメッセージを入れて私はその探偵の事務所を訪れるのであった。

事務所に着くと、ハゲ頭の探偵がシャーロックホームズのような格好をしてコクリコクリ居眠りをしていた。私は「これは失敗だったな。」と思い立った。大きな花提灯が割れて、ハゲ頭の探偵がこっちを見る。
「ああ、おはようございます。今、ちょうど起きた所です。何か飲み物をって、少し待ってて下さい。下の自販機行って来ますので」と話をする。私は先ほどのポスターの写真を見せて、話を切り出す。「これは本当なのか?どうなのか?違えば言ってくれる?時間が勿体ないから」と告げる。
「ああ、それなら本当ですよ。私は探偵ですよ!ポスター代が勿体無くて、手書きですけどね。」とハゲ頭の探偵は答える。
「いやそうじゃ無くて、こっちの方!」と私はツッコんだ。
「ああ、そっちですか!それは勿論です。私は今まで何百、何千と暴いて来たんですから、まぁそのお陰で、売り上げもうなぎ上りとはならないですけどね。いや、中々ですよね」と言う。意外に説得力があるハゲ頭の探偵、(名前は岡本)は何なら証拠を見せましょうといい、外に出ましょうと私に言ってくる。
私は引くに引けなくなったので「わかった。上手くいったら依頼してやる」といい岡本とともに街に繰り出した。

⚫︎続く

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