The 5th floor

ヴァーツラフ・ハヴェル国際空港は広々としているけれど、そこまで大きくはない空港だった。なかなか出てこない荷物にやきもきしているわたしの横を、インラインスケートを履いたスタッフらしき人々がなかなかのスピードで滑っていく。噂には聞いていたが、まさかこんなすぐに出くわすとは。この話はその後誰にしても全然信じてもらえないんだけど、本当なんだってば! さて肝心の荷物はというと、周りに誰もいなくなった頃ようやく顔を出した。いったい何してたんだわたしの荷物。

出国する数日前に会った友人の計らいによって、空港まで別の友人が迎えに来てくれた。準備にバタバタしすぎてそういうことまでは全く頭が回っていなかったので、本当に友人には感謝である。迎えに来てくれた友人には当時の彼女のブームだったらしい、日本から密輸した芋けんぴを献上した。初めての海外キャッシングでちょっとした勘違いと確認不足からくるトラブルもあったが、無事に現金を手にすることができて一安心。海外キャッシング、事前に使用可能枠とか繰り上げ返済のやりかたとかをちゃんと把握しておけば、下手に両替所とか使うより全然手間的にも気持ち的にも楽だし総合するとコスト的にもお得だと思うのでマイナー通貨の国に行かれる際は是非ご検討を。ただしスキミングには気を付けよう。実際それで友人のクレジットカードは利用停止の憂き目に遭った。フランスでだけど。

腹減ったわ、ということで記念すべきプラハでの最初の食事は空港のマクドナルドだった。どこにでもあるファストフードじゃん! と思いきや、メニューには見慣れない写真ばかりが並んでいてちょっと面白かった。朝マック的なメニューでスクランブルエッグを食べたのだけど、まあ別にうまくもまずくもないのだった。小銭用の小さな財布にずっしりしたコルナ硬貨が増えてきてちょっと嬉しくなる。公共交通機関の切符、空港や駅のインフォメーションならお札でも買えるけれど券売機は小銭しか受け付けてくれないので、ある程度小銭を持っていないと何かと大変なのだ。

バスと地下鉄を乗り継いで、空港からプラハの中心部へ移動する。家出少女のでかくて重たいスーツケースをさっと持ってくれた友人は本当にいい奴だと思う。本当に。彼女の助けもあってなんとかフラットのある建物に辿り着いたのだが、そこから最上階のフラットにたどり着くまでがまた大変だった。

なんで、「どうやって建物に入るのか」という肝心なところを事前にきっちり打ち合わせしなかったんだお前は。何も書かれていないボタンの行列を眺め、ひたすら途方に暮れるわたしと友人。もはや記憶がないが、気付いたらなんとかWi-Fi完備のリビングに辿り着き、フラットの住人たちからお茶やらケーキやらをありがたく頂戴していた。つくづく人に助けられまくりである。

プラハに滞在しようと決めた時、まず考えなければならないのが住居の確保だった。ユースホステルやドミトリーに長期滞在することも考えたが、もう少し落ち着いて暮らせそうな環境はないものか……とあれこれ周囲に相談した結果、ルームシェアしてくれるところを探せば? という提案を受けたのだ。ちょうどこの時期は夏季休暇で、みんな長期の旅行で部屋を開けたりするからシェアメイトや部屋使ってくれる人を探している人も多いはずだよ! ということで紹介してもらったサイトを眺めては英語でメールする日々が続いた。80件くらいメールしたが返ってきたのは10件程度、交渉段階まで進んだのは僅かに2件で、そのうち1つが今回お世話になったフラットだった。立地の良さ、価格の安さ、設備ももちろんだったが、大所帯でいろんな国のいろんな人を受け入れた経験があるというところに心惹かれた。こことようやく話がまとまりそうで安堵していたら、突然メールが返ってこなくなって大慌てという事態に陥ったわけだ。ほんと、迷惑メールフォルダのメールに気付いてくれてありがとうな!!(皮肉) 1ヵ月半暮らしたフラットだが、いろいろあったとはいえ光熱費や水道代、Wi-Fiなどもすべて込みで3万円ちょっとで済んだのは今考えても信じられない。あと、実際住むにあたってパスポートの提示や何らかの書類の記入があってもよさそうなものだが、メールをやり取りしていた管理担当の住人から鍵をもらって、お金渡して、終わりだった。ルームシェア自体が初めてのことだったので深く考えずにいたが、これって普通じゃ有り得ないくらい激ゆるだったのでは……防犯的なトラブルは一切なかったから別にいいんだけどさ!

そんなこんなでスタートしたプラハでの生活。住環境を手に入れたことにすっかりほっとしていたわたしは、この後1週間以上鍵の開け方のコツが掴めなくてめちゃくちゃ苦戦することになるとは知らずにいたのだった。

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