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浴槽で息絶えていた祖父を目撃した話

祖父は自宅の浴槽で亡くなった。2003年の出来事なので、執筆時の今から20年も昔の話だ。日常の最中で身内が急に亡くなると、悲しいかな思ったような行動はとれない。記憶がこれ以上薄れる前に、自分が体験した視点だけでも備忘録的に残しておく。

祖父は祖母と二人暮らし。一方、僕は26歳で両親と同居。祖父宅と我が家は徒歩2分の距離。なのでお互いに何かあれば秒で駆けつけられる立地だ。

当時の僕は、自宅の玄関前でタバコを吸うのが夜の習慣になっていて、この時もやっぱりそこにいた。一服しながらボンヤリしていると、家の中から電話の鳴る音が聞こえる。母が応答したようだ。

いつもの日常だし取り立てて気にもしなかったが、突然背後の玄関が荒々しく開いた。驚いて振り返ると、すごい形相をした父が急いで出かけようとしている。こっちが「どうしたの?」って聞く前に父は言う。


オヤジが死んだ。


僕は"2つ"驚いた。1つは祖父が死んだと聞かされたこと。もう1つは父が祖父を「オヤジ」と呼んだことだ。

親はひと度子供を持つと、教育の都合上、身内の呼び方を変える。両親はおじいちゃん、おばあちゃんになり、妻はお母さんになる。自分の子供にそう呼ばせるためだ。これを怠ると母をミサエと呼ぶクレヨンしんちゃんが爆誕する。

我が父もそうしてきた。父は祖父をおじいちゃんと呼んできた。僕が祖父をそう呼ぶよう仕向ける為に。そんな父が言い放った「オヤジ」と、続く「死んだ」は、だからこそマシマシの非日常感があった。

しかも祖父はそこまで健康を害してなかったハズである。少なくとも亡くなる前兆みたいなものはなかった中で、いきなり「オヤジが死んだ」らしいのだから、我々の動揺は計り知れなかった。

繰り返すが祖父宅はすぐ近くにある。若者が全力で走れば1分を切れるような距離だ。とにもかくにも父は祖父宅へ走った。僕ももはや一服どころではない。闇夜の中、父の後をすぐに追った。

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