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Sky再訪について景品表示法の不当表示規制から考える

 この記事は2020年9月19日にTwitterで投稿した文章に加筆修正を加えたものです。その頃、再訪制度に関して法律違反だという意見がTwitter上であり、それに対し疑問を持った者がなけなしの法律知識を使って調べまとめました。
検討の結果、私はSkyの再訪は景品表示法における不当表示に当たらないという結論を出しました。長いですが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

※読む方が再訪問題についてある程度知っているという前提の元でこの記事を書きました。そのため、再訪導入時のゴタゴタをよく知らない、聞いたことがなかったという方は、まずこの記事を読むと内容が理解しやすいと思います。
(2021.11.12 追記)


(1)はじめに

 「実際のものと、消費者が表示から受ける印象・認識に差が生じたかどうか」という面から、アドパス購入画面の表示が不当表示かどうか検討していきます。あくまで、素人が個人的に調べまとめたものです。法の解釈や考え方の過程に誤りがある可能性もあります。参考にした本やURLなどを載せますので、この文章を論拠にすることはおやめください。再訪や課金について考える一助となれば幸いです。
 まず、今回の事例を考えるのに関係があると思われる景品表示法の基本的な考え方についてまとめました。始めに断っておきますが、ここにあげたものは景品表示法の論点のうちのごく一部です。(5)以降から今回の事例について検討していきます。

(2)景品表示法の規制の目的

 景品表示法は、正式には「不当景品及び不当表示防止法」といいます。不当な景品と表示に規制を加えることによって、消費者が自主的かつ合理的な選択をできるようにし、もって消費者の利益を保護することを目的とした法律です。

景品表示法 第一条
この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。

(3)不当表示の規制

 景品表示法では第5条において、事業者がその供給する商品又は役務の取引について、一般消費者に対し、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある不当な表示の禁止を定めています。そのうち、一号で定められている「商品又は役務の性質、規格その他の内容」についての不当な表示が優良誤認、二号で定められている「商品又は役務の価格その他の取引条件」についての不当な表示が有利誤認と分類されます。つまり、優良誤認と有利誤認はどちらも景品表示法の不当表示という分野のものです。

景品表示法 第5条
 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を提供している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を提供している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

(4)不当表示の要件

 要件とは、法律に当てはまるというために必要な条件のことです。
 不当表示という同じ分野に属する優良誤認と有利誤認には、条文からも分かる通り、共通する要件があります。今回は、“実際のものよりも優良または有利であると消費者に誤認される”という要件について考えていきます。

 「不当表示は、一般消費者に、商品又は役務の内容の優良性、取引条件の有利性に関して誤認されるものであることを、その本質的な要素としている」
(馬渕博 『景品表示法』 商事法務 2015年 46ページ)
 「『誤認』とは、実際のものと一般消費者が当該表示から受ける印象との間に差が生じることを言うのであるから、社会常識や用語等の一般的意味などを基準に判断して、こうした差が生じる可能性が高いと認められる場合には、当該表示は『誤認される』ものに該当するというべきであり、現実に一般消費者の誤認が生じたことは要件でないと解される。」
(同上 53ページ)

 上2つで示されている通り、不当表示とはその表示によって消費者が誤認するということを第一の要件としています。そして、誤認とは実際のものと消費者が表示から受けた印象・認識に差が生じることを言います。したがって、その表示は景品表示法に違反する不当表示であるというためには、実際の商品やサービスと、表示から受けた印象に差があると言える必要があります。差が生じるかどうかは、社会常識や用語等の一般的意味などから判断されます。
 また、その表示を見て消費者が誤認するかどうかは、特定の文のみからではなく表示内容全体を見て判断します。(*不当景品及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針より)
 景品表示法は不当表示という行為に制限を加えるものです。不表示(表示がないこと)に関しては一般的に規制されません。なぜなら、景品表示法はこれこれこういう表示をしなさいと事前に定め、その表示がないことに関して規制する法律ではないからです。ただし、長所と不離一体の短所や長所を受けるための条件などは不表示が問題となります。

(5)今回の事案と不当表示

 今回のアドパス・キャンドル課金と再訪のどこが景品表示法における不当表示に当たると考えられるのでしょうか。
 この件が、景品表示法に違反すると主張してきた方々は、「期間限定・シーズン限定」という言葉によって、アイテムの再入手機会がないと誤認してしまったと述べています。そして再訪により、その再入手機会がないと誤認されたアイテムに、本当は再入手機会があったことを問題としているように見受けられます。もし再入手機会があるのであれば、「※このアイテムは再度提供される可能性があります」などど、再入手機会について触れた文言を同時に掲載しておかなければならないという意見もありました。

(6)アドパス購入画面の表示

 まずは、再訪制度公表前の3季節のアドパスの購入画面の表示をそれぞれ確認していきます。誤認するかどうかは表示全体を見て判断されるので、検索などで実際の画像をご覧になることをお勧めします。
 やはり、多くの人が問題に感じるのは、シーズン限定と期間限定という言葉でしょう。そのため、その部分に絞って検討をします。それぞれの季節で「限定」という言葉が出てくる文を抜き出しました。 

感謝の季節
A)「“感謝の季節”とは、新たな精霊たちとの出会い、まだ見ぬ報酬、そして新クエストが楽しめるシーズン限定のイベントです」
B)「集めたシーズンキャンドルを旅の精霊たちに贈りましょう。期間限定の特別な宝物をお礼にくれるようですよ!」
光の探求者の季節
C)「“光の探求者の季節”とは、新たな精霊たちとの出会い、まだ見ぬ報酬、そして新クエストが楽しめるシーズン限定のイベントです」
D)「集めたシーズンキャンドルを光の探求者たちに贈りましょう。期間限定の特別な宝物をお礼にくれるようですよ!」
想いを編む季節
限定という記載なし

(A)〜(C)の文章のうち、(A)と(C)の「シーズン限定」という文言はイベントにかかっている言葉です。アイテムに関して、「期間限定」という表示があるのは(B)と(D)の文章です。

(7)期間限定と再入手機会について

 「期間限定」という言葉は再入手機会がないことを示す言葉ではないと私は考えます。ここで「誤認」について再度確認をします。
「誤認」=実際のものと一般消費者が当該表示から受ける印象との間に差が生じること。その差が生じるかどうかは、社会常識や用語等の一般的意味などを基準に判断する。
上の考え方に従い、「期間限定」という言葉と再入手機会の一般の認識について考えていきます。

①「期間限定」の辞書的意味

まず、「期間限定」という言葉の辞書的な意味についてです。
 期間:一定の時期から他の一定の時期までの間
 限定:事物の範囲や数量などを限り定めること
(広辞苑 第6版 岩波書店)
二つを合わせると、「一定の時期から他の一定の時期までの間を限り定めること」となります。これだけでは、再入手機会がないという意味は見出せないと思います。

②一般商品での「期間限定」表示例

 一般的な期間限定の商品の表示を見てみます。ここではその表示について、2例あげます。

マクドナルド 月見バーガー
「月を見上げて心が通いあう秋に、今年も月見ファミリーが期間限定で登場!」
ホームページにはこのように記述されていますが、再登場することに関しては何の記載もありません。
https://www.mcdonalds.co.jp/campaign/tsukimi/
すき家 お好み牛玉丼
ホームページ記載の画像に、「期間限定」という言葉がありますが、再登場する可能性については触れられていません。
https://news.sukiya.jp/special/okonomi/index.html

月見バーガーなど期間限定の商品の再販は一般的に行われています。この2例では、再登場の可能性について何の案内もありません。

③オンラインゲームの「期間限定」表示

 次に、オンラインゲームの世界で「期間限定」という言葉がどのように使われているかを調べました。Sky以外のスマホゲームをやっている方はご存知かと思いますが、ソシャゲなどでは期間限定のキャラやアイテムが存在します。多くのゲームでは、期間限定のキャラであっても、復刻などで再入手機会を設けています。そこで、期間限定入手のアイテムやキャラの告知の際、「※このアイテムは再度提供する場合があります」などと表示し、再入手機会について案内をすることがあります。「期間限定」という表示があって米印のような表示がないことが、不当表示と言えるでしょうか。
 前に述べた通り、不当表示の規制は表示という行為を規制するものです。表示がないことに関しては、一般的に規制されません。よって、「期間限定」という表示があり米印のような再入手機会の表示がないことによって、直ちに不当表示であるとは言えないと思います。

 また、期間限定の表示と共に再入手機会の案内の表示をすることがゲームの中で一般的かどうかを判断するために、2020年8月のアプリセールスランキングの上位10位のうち、ゲームアプリ8つを抜き出して、期間限定入手と再入手機会の表示について調べました。8つのゲームのうち、6つに期間限定入手アイテムが見つかりました。そのうち、再入手機会の表示があったものが2つ、なかったものが4つでした。

画像1


 ここから期間限定という表示があっても、再入手機会の表示がないゲームもあるということが分かります。そして、再入手機会の表示がなくとも期間限定キャラやアイテムの復刻は行われています。よって、オンラインゲームの世界でも、「期間限定」とのみ表示があったことが、再入手機会がないことを一般的に示しているとは言えません。

(8)その他の表示―Twitter,Discordなど

 運営が「イベントの復刻をすることはない」と発表したことも、アイテムの再入手機会がないと誤認した理由として聞きます。確認できた範囲ですが、運営がSNS上でアイテムの再入手機会に触れず、ただイベントの復刻をしないとのみ述べた発言は見つかりませんでした。
 イベントの復刻はしないが、アイテムの再入手機会については考えているといった内容のものは、9月28日(日本時間)の公式質問会の有志レポに見てとれます。これに関連し、2020年1月31日のDiscordで運営側の発言として、「……シーズンイベントを再度開催せずに過去のイベントアイテムを復刻するかどうかについては、ライブストリームで回答をした。」(*1)というものがありました。
 また、個人宛のリプライではありますが、Android勢が感謝の季節のアイテムを獲得することができるかという質問に、「サービスイン時期の異なる端末にてプレイしていただける方々にも、終了したイベントにまつわる報酬の有無等の差異を、何らかの形で解消できるよう運営チームで検討を進めて参ります」と2019年8月20日に公式Twitterから回答しています。(*2)このことから、イベントアイテムの復刻について、感謝の季節の頃から検討していたことが分かります。また、イベントアイテムの復刻について問い合わせをした場合、似たような返事があっただろうと推測できます。

(9)結論

・「期間限定」という言葉は再入手機会がないことを示す言葉として、一般に認識されていないこと。
・再入手機会の表示もゲームによってまちまちであり、それがなく「期間限定」とのみ表示されたことによって、再入手機会がないと一般に認識されるものではないこと。
以上2つの理由から、「期間限定」という表示によって再入手機会がないと誤認したという論は成り立たず、アドパスの購入画面の表示は景品表示法における不当表示に当たらないという結論を出しました。

(10) さいごに

 個人がどう考えようと、景品表示法に違反した表示があったかどうかを判断し、行政処分を行うのは消費者庁です。そして、それに会社が不服を持ち申し立てをすれば、最終的に判断を下すのは裁判所となります。アドパス購入画面やその他の表示が景品表示法に違反していると考えるのであれば、消費者庁の景品表示法違反被疑情報提供ホームの利用を推奨します。しかるべきところが、判断を下してくれます。
 繰り返しになりますが、この文章はあくまで素人がまとめたものです。考え方や解釈の過程に誤りがある可能性もあります。この文章を論拠にすることはおやめください。これを鵜呑みにせず、ご自身で調べ確認していただけると幸いです。今回、文章をまとめるにあたって、情報の提供など協力してくださった方々に厚く御礼申し上げます。本当に助かりました。
 私は再訪やアドパスの表示が法律に違反していないと考えています。けれども、法的な問題はないとはいえ、運営の対応やお知らせの方法が良かったとは言えないとも思っています。ゲーム内で見られるパッチノートやQ&Aは検索をしても、目的の情報が見つけづらく、変更部分は元の文が残らない形で書き換えられてしまっています。それに加え、TwitterやDiscordの投稿、質問会での発言など情報が散在し、非常に分かりにくいです。“夏灯りの日々”の告知では、この点がだんだんと改善しているように感じました。今後に期待をしています。いちSkyプレイヤーとして、Skyのゲームと運営がより良いものになるよう願っています。
 ご質問、ご意見などあればお気軽にどうぞ。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

2020.09.17 初稿
2021.05.13 全体の加筆修正
2021.05.29 前文と(6)アドパスの購入画面の表示部分の修正
2021.11.12 前文の※部分の追記


↓何かあればこちらのTwitterアカウントまで
@nns61449430

<参考資料>

(*1)
TGCスタッフ(コミュニティーマネージャー)の発言より。翻訳は他の方がしてくださいました。あくまで個人的な訳です。以下、原文。
「……We’ve said in livestreams, when asked, if we’d make past seasonal contents return despite seasons not repeating(exceptions being Rhythm [previously Winter, and not to be confused with Belonging] and Gratitude which have now been repeated post-Global Launch)」
https://discord.com/channels/575762611111592007/575827782144098304/672583144926478337

(*2)
2019年8月20日、Sky公式Twitterの個人宛リプライより。


<引用・参考文献>

馬渕博 『景品表示法』 2015年 商事法務

消費者庁 不当景品及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針ー不実証広告規制に関する指針ー
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_34.pdf

消費者庁 インターネット上の取引と「カード合わせ」に関するQ&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/card/#q3

消費者庁 表示に関するQ&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/faq/representation/#q9

#セルラン分析/ゲーム株『Game-i』 2020年08月の月間売上予想
http://game-i.daa.jp/?plugin=appmonth&yyyy_mm=2020_08

Sky: Children of the Light Wiki
https://sky-children-of-the-light.fandom.com/

e-Gov法令検索 昭和三十七年法律第百三十四号 不当景品類及び不当表示防止法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=337AC0000000134