「ゴウレン」の謎

 長崎にあった「自由亭」は、日本初の西洋料理レストランらしい。いまはグラバー園内に移築されて、「旧自由亭」としてカフェになってる。
 その旧自由亭によると、当時のメニューには「パスティ(肉入りパイ)、牛のスウパ(スープ)、フルカデル(肉饅頭)、ゴウレン(魚の揚げ物)、カアレイ(カレー)、カアヒイ(コーヒー)」があったそうだ。
 さて、他はだいたい想像がつくけれど、「フルカデル」と「ゴウレン」がわからない。気になるので調べてみた。
 「フルカデル」は、現在は「牛かん」という名称になっているそうだ。「牛かん」で検索するとレシピも出てきた。牛のつみれを揚げたあと、出し汁で煮含めたものらしい。「肉饅頭」というからいわゆる肉まんを想像していたから、意外だった。

 「ゴウレン」が、わかりにくかった。調べたところ、「下味をした魚か鶏に衣をつけて揚げたもの」のようだった(素揚げの作り方もでてきたけれど)。
 ゴウレンとフルカデルのどちらも卓袱料理に取り入れられていた。いまのレシピだとどうなんだろう。ゴウレンは、素直に「〇〇の揚げ物」にでもなってるのかな。

 以下は、調べた内容。
 ②だけ「煮る」になっているから困ったけれど、これはたぶん作者が「コーレン=煮る」という語源にとらわれすぎて、本場オランダの煮鰻料理のレシピを載せてしまったんだろう。そのまえに、この献立は『長崎本・南蛮紅毛辞典』を参照したと書いてあって、当のその本に「脂であげる」とあるのにな。②を先に読んでたから混乱したけど、そのおかげで原典の①にあたって、こっちでは「あげる」になってるのが確認できたからよかった。
 ③の茹でキャベツの酢通しは、ズールコール(ザワークラウト)のつもりに思える。

 あと、⑦に「フルカーデル」と「牛かん」が並列されてるのはなぜだろう。

 話は変わるけど、②の「松本良順」は医師で、「親交のあった近藤勇と土方歳三の供養塔を、新選組二番隊組長でもあった永倉新八に請われ建立した」(wiki)人だった。
知らなかったなぁ。


①『長崎本・南蛮紅毛辞典』
一.ウナギコーレン 鰻の大きなるを丸に切、但し三寸許。横に三分許宛を隔て、浅く切之を脂であげる。但脂に塩と正油を少許宛加ふ。
<寺本界雄『長崎本・南蛮紅毛辞典』形象社、1974年、p.257>

②『日本人と西洋食』
※松本良順宅(長崎)で、オランダ人技師ハルデスの送別会(1861年2月21日)に供したメニューの一部(『長崎本・南蛮紅毛辞典』より)。
「コーケン・アール」
 次が「うなぎコーレン」である。ヨーロッパのうなぎ料理には「燻製」と「煮る」方法が多いのにヒントを得て調べたところ、「コーレン」はオランダ語の「煮る」「ゆでる」の意味であることがわかった。英語のボイルド・イール(boiled eel)、ポーチド・イール(poached eel)のことで、オランダ語のコーケン・アール(kokenaal)、すなわちkoken(煮る、ゆでる)aal(うなぎ)のこのとのようである。したがって、コーレンはコーケンの日本式発音だったのである。
「うなぎコーレン」を再現してみよう。うなぎの皮をはぎ、よく洗って五センチくらいのぶつ切りにする。このぶつ切りを浅い鍋に並べてあら塩をふりかけ、うなぎにかぶさる程度まで熱湯を注ぐ。しばらくして湯を切り、別の鍋に移して、水、ワイン・ビネガー、ねぎ、ローリエ(laurier・月桂樹葉)、塩、胡椒を加え、強火にかける。汁が沸騰したら弱火にして、ことこと〈濁点〉と二十~三十分煮込むと「うなぎコーレン」の出来上がりである。深皿にうなぎを移して、煮汁を布でこし、九州産の香母酢〈かぼす〉を絞って供する。煮汁が冷えると、ゼリー状の煮こごりになって、これまた食欲をそそりそうだ。日本人にとってのうなぎは、かば焼きにこしたことはないが、このオランダ風うなぎ料理もなかなか美味〈うま〉そうである。
<村上實『日本人と西洋食』春秋社、1984年、pp.>
※〈 〉は本文内の濁点やルビの箇所

③『長崎料理史』
「(八)ゴウレン」
 てんぷらの類で鱧でよく作ります。鱧一人分は約二十匁、メリケン粉、酒、醤油、砂糖少々、胡麻油、古生姜、葱、花キャベツ。まず鱧のおろし身を骨切りにして、酒、醤油、砂糖、少々合わせた中にねぎ、古生姜をみじん切にきざんだものを少し入れ、前の魚の身を漬込んでしばらく置きます。
 とりだしてメリケン粉をまぶし、上の粉をよくはたき、別に油鍋に胡麻油を煮立たせ、鱧の身を入れ、色よくあげて紙の上に取出して、油を切って皿の上に盛付けます。
 キャベツを熱湯に入れてさっと茹で水をたって酢につけたものを前盛にします。
<和田常子『長崎料理史』柴田書店年、1958年、pp.130-131>

④「卓話 『長崎の食文化について』」
ゴウレン(てんぷらのようなもので鱧のおろし身を骨切りにして野菜と合わせて油で揚げたもの)
(中嶋恒治「卓話 『長崎の食文化について』」「国際ロータリー第2740地区 長崎北東ロータリークラブ 2017~2018年 週報第12号(通算2044号)例会:平成29年9月27日」)
http://nerotary.org/publics/download/29/67/34/?file=/files/content_type/type019/34/201712141113585200.pdf

⑤『日本辞典』
ゴウレン(長崎県)
ごうれん【郷土料理】
具に味付けして揚げたもの。伝来した中華料理が起源。肉類が用いられる事が多い。から揚げの原型ともいわれる。
http://www.nihonjiten.com/data/40318.html

⑥長崎Webマガジン
「ゴウレン」とは鶏肉や白身魚などの具に味付けをして揚げたもの。これは、日本人の大好物!唐揚げの原型だともいわれている。
http://www.city.nagasaki.lg.jp/nagazine/hakken0910/index.html

⑦『南蛮料理のルーツを求めて』
 長崎の料亭に伝わる南蛮料理についての昭和初年の記録としてあげられているものを紹介しますと、料亭<迎陽亭>南蛮料理御献立では、フルカデル、ヒカドー、ゴオレン、パスティル焼、カルマチー、サンバル、カスドース。料亭<花月楼>南蛮料理御献立では、フルカデル、ヒカド、ゴーレン、天プラ、更紗汁、金玉糖、丸ボーロ、カスドースです。
 さらに近年のものとしては、『長崎の卓袱料理と南蛮料理』に、南蛮料理としてソーパー、ヒカド、カクテル、フルカーデル、パスティ、マンドース、タンパール、牛かん、飛龍頭、鳥ゴーレン、カスドースがあげられます。
<片寄眞木子『南蛮料理のルーツを求めて』平凡社、1999年、p.56>

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