「今ここにある危機とぼくの好感度について」第2話について

Masaki Nakamura

(第2話のネタバレを含みますので、まだ見られていない方は視聴されてからお読みいただくことを推奨します。)

4月24日より始まったNHK土曜ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」が、大学関係者のあいだでいろいろな反響を呼んでいるようです。第2話では、鈴木杏演じるポスドク・木嶋みのりによる研究不正の告発が大学執行部によって握りつぶされ、みのりが大学を去るというショッキングな結末を迎えました。

そのストーリー展開について、阪大の仲野徹先生が次のようにツイートされています。


私自身は責任者ではないものの、同ドラマに研究不正調査考証という形で協力させていただきました。ストーリーに責任を負う立場ではないのですが、そのような形で協力させていただいた立場としてはコメントしないわけにはいかないだろうということで、この件について、以下、コメントします。


研究不正についての調査は第2話の最終局面で急展開をみせ、理事たちの買収工作に上田教授は屈したという驚くべき顛末が、みのりの口から語られます。須田理事は電話口で「疑惑はすべて払拭された」「不正はなかった」と語り、ナレーションでも「帝都大学は困難を乗り越え」たと語られています。一件、不正はすべて隠蔽されかたちで終わったようにも見えます。しかし、ここで気を付けていただきたいのは、ドラマでは研究不正調査の本調査委員会の委員に上田教授が再任された段階でストーリーが終わっている点です。再任後、みのりによれば、上田教授は理事たちの買収工作に屈した様子ではあります。しかしその後の調査の様子は、描かれていません。(第3話以降で描かれるのかもしれませんし、描かれずに終わるのかもしれません。)

研究不正調査委員会の結論は、調査委員長の一存できまるわけではありません。文部科学省のガイドラインでは、公正性を担保するための仕組みとして、委員の過半数は機関の外部の有識者から選出することを求めています。

研究不正の調査は、おそらく世間一般が(また多くの大学関係者が)想像する以上に、調査委員やそれを支援する事務職員の文字通り献身的な努力に支えられています。多くの委員(や事務職員)が、本来であれば自身の研究や教育に使うはずであった貴重な時間や労力を、本人にとってはまったくメリットのない調査(しかも場合によっては、大学の評判を落としペナルティを受けるというデメリットをもたらしうる調査)に費やすことによって成立しています。それは、みのりと同様の学問への使命感に支えられてのことだと思います。そのような形で調査に関わっている調査委員会が、理事の一存で容易に結論を曲げるだろうかといえば、通常はそうではないだろう。私自身も多くの研究機関で研究不正調査に携わってきた経験から、そのように思うところはあります。


とはいえ、ドラマではかなり誇張されて描かれているとはいえ、本ドラマで描かれているような形での研究不正調査への介入が、絶対に百パーセントありえないかといえば、その可能性や懸念を完全に否定することは、残念ながらむずかしいようにも思います。

たとえば調査委員会の外部委員について、研究機関が恣意的に外部委員を選ぶことが可能ではないか、それでは公平性は担保されていないのではないか、という指摘がなされることがあります。また、調査の結果、不正が認定されなかった場合、調査が行われたことも含めて公表しないこととなっています。それは、まっとうに研究に取り組んでいる研究者からすれば、不正を行ったという疑いを受けるだけで、研究者としての評価が損なわれる可能性があるため、必要なことではあります。しかしその結果、調査委員会がどのような検討を経て不正がなかったという判断に至ったのか、適切な調査が本当に行われたかについて、第三者が検証することが困難な仕組みになってしまっています。仮に調査委員会が適切に、きわめて真摯に調査を実施していたとしても、あるいはお手盛りの調査になっていたとしても、外部からはそのことを判断することができないのです。研究機関が、また調査委員が、学問への使命感に支えられて適切に対応していることを信頼するしかありません。

このような現状に対して、研究機関が実施する研究不正調査の結果の適切性・妥当性を、第三者機関が客観的な立場から評価・検証すべきではないかという提案もなされています。研究不正調査の適切性・公正性をどう制度的に担保するかは、きわめて重要な課題です。

本ドラマでは、本来、あってはいけないことが、次々に起きています。そこで描かれているようなフィクションが現実のものとなることを防ぐために、私たちはなにをすべきなのか。そのような問いを投げかけられているように、私自身は感じています。


いずれにせよ、「今ここにある危機とぼくの好感度について」は、現在、全5話のうち2話が終わったばかりです。神崎真をはじめとする登場人物たちは、今後、どうなっていくのか。今後の展開を見守っていきたいと思います。

中村 征樹

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!