田舎の弱小中学陸上部が市内一位を取った話 ー⑥大会編ー

いよいよ、中学最後の大会の日。

我々、愉快な仲間たちの朝は早い。
市の外れの町で大会が行われるはずも無いため市内中心部の中学校が大会会場だ。物理的に距離があるので仕方がない。

電車とバスを乗り継ぎ、会場の中学校に到着。
グラウンド全体が見渡せるロケーションに荷物置き場、兼、着替え場所を陣取り、早速大会本部へ赴き、当日の競技プログラムを貰う。

この場所取りは重要だ。

我がS中学校のメンバーの出場種目は変則的だ。
通常は、
「100mに出場する選手は200mにも出場する可能性が高いから、競技時間を少しずらしておくかな」
といった調整が働いているのだが、S中の愉快な仲間たちは、
『中距離走に出場していたと思ったら、走り高跳びをやりつつ短距離種目も出る』
のようなトリッキーな動きをしてくるため、グラウンドの各エリアでの競技進捗がどうなっているのかを把握するのは死活問題だ。
(しかも、結構、競技開始時間は前後したりする)

さらにさらに、各中学校に競技の補助(走り幅跳びの砂場をキレイに整えたり、ハードルをセッティングしたり、など)のための動員割り当てがあるため、ここにも競技に支障が無い仲間たちが少ない中から参加する。

我がS中学校の中で、多くのポイントが取れる(順位が良い)計算の立つ選手はキャプテンTの400m、800m走と、別のT君の110mハードルくらいだ。

その他のマイナー競技で、目立たず騒がず穏やかにポイントを集める愉快なS中メンバー。

ナカ少年の例で言えば、一番得意な種目は800mだったが順位は6位・1ポイントしか獲得出来ず、当然のように最強中学校の身体能力モンスターらに負けていた。

一方で、もう1種目は三種競技A(砲丸投げ・100m走・走り高跳び)に出場した。

まずは砲丸投げ。
端的に言って、ナカ少年は上半身の筋肉の貧弱なもやしっ子で、投てき種目はすごく苦手だった。
砲丸投げ種目に出場する学生の平均が9mくらい投げるのに対して、7mくらいしか投げられなかった。
そうすると、他校の心無い少年たちは
「おいおい、あんな記録で出場しちゃうの?恥ずかしくねーの?」
と小声だがしっかり聞こえるくらいの感じで囁く。

でも大丈夫。
ナカ少年は、神社でのかくれんぼトレーニングを乗り越えて
"目立たず息をひそめる"
の技を習得済みだ!
(詳細は是非"④トレーニング編"を参照されたい)
しかも、本当にスゴい奴はそんな人を蔑むような事は言わないんだ。ショッパイ取り巻き達には、自由に言わせておけ!

次に2種目目の100m走。これは平均くらいの記録。

最後の3種目目:走り高跳び。
第二次性徴真っ盛りで急に伸び始めた身長と、キャプテンTの誰でも何でもトレーニングで長年培ってきたキレイなジャンプフォームを生かし、結構な好記録。

結果、三種競技全体を2位でフィニッシュ!5ポイントゲット!
ふん、砲丸投げで笑っていた奴らよ、見たか!
ちなみに、全部で三種競技Aの出場は4人。ウチ2人が我がS中学校。

こうして、コツコツポイントを加算したS中の愉快な仲間達。
大会の経過をウォッチングし、ざっと各校のポイントを概算していたナカ少年は思った。
「これ、最後のリレーで1位だったら、イケんじゃね?」

迎えた最終種目の200m×4人のリレー。

我がS中の第一走者は、ハードル競技では無敵のT。最強中学校に食らいついて、ほぼ同着の1位でバトンパス!

第二走者はナカ少年。短距離は正直得意ではないが、なぜかトップスピードが150m地点という後半の伸びを生かしてほぼ同着のまま、3走へ!

第三走者は小柄ながら太腿の断面積はチーム1のS君が最強中学校をかわしてトップへ躍り出る!

アンカーはキャプテンT。ダイナミックな走りで逃げ切り、首位でゴール!

最後の花形リレー種目をS中が制したことで、会場はややざわついた。

『S中って出てたっけ?』

最後のリレーで6ポイントを獲得したS中学校は、総合得点を僅差で最強中学校をかわし、優勝カップを手にした。

最強中学校のサッカージュニアユースチームに所属する身体能力モンスター達が、日頃から陸上部に所属して毎日鍛練を積んできたメンバーの気持ちに配慮して、最後の花形リレー種目には全く出場していなかったことを
少しだけ申し添えておきたい。

長らく全6話にわたって記してきた、『田舎の弱小中学陸上部が市内一位を取った話』も
この辺りで筆をおきたいと思う。

最後にナカ中年になって、この日々を振り返って感じた教訓は、以下のような事柄だろうか。

1:周囲に愛情を持って叱咤激励し、好きなことに打ち込めば、必ず周りはついてくる
2:勝負のルールを理解し、他者が気付いていない合理的な方法に先んじて着手すれば、勝てる
3:取り組みに遊びを持ち込む

何はともあれ、偉大なる我らがキャプテンTがいなければ愉快な田舎の仲間達が優勝カップを手にすることはなかっただろうし、皆、実は自分が優勝してやろうなんて、そんなに思っていなかった。

ただ、昔から人一倍、隠れた継続した努力を続けてきたキャプテンTを、勝たせたいと思ったんだ。

ー完ー

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