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“喜嶋先生の静かな世界”

どうも、ナカです。

自分が好きなことを説明している人、ステキですよね。
それがどんなにニッチでワケが分からない世界だったとしても、何だか引き込まれてしまいます。

というわけで、自分の好きな領域の一つである書籍についての紹介も、コラムに交えていこうかと思います。

初回はコレ↓

喜嶋先生の静かな世界
(森博嗣:講談社)

本書は、私のこれまでの人生で最も共感できる書籍の第一位に燦然と輝いている。
さらに、「マジで理系出身の人、何考えてるか分からんわぁ。」という全国の悩める友人・恋人・配偶者などを抱える皆様に是非ご紹介したい1冊だ。

作者の森博嗣は、元名古屋大学工学部の助教授であり、所謂、“生粋の理系”だ。
その作者の自伝的要素を持った小説である。

主人公は物理・数学を大得意とする橋場君。
小学~高校の授業が簡単すぎたと感じていたこともあり、夢を膨らませて入学した大学工学部でも、教科書を噛み砕いて説明するだけの授業や自分のレポートを丸写しする友人らに失望感を抱いていた。
そんな中、出会ったのが、主人公の卒業論文の指導教官・喜嶋先生だった・・・。

とはいえ、全343ページの内、喜嶋先生と出会うのは89ページ目。
それまでは喜嶋先生のゼミに所属するのだが、アメリカ滞在で姿を見せない。
「すごい先生がいるんだよ」という香りだけ匂わせ焦らしにじらして、なかなか思わせ振りな役者だ。

この後、297ページでやっと修士論文を書き上げるため、ほぼ研究室の学士~修士の数年間のみの物語なのだが、その分、描写が非常に具体的、かつリアルだ。

・大学で始めてコンピュータに触れてハマるが、1957年生まれの作者であるため、それほど台数が無く、大学の計算機センターに並んでパンチカードのプログラミングを駆使する
・修士に進むための院試で、さらに奨学金を目指す
・深夜の研究室で、ブラックコーヒーを飲みながら先輩と交わす言葉の数々
・男子理系学生のニブイ恋愛
・学会発表でのなぁなぁの空気と、それを断ち切る喜嶋先生
・研究への理解が進むにつれて、天才で即座に何でも答えを返してくれていた先生と、次第に共に議論を行うようになる関係の変化
・・・

・・・どれを取っても情景が見事に浮かんでくる。

これらの細かな描写・会話からにじみ出てくる理系人間の考え方を、是非本書を読んで掬い出して欲しいが、抜粋すると以下のようなものだろう。
●いつも客観的で冷静であるが故に、冷たい・バカにしていると取られてしまう態度
●そこに潜む、興味の対象への熱意と愚直さ
●反面、興味の無い身なりの可笑しさ
●エネルギーや時間が有限であると考える故の省エネさ
●ある仮定の下での100%を目指すが故の、100%が断言できない人間への苦手さ
●完璧を目指すが故の美意識。「このプログラムコードは下品だな」と思う感性。


空気感の一旦をお伝えするとこんな感じだ↓

友人「主人公君、数学の講義のココ教えて」
作者「先生に聞けばいいじゃん」
友人「うーん、こんな質問して、先生に馬鹿な奴と思われないかな?」
作者「思われないと思うよ。」
友人「君はどう思う?」
作者「馬鹿はこんな質問しないよ。」

最後に、理系の生態を掴みたい方々だけでなく、かつて理系大学生として過ごした方々も数々のあるあるネタ帳として、楽しめること受け合いだ。

ー完ー


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