見出し画像

"毛沢東の大飢饉"

どうも、ナカです。

本日のbook reviewはコチラ↓

"毛沢東の大飢饉"
著:フランク・ディケーター
訳:中川治子
草思社


時は1958年。冷戦下の中国。

「ソ連がアメリカを追い抜かすのだから、中国は資本主義国陣営第2位のイギリスを15年以内に追い抜かす!」
とのスローガンの下、毛沢東を頂点とする共産党は大躍進政策を宣言する。

イギリスをどのように追い抜くのか。何を大躍進させるのか。
毛沢東は
・穀物生産量
・鉄鋼生産量
を二大指標に求め、 ここに中国共産党の一党独裁と、毛沢東の個人崇拝・絶対権力が合わさることで悲劇を招くことになる。

そもそもの前提として、毛沢東の指示に失敗が有るはずがないため、各省に割り当てられる目標も必達である。さらに、他の党員との権力闘争、毛沢東の歓心を買いたいなど、様々な思いが交錯し、目標は吊り上げられていく。
「私はアナタ様の方針に全面的に従った結果、目標の120%まで超過達成しました!」
と報告を上げてくる者は、可愛がられ、出世の道が開ける。

逆の例で言えば、
「◯◯省では目標の130%の収穫量であったのに、■■省ではたったの目標通りか。その地方の役人の怠慢なのではないか」
こうした批判も発生する。

これで、準備は整った。
あとは強烈なプロパカンダ合戦と嘘の報告の始まりである。


本当は50しか穀物生産量が無いにも関わらず、「100収穫出来た!」と報告する。
昨年よりも急激に生産量が増えた理由を取り繕うために、全く合理的でない方法の成果だと喧伝する。
その報告を受けた中央政府は、別の地方にその方法を命令、逆に実際の生産量を落としていく。
また、「100収穫があったのだから、50を中央に税金として取っていくぞ」ということで、地方で食糧が困窮する中、都市部の倉庫では大量に余り、ひどい時には腐っていくほどという悲惨な状態も生まれる。


鉄鋼生産でも状況は同様で、
「穀物生産量が増えているから、多くの農民を鉄鋼に駆り出しても問題ない」
という理屈の下、各村単位という、エネルギー的には非効率な小型の設備で、鉄が生産されていく。
生産量の数字が上がることだけが目的なので、原料が足りなくなってくると、各家庭の鍋や農具まで鉄を作るための炉に放り込まれ、使い道の無い屑鉄に生まれ変わる。
こうしてまた、農業生産量が落ち込む要因となる。


日々、困窮度合いが高まっていく中、僅かばかりの村に残った食糧は、共産主義の思想の元、共同管理となり、村の共同食堂で調理がなされるか、配給となる。
結果、嫌がうえにも共産党の権限は強まり、反対意見を持つものは投獄・見せしめなど過酷な抑圧を受け、死んでいくことになる。
他方、中央からの現地査察が入る際には、そのルートだけ慎重に、民衆が豊かに暮らしているように取り繕い、また嘘が重ねられていく。


こうして、
・夢物語の目標を描き、都合の良い情報だけ聞く毛沢東
・毛沢東の歓心を惹こうとする余り、過酷な苦役を課す地方のトップ達
・暴力で食料と労働力を奪われる民衆
の関係は激しさを増しながら強固なものとなり、村は餓死者で溢れかえる。
結果、犠牲となった人の推計は非常に難しいものの、当時6億人だった中国の人口の内、少なくとも4500万人が自然推計から超過して亡くなったとされている。


中央政府から下される指令・抑圧を可能にしたものは何だったか。
それは
①『警察力・軍事力(暴力)・裁判力(検察力)』を一手に独占したこと
②身近な存在(中央の側近達)を始めに強烈にマインドコントロールし、従えていたこと
だろう。


こういう状況を見ていると、日本のある政権が最も嫌っている国が60年前に通過した道を辿り直しているようにも見える。
国家は個人と比較してとんでもない権力を持っており、簡単に私たちの命を奪うことが出来る。
適切な監視と緊張関係が有って、始めてフツウの関係になれるのではないか。


ー完ー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?