[第1話]スカード(ジャンププラス原作大賞応募作品)

○街道
昼。森の中の街道を、いかつい顔傷の剣士(ボルグ)と、お姫様な美少女(ミアラ)が歩いている。
ミアラは、顔や服はお姫様だが、ものすごく目つきが悪く、動作も男らしい。不機嫌な様子。剣士のほうは、ガタイに似合わず丁寧な所作で、どこか、おどおどしている。
森の中から現れる山賊達。
親玉「剣を捨てろ」
親玉の背後に、弓を構えた盗賊達。
ミアラ「……」
ミアラ、不機嫌な顔になるが、ボルグが庇うように前に出る。
ボルグ「わたくしたちに何をお望みですか?」
親玉「わたくしたちと来やがった」
ゲラゲラ笑う山賊。
親玉「お望みなのは、そうだな。そこのお嬢ちゃんだ。たぁっぷり身代金が取れそうだ」
ボルグ「それは差し上げられません」
ボルグ「わたくし、理不尽な要求には決して屈しません」
ボルグ、前に出る。
山賊達、気圧されて一歩下がるが……。
親玉「びびってんじゃねぇ、やっちまえ!」
山賊達が突進し、ボルグが剣を振りかぶる――。

○街道
N「――三日前」
夜。平原の街道を走る駅馬車。
駅馬車の御者席に座る御者。ランタンの明かり。
その明かりに、急に浮かび上がる、黒い人影。巨大な剣を背負った、顔に傷の男(ボルグ)である。
急に現れた男に、馬が棒立ちになる。

御者「て、てめぇ、なんだ、盗賊か!?」
御者、ボウガンを構えて人影に向ける。
ボルグ「……客だよ」
御者「なんだ驚かせやがって……」
御者、ボウガンを下ろす。
御者「御代は金貨5枚だよ」
ボルグ「……!?」
ボルグ、顔をしかめる。
御者「いやなら魔獣のエサになりな。平原狼、今年は多いらしいぞ」
ボルグ「ちっ」
ボルグ、金貨五枚を御者の手のひらにおとす。
御者「へへ、毎度」

○馬車内部
ボルグ、馬車の帳をあけて、内部に入る。金貨五枚だけあって、それなりに豪華な内装。
ボルグ「……」
上等な服の客達、無骨な戦士のボルグを見て、露骨に目をそらす。中に貧乏そうな少年が一人。
ボルグ、少年の横に座る。少年、ボルグのほうをじろじろ見る。
ボルグ「……」
少年「そのごつい剣。あんた剣士だね」
少年「ね、やっぱ剣士って儲かるのかい?」
ボルグ「はぁ?」
少年「隠すなって。ここの運賃払えるなんて、お大尽だろ」
ボルグ「……てめぇも同じだろ」
少年「お、オレはいいんだよ」
少年、ごまかす。
少年「いいよなぁ剣士。憧れるぜ。大陸三剣といえば疾風のローガン、魔刀のジニー、千剣のザイアス。ちょっと落ちて、負け戦のボルグ!」
ボルグ「負け戦?」
少年「あぁ」

○過去の戦場
少年N「ボルグってやつは、いつも不利な戦場を選ぶんだ。絶対帰ってこれない、地獄みたいな場所をさ」
少年N「なぜって? 払いがいいからさ」
戦場で戦い抜くボルグ。敵兵と切り結ぶ。
最終的に、屍だらけの戦場に一人立つボルグ。
少年N「たった一人生き残って、報酬は全部独り占め」
少年N「それが負け戦のボルグさ」

○馬車
ボルグ「……馬鹿なだけだろ」
少年N「ちげーよ、そんだけ強ぇってことだろ」
ボルグ「負け戦だぞ。そいつ一人生き残っても報酬なんざもらえねえよ」
少年「一人で勝敗ひっくりかえすんだよ」
ボルグ「ひっくりかえしたら負け戦じゃねぇだろ。逆転のボルグとかだろ」
少年「そういやそうだなぁ」
考え込む少年。
少年「じゃボルグってやつは、なんでそんな儲からないことするんだい?」
ボルグ「だから馬鹿なんだろ。いるだろ? うまい話にありついたつもりで騙されるやつ」
ボルグ「もう人殺しなんざ真っ平だ。今度こそ一山あてて引退してやる。毎回そう思って騙されるのさ」
少年「剣がうまくてもカモはカモか。せちがらいねぇ」
ボルグ「まったくだ」
※少年はもちろん、ボルグが目の前の男だとは気づいていない。
オオカミたち「ワオーーン」
その時、馬車の中に、狼の遠吠えが響き、馬車が揺れる。
乗客達、にわかに、恐れる。
ボルグ「……!」

○御者席
ボルグ、馬車の前に出てくる。
ボルグ「どうした」
御者「群れで来やがった!」
ボルグが外を見ると、牛ほどもある狼型の魔獣(平原狼)たちの光る目が、いくつも近づいてきている。
ボルグ「近づいてきてんぞ」
御者「この馬車じゃ振り切れねえ」
ボルグ「このボッタクり野郎! 何が金貨五枚だ!」
御者「落ち着け。こいつには保険がかけてある」
ボルグ「……んだと?」
馬車内部から大きな物音。

○馬車内部
ボルグ「……!」
ボルグが内部に戻ると、後部の入り口が開けられ、少年が突き落とされようとしているところだった。
ボルグ「おいっ!」
ボルグの怒声。
客達「ひぃっ」
客達「待ってくれ。これは契約だ」
少年「タダで乗せてもらってんだよ。こういう時の保険にな」
あきらめた顔で言う少年。
少年「いいんだよ。オレが降りなきゃ、みんな死ぬんだしな」
少年「なぁ、街についたら、これを……妹に」
少年、客の一人に薬瓶を差し出す。
客「あぁ。見舞い金も足しておく。安心していけ」
ボルグ「最後は金か……」
少年「そうだよ、金だよ。せちがれえよなぁ」
苦笑する少年。
少年「……じゃな、剣士のあんちゃん。しっかり稼げよ」
少年、そう言って、ふわりと身を投げる(大きなコマ)。
ボルグ「……」
ボルグ、無言で、それを見つめる。
ページかえて大コマ。飛び込んだボルグ、身を乗り出して、その手を取っている。
少年「ば、何してんだよ、おっさん!」
ボルグ「……っ!」
ボルグ、少年を馬車の内部へ放り投げる。その反動で、落ちてゆく。
少年「おっさぁぁん!!」
ボルグ、遠ざかる少年に向かって叫ぶ。
ボルグ「たかが金だろ!」
ボルグ「ガキのくせに悟った顔してんじゃねぇぞぉ!」
少年「……」
少年側。ボルグの姿が小さい。耳をすますが、声まで聞き取れない。
小さいボルグが、平原狼に襲われ、ワンパンでKOするのが見える。
少年「す、すげぇ。何者だ、あのおっさん」
  *  *  *
戦闘が終わって、ボルグ、座り込んでいる。
カメラ引いて、ボルグの下に家よりも大きな狼の死体が見える。
ボルグ「腹減ったぁ……」
星を見るボルグ。

○傭兵キャンプ
翌朝。
人相の悪い武器を持った男達。弓持ちや盗賊もいる。
腹が減ってぼろぼろのボルグ、そこにたどり着く。キャンプの一つから、女性の係員が出てくる。
係員「登録傭兵の方ですか? 任務の参加はこちらで受け付けています」
ボルグ「参加だ。飯よこせ」
係員「まず傭兵証の提示をお願いします」
ボルグ、金属プレートを見せる。
係員「ボルグさん、ですね」
係員、はっとした顔をする。
モブ傭兵達「ボルグだと? 負け戦のボルグか!」
モブ傭兵達「あの剣、あの顔の傷、間違いねぇ!」
モブ傭兵達「死神が地獄をかぎつけてきやがった!」
モブ傭兵達「ヤベぇ任務だと思ったんだ」
モブ傭兵達「クソッ、やってられっか!」
傭兵達、さっさと出て行く。
がらんとなるキャンプ。
係員「ど、どうするんですか!?」
涙目の係員。
ボルグ「どうするったって……飯だよ」
係員「むっ!」
  *  *  *
平原。テーブルで飯を食っているボルグ。
その真向かいに座っている係員。
係員「あそこに見えるのが魔女の城です。あの城を落として、不老不死の魔女の首をとる。それが任務です」
ボルグ「不老不死の魔女?」
係員「山賊が大げさな名前を名乗るのはよくあることです」
ボルグ「……」
むしゃむしゃ食うボルグ。
係員「あの……こういうこと言っちゃいけないですけど、やめたほうがいいですよ」
係員「ちっちゃいとはいえ、お城ですよ。一人で落とせるものじゃないですよ」
ボルグ「……で、いくらだ」
係員「報酬は一人あたり……」
ボルグ「それっぽっちか。せちがれえなぁ」
ふと気づくボルグ。
ボルグ「……逃げてったやつの分があるだろ。全部よこせ」
係員「ちょっと待ってくださいね。ええと……」
書類をぺらぺらめくる係員。
係員「特例ですが、成功報酬でよければ……」
ボルグ「あぁ、それでいい」
ボルグ、冷たい目で笑う。
係員「……」
ボルグに恐怖、嫌悪する係員。

○魔女の城
城の前。ど真ん中をギザギザに、ぶちやぶられた城門。負傷してうめく兵士達や、その死体が散らばる。あちこちに血。
城内の廊下。
ボルグ「死にたいやつから! かかってこいやぁぁ!」
ボルグ、狭い廊下で、同時に数人の兵士と剣で渡り合っている。
ふと気配を感じて、左手で短剣を投げ、弓兵を倒す。
ボルグM「何が山賊だ。こいつら正規兵じゃねえか」
ボルグM「こりゃ跡目争いに巻き込まれたか?」
三人まとめて衛兵を吹っ飛ばし、廊下を抜けて広間へ。全身鎧の巨漢が現れる。
巨漢「神妙にしろ逆賊! ランドルフ家に弓を引いた罪は重いぞ」
後ろに控えた兵が耳打ちする。
巨漢「なんと! 貴様が負け戦のボルグか!」
笑う巨漢。
巨漢「ならば正真正銘の負け戦にしてやろう。撃て!」
後ろの弓兵達が、一斉射撃。
ボルグ、顔をかばって前へ跳躍。鎧に矢が突き刺さってハリネズミに。血まみれだが生きている。
ボルグ「うぉぁああああ」
ボルグの一撃を受け止める巨漢。
巨漢「ぬああああ」
押し合っている間に、ほかの兵士達が来て、ボルグの脇腹を剣で刺す。
ボルグ「がぁぁっ」
ボルグ、剣を振り回す。巨漢は距離をとり、兵士達は巻き込まれて切られ死ぬ。
兵士達「ひぎゃぁぁっ」
ボルグ「ハア……ハァ……」
巨漢「しぶとい男だ! 何が貴様を突き動かす?」
再び切り結ぶ巨漢とボルグ。
巨漢「貴様も剣士のはしくれならば! 剣に懸ける誇りがあるだろう!」
ボルグ「んなもんねぇ!」
ボルグ渾身の斬り。巨漢が受けると、ボルグの剣が折れる。
巨漢「誇りなき剣など所詮そのてい……どっ」
ボルグ、横に立っていた兵士の一人をひっつかんで、思い切り振り回す。飛び散る鼻血。
巨漢「がっ。げ、げんしが、げんを……」
鼻を押さえる巨漢。ボルグ、兵士を捨てて。
ボルグ「うらぁぁぁ」
ボルグ、兵達に飛びかかってゆく。

○玉座の間
全身傷、血まみれのボルグ、脚を引きずるように玉座の間へやってくる。
ボルグ「また生き残っちまったか……」
玉座には姫(ミアラ)。目を閉じて座っている。よく見ると、姫の体には鎖がまきついており、首には大きな宝石の入ったペンダントがかけられている。
ボルグ「てめぇが不老不死の魔女か?」
ミアラ「……どなたです? この騒ぎはなんでしょう?」
ミアラ、はっと気づく。
ミアラ「外の方ですね。私を……助けにいらしたのですか? それとも」
ボルグ「……」
ボルグ、汚れ仕事に嫌気がさした表情で。
ボルグ「殺しに来たんだよ、あんたを」
ボルグ、ひとつため息をついて。
ボルグ「痛くはしねえ。一瞬で終わる」
ミアラ「お名前を……聞いてよいですか」
ボルグ「ボルグ」
ミアラ「ボルグ様……ごめんなさい」
ボルグ「!?」
と、ミアラの瞳が開く。
ペンダントが光って、宝石がはじける。
砕けた宝石から魔法陣が展開し、増殖しながら空間を埋めてゆく。
ボルグ「な、なんだ」
白い光が世界を満たす。

○街道
現在。
山賊達がボルグに襲いかかる。
ボルグ「おおおお!」
ボルグ、剣をふりかぶろうとして、思い切り転ぶ。頭の上を矢が通り過ぎてゆく。
山賊「なんだぁ、見かけ倒しかっ」
げらげら笑う山賊。
山賊「さ、お嬢ちゃん、来てもらおうか」
ミアラの腕をとる山賊。
ミアラ「さわんな!」
ミアラ、その腕をねじ上げる。そのまま流れるように短剣で喉をえぐる。
山賊「が、ぐうっ」
血しぶきをふいて倒れる山賊
山賊2「な、てめっ、どっから……」
その額に短刀が突き刺さって落ちる山賊2。
山賊達、ざざっとミアラたちを取り囲む。
親玉「小娘にしちゃやるじゃねぇか! おまえら、たたんじまえ」
親玉「多少の傷はしょうがねえが……殺すんじゃねえぞ」
山賊達「おう!」
ミアラ「……」
両手に短剣を構えて交差する構えのミアラ。
バトルシーン。かっこよく飛び跳ねて山賊達を葬るミアラ。
  *  *  *
折り重なる山賊達の死体。血。
親玉「て、てめぇら、いったいなんなんだ! おかしいだろ、見かけ倒しの護衛と、護衛より強い姫とか!」
ミアラ「テメェの知ったことじゃ、ねぇぇ!」
ミアラ、ナイフを振り抜いて、山賊を殺す。

○玉座の間(回想)
※以下、ボルグは、ミアラボディのボルグ(魂)、ミアラは、ボルグボディのミアラ(魂)を指す。
ボルグの主観視点から。
白い光が薄れ、徐々に玉座の風景が戻ってくる。
ボルグM「(なんだ、何が起きた……)」
ボルグの視界に入る、細い、きれいな手。
ボルグM「(なんだこれ、これが……俺の体か?)」
自分の体を見回すボルグ。
ミアラ「あの……」
ボルグ、振り向く(このへんから主観視点オフ)。
と、そこには、巨漢の剣士が心配そうな表情で身を乗り出している。
でかいので圧を感じるボルグ。
ボルグ「て、てめぇっ……」
飛びすさるボルグ。
ボルグ「なんだ、この声……まさか……」
ミアラ「はい、入れ替わらせていただきました。すいません……」
ボルグ「魔術ってやつか。すげぇな。どんな強いやつでも……いや強いやつほど殺せる」
ミアラ「……」
ミアラ、悲しそう。
ボルグ「俺を殺すか」
ミアラ「いえ。人を殺すのはよくないことです」
ボルグ「……」
嫌そうな顔をするボルグ。
ミアラ「それより一緒に行きませんか?」
ボルグ「あぁん?」
ミアラ「その体でここにいると、きっとまた刺客が来ますよ」
ボルグ「……ちっ」
ミアラ「私がボルグさんを守りますから、元に戻るまで、しばらく一緒に旅しませんか?」
ボルグ「も、元に、戻れるのか?」
ミアラの肩をつかんで揺さぶるボルグ。
ミアラ「すぐには無理ですけど……」
ボルグ「どうすればいい?」
ミアラ「入れ替わりは儀式で、触媒となる宝石が必要となります」
ボルグ「おい……まさか」
ボルグ、崩れたペンダントを見る。
ミアラ「金貨だと、約十万枚……」
ボルグ「!?」
ショックを受けたボルグの顔。

○街道
ボルグ達、再び街道を歩いている。
ボルグ「ちっ、しけてやがる」
手のひらに、いくつか金貨を乗せたボルグ。
ミアラ「貧乏な盗賊さんだったんですね。いいことです」
ボルグ「はぁ?」
ミアラ「盗賊さんのお仕事が儲かるなら、盗賊になる人が増えますよね。そうすると多くの人が悲しみます」
ボルグ「だぁっ。理屈言ってんじゃねえ」
ミアラ「すいません」
ボルグ「ったく、何が私が守りますから、だ。弱すぎんだろ!」

○川べり
ミアラ(ボルグボディ)の髪を切っているボルグ(ミアラボディ)。
ミアラ「ボルグさん、器用ですのね」
ボルグ「戦場にゃ床屋はねえからな」
毛を刈り終わって。
ボルグ「これならまぁバレねえだろ」
ミアラ「バレるとまずいのですか?」
ボルグ「剣士なんてやってりゃ、恨みも買う。負け戦のボルグをぶったおして名をあげようってやつもな」
ミアラ「ボルグさんなら、返り討ちに……。あ、わたくしがボルグさんなのでした」
女の子っぽい動作(ほおを包むとか)ミアラ。
ボルグ「やめろ、気色悪い」
ミアラ「申し訳ありません。殿方の仕草って、あまりよく知らないもので」
ミアラ「ボルグさんも、その……あまり足を開くのはよくないと思います」
ボルグ「そ、そうか」
どっかりと足を開いて座っていたボルグ、足を閉じる。
ボルグ「おまえのほうはどうなんだ? 追ってくるやつとかは?」
ミアラ「はい、いると思います……」
ボルグ「そもそも、おまえ、なんなんだ? 鎖につながれてたが」
ミアラ「わたくし、ミアラ・フォマルハウト・ランドルフ。ランドルフ王家の第十七王位継承者です」
ミアラ「力のことは秘密なのでひっそり暮らしてたんですけれど、一年ほど前から急に厳しくなって……」
ミアラ「わかりませんけれど、本家のほうで何かあったのかもしれません」
ボルグ「傭兵ギルドじゃ山賊扱いだったぞ。上のほうで話がついてるんだろうな」
ミアラ「来たのがボルグさん一人で本当によかったです。大勢だったら入れ替わっても殺されてました」
ボルグ「よかねぇよ、ったく。なら俺も変装しないとな」
ボルグ「なぁ髪切っていいか?」
長い髪を指で触れるボルグ。
ミアラ「え?」
ボルグ「いや、女ってな、髪にこだわるもんだろ?」
ミアラ「別に構いませんよ?」
ボルグ「そっか……」
ボルグ、きれいな髪に触れて、どぎまぎしたり。それから、ばっさり切る。
ボルグ「これで、どうだ?」
ミアラ「素晴らしいですわ。軽やかで元気そうで……」
ミアラ、ボルグの顔に触れる。興奮したおっさんが、少女に迫るヤバい絵面に。
ボルグ「お、おい、やめろ」
ミアラ「失礼しました」
ペコりと頭を下げるミアラ。
ミアラ「わたくし、元気な町娘になるのが夢だったのです」
ミアラ「ボルグさんのおかげで、夢がかないました」
可憐な(?)笑顔を浮かべる、おっさんボディのミアラ。
ボルグ「ま、うれしいなら何よりだ」
ボルグ、川に映る自分の顔を見る。
ボルグ「少し、もったいねえな」
ミアラ「え、なんですか?」
ボルグ「うるせえ、なんでもねぇ!」

○街道
再び街道を歩く二人。
ボルグ、ミアラの体を見てためいきをつく。
ボルグ「ったく。金貨十万枚なんて、どうすりゃいいんだ」
ミアラ「お仕事を見つけましょう」
ボルグ「おまえ、仕事の経験とかあるのか?」
ミアラ「ありませんけど、二人なら、きっとなんとかなりますよ」
ミアラ、手を差し出す。
渋々とミアラの手を取るボルグ。駅馬車で少年の手をとった時と、構図を重ねる。
ボルグ「せちがれぇな、まったく」
ボルグ、苦笑する。(美少女の苦笑に、イメージで、ボルグ本来の顔の苦笑も重ねる)
ミアラ「はい!」(同上。おっさんの純真な笑顔に、ミアラの純真な笑顔を)


(6987文字/補足なし)(7966文字/以下補足含む)


○シナリオ補足:キャラデザについて
・ボルグ
 美少女の中に入った、おっさん。ドレスを着てるが大股で歩き、目つきがとても悪い。
 黙って立ってるだけで、にらんでると思われる。あまり笑わないが、笑う時は大きく口を開けて、ガハハと笑う。これはこれで、かっこいいというイメージ。
 本来のミアラが中身の時は、万事がひかえめの、しずしずという感じの美少女。

・ミアラ
 おっさんの中に入った美少女。顔に傷のいかつい大男だが、動作も言葉遣いも丁寧。時折、女の子っぽい仕草も。
 それ自体がギャグだし、慣れてくると、これはこれで可愛い、というところを目指して。

・元の姿の確認
 会話の時のフキダシなどに、元の姿のディフォルメ顔とかを適宜出して、ミアラが美少女、ボルグがおっさんであることを時々確認させる。
 重要なシーンは、それぞれの体に、元の姿の精神イメージをかぶせる。

○この世界の魔法について
 精神系と肉体系の二系統存在する。

・精神系
 精神に働きかける魔法。主に聖職者が使う。
 勇気を出させたり、悲しみを和らげたり、魔獣を追い払ったりする。

 逆に恐怖や憎しみを与えたりもできるが、人間相手にマイナスの感情を与えるのは邪法として禁止されている。

 モノに込めることもでき、魔獣に警戒心を与える力を石に込めたのが結界石である。
 人格の入れ替わりは、精神系の最上位の魔法。

・肉体系
 肉体を強化する魔法。怪力を出したり、傷が素早く治癒したりする等。

 強化の他、肉体を変化させることも可能。魔獣の力を身に宿し、翼をはやしたり火を噴いたりするなど。ただし肉体変化は精神に影響が出やすく、暴走、凶暴化しやすいため、邪法として禁止されている。

 強化が変化に比べて弱いわけではない。超達人ともなれば、人の姿のまま、音速を超える機動をしたり、山のどてっぱらに拳で穴を開けたりといったことも。

・邪法
 精神系、肉体系、両方とも邪法と正法があるが、魔法そのものに大きな違いがあるわけではない。
 正法が使えるものは、ちょっと工夫すれば邪法も使えるようになるので、いざという時の隠し技として、ちょっとした邪法を習得している場合もある。とはいえ、おおっぴらに使うと社会的立場を失い、犯罪者として捕らえられることになる。

 おおっぴらに邪法を使うのは、裏社会の犯罪者などである。彼等は邪剣士、邪法士と呼ばれる。

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