[第2話]スカード(ジャンププラス原作大賞応募作品)

○街の門
街は壁で囲まれており、大きな門がある。人通りの多い門を通ってゆくミアラとボルグ。
ミアラ「これが街ですね。ご本で読んだことがあります」
街壁の内側には、石柱が等間隔に立っている(魔獣よけの結界石)。
商店街に来て、目を輝かせるミアラ(※美少女だと可愛いが、おっさんである)。
ミアラ「ボルグさん、お店がいっぱいです! 買い物しましょう!」
ボルグ「あのな、お姫様は知らねえだろうがな、街ってのは、何かと金がかかるんだ」
ミアラ「そ、それくらいは存じておりますよ?」
ボルグ「俺たちの手持ちじゃ、三日と保たねぇ。だから手っ取り早く増やす必要がある」
ミアラ「はぁ……」
ボルグ「そこで、だ」

○賭場
怪しい男達、酌婦達がいる賭場の風景。
ボルグ「赤の5に、これを!!」
ボルグ、チップを前に出す。
ミアラ「ぼ、ボルグさん!?」
ディーラー「……黒の3、黒の3だよ」
チップが引かれていく。
ボルグ「なろっ。赤の2!」「赤の4」「赤の3に全部!」

○酒場
ボルグ「クソッ、なんで黒が4つも続くんだ! イカサマだろ!」
やけ酒を飲むボルグ。
ミアラ「……」
ボルグ「おまえもそう思うだろ!」
ミアラ「あの……ボルグさん」
ミアラ「賭けで勝つことは難しいですよ。皆さん勝たれたら、胴元の人が破産してしまいますし……」
ミアラ「イカサマとかしなくても、胴元の人が勝つようにできてるんですよ」
ボルグ「んなこたわかってんだよっ」
ミアラ「(びくっ)」
ボルグ「すまねえ……」
ボルグ「剣士なんてやってるとな。いつ死ぬかわからねえんだ」
遠い目のボルグ。

○回想シーン
モンスターの群れと戦うボルグと仲間の剣士達。
ボルグがモンスターを倒していると、仲間の剣士達が食われていく。
ボルグN「小銭残して死ぬくらいなら、ドブに捨てたほうがマシだ」

○酒場
ミアラ「だから……賭け事ですか?」
ボルグ「外れて元々だ。一発でかく当てれば、剣士なんて仕事から足を洗えるからな」
ミアラ「……大変なお仕事なんですね」
ボルグ「大変じゃねぇよ クソなだけだ」
ミアラ「そんなことはありません! ボルグさんのような剣士の皆様が魔獣と戦っているおかげで」
ミアラ「わたくしたちは平和に暮らせるのですから」
ボルグ「……」
ボルグ、ミアラの純真な好意を受け止めきれず、味のある顔をする。
ミアラ「でも、これからは賭け事はやめましょう」
ボルグ「わーったよ」
ミアラ「それで今の手持ちは、いくらくらいですか?」
ボルグ、両の掌を見せる(すっからかん)。
ミアラ「もしかしてこちらの払いも……」
青くなるミアラ。
  *  *  *
おかみ「なんだい、うちで働きたいのかい?」
ボルグ「おうよ。こんな美人が酒を運んだら、繁盛間違いなしだぜ?」
おかみ「ふぅん。いいけど、大丈夫かい? お嬢様に務まる仕事じゃないよ?」
ボルグ「大丈夫だ。こう見えて修羅場をくぐってる」
おかみ「修羅場ねえ……」
ボルグをじろじろ見るおかみ。
おかみ「じゃ任せるよ。注文をとってきな」
ボルグ「よっしゃ!」
  *  *  *
ボルグ、盆を持って、混んだ店の間を動く。
ボルグ「うぉっと……」
無頓着にぶつかりそうに歩いてくる男。ボルグ、かろうじて避ける。
ボルグ「また……」
別の男にぶつかりそうになる。
ボルグ「ったく、飲み過ぎだろ……」
意識がガタイのいい男のままなので、相手が避けて当たり前のつもりでいるボルグ。
ようやく卓に近づいて。
ボルグ「おらよ」
ボルグ、盆を、どん、と、置く。
客「うおっ。あ、ちょっと!」
ボルグ「ん?」
立ち去りかけてたボルグ、振り返る。
客「えと……」
殺気を感じて気圧される客。
ボルグ「んだ?」
客「いや、注文追加って、していい?」
ボルグ「いいに決まってんだろ 酒場だぞ」
客「よかった ええと、川魚の焼いたやつと、あぶり肉、あと葡萄酒と……」
ボルグ「ふんふん」
ボルグ、不機嫌そうに注文を書き留めていく。
そこに通りがかる痴漢男。好色な笑みを浮かべて、ボルグに近づく。
ボルグ「……」
ボルグはっと気づき。
痴漢男「いて、いてててぇぇ」
触る寸前にボルグに腕をねじあげられる痴漢男。顔面をテーブルにたたきつけられる。
客「うぉっ」
注文してた客、驚く。
ボルグ「テメェ、今、何しようとした」
痴漢男「ケツなでようとしただけだろ? 酒場の女が、それくらいでガタガタ言ってんじゃねえよ」
ボルグ、無言で、痴漢男の腕を折る。ボキっと響く音。
痴漢男「うぎゃぁぁぁ、こ、こいつ、折りやがった」
ボルグ「これはな、テメェごときが触っていいケツじゃねえんだ!」
痴漢男の仲間達「おう、テメェ、オイラのダチになにしてくれちゃってんの?」
ガタイの大きい強そうな男たち。
ボルグ「あぁん?」
乱闘開始。

○酒場前
痴漢男と仲間達、肩を貸しあいながら酒場を出て行く。
痴漢男「二度と来ねーぞ!」
おかみ「……」
頭をさげるおかみ。

○酒場内部
おかみに説教されているボルグ。
おかみ「はぁ……」
おかみ「いいかい、酒場の女にも誇りってもんはあるさ。男に絡まれても好きにさせろなんてこたぁ言わないよ」
おかみ「でもねぇ、程度ってもんがあると思わないかい? 腕一本折るのはやりすぎだよ!」
ボルグ「この俺にわざわざ絡んで来るんだから、それくれえの覚悟はあるだろ」
ボルグ、腕を曲げて筋肉を誇示するポーズ。
おかみ「あるわけないだろ」
おかみ、ポカリと殴る。
ボルグ「……!?」
うつむいたボルグ、マグのビールに揺れて浮かぶ、美少女の顔に気づく。
ボルグ「……そうだった」
おかみ「とにかく、あんた、クビ」
ボルグ「はうっ」
ミアラ「あの……連れのものがご迷惑をかけてもうしわけありません」
おかみ「あら……あんたは」
ミアラ「せめて、片付けと、お仕事のお手伝いを任せていただくことはできませんか?」
おかみ「でかい図体の割に、ていねいな人だね。こっちとは正反対だよ」
ボルグ「うるせえ」
ミアラ「ボルグさん!」
おかみ「いいよ、手伝ってくれな」
ボルグ「お、俺も……」
おかみ・ミアラ「あんたは/ボルグさんは、座っててください!」
  *  *  *
ミアラ「ご注文、こちらでよろしいでしょうか」
客「お、おう。ありがとよ」
ごつい男の丁寧語に、圧を感じつつ応じるさきほどの客達。
ミアラ「何か追加がありましたら、お呼びください」
丁寧に頭を下げるミアラ。
  *  *  *
ミアラの巨体が行くところ、男達は、すいすいとよけてゆく。
よそ見していた酔客がミアラにぶつかり、弾き飛ばされる。
酔客「おうおう、てめぇ、なにぼさっと……」
振り返って大男の姿を見て、さぁっと顔が青くなる。
酔客「……す、すまねぇ」
ミアラ「大変失礼しました。おけがはありませんか?」
酔客「あ、あぁ。大丈夫だ。悪かったな」
ミアラ「こちらこそ失礼しました。どうかお気をつけてください」
毒を抜かれた酔客。
  *  *  *
客1「酒場の給仕なんざ女に限ると思ってたけどよぉ」
客2「意外と悪くねえな」
客3「しらねえのか? お貴族様の行くような高級な店は、男が給仕するんだぜ」
客1「貴族のやることなんざ、わからねえと思ってたが、アリっちゃアリだな」
客2「おう」
  *  *  *
ミアラが盆を持ってきたテーブル。みるからにヤクザな巨漢がいる。
巨漢「なんでぇ男かよ」
ミアラ「はい。男です」
皮肉が通じてない、天然のミアラ。
巨漢「代われよ! 男に酒つがれる趣味はねえんだよ」
ミアラ、おかみのほうを見る。おかみ、首を振る。
ミアラ「申し訳ありませんが、店の方針で交代はできません。ご不満がありましたら……」
巨漢、ミアラの頭に酒をかける。
巨漢「あるに決まってんだろ」
おびえている女性給仕たち。
ミアラ「それはできません」
巨漢「どけってんだよ」
巨漢立って、いきなり顔面を殴る。
ミアラ「……お気はすみましたでしょうか?」
巨漢「てめぇ、後悔すっぞ」
巨漢、武器を抜く。とげとげの金棒系の痛そうな、悪そうな武器。
ミアラ「いえ、決して」
ミアラ、あくまで動かない。
ボルグ「あのバカっ」
ボルグ、走り出す。
ボルグ、身をかがめて、ミアラの後ろにぴったり立つ(周りからは見えにくい死角)。
膝カックンで、ボルグをしゃがませ、鉄棒をよける。
ミアラ「(ボルグさん!)」
ボルグ「(拳だけ握って力を抜け)」
ささやきあう二人。
ミアラ「はい!」
ミアラが拳を握るとボルグ、その肘を思いっきり押す。
ミアラのアッパーカットが巨漢に決まる。吹っ飛ぶ巨漢。のびる巨漢。
女性給仕や、客達からあがる歓声。
ミアラ「あ、ありがとうございます」
  *  *  *
すでに離れたところにいるボルグ。
ボルグ「魂は代わっても技は、覚えてるみたいだな」

○屋根裏部屋
酒場の閉店の看板。
屋根裏。寝具を横に、座って向かい合っているボルグとミアラ。
ミアラ「おかみさん、いい人でしたね。屋根裏部屋まで貸してもらって」
ボルグ「用心棒代コミなら、もっと金取れたぞ」
ミアラ「そうなのですね。でもあまり用心棒を期待されても困りますし……」
ボルグ「そりゃそうだな」
ミアラ「あの、それで、すいません」
ボルグ「は?」
ミアラ「ボルグさんの体を粗末に扱ってしまって」
ボルグ「あぁ、気にすんな。こんなの屁みたいなもんだ」
ボルグ、手を伸ばして、ミアラの顔を触れる。
ボルグ「男の傷は勲章だからな」
ミアラ、触れられて顔を赤くする(だが、おっさん)。
ミアラ「それでですね、わたくし、あの」
顔をそらすミアラ。
ボルグ「?」
ミアラ「今日は反省することばかりでした。ボルグ様におかれましては、あああいそを尽かさないでいただけると大変にうれしく存じ上げ申すところでございますが……」
ボルグ「やめろよ。俺だって、いっぱいやらかした」
ボルグ「でも、終わってみりゃ、飯も食えて寝床もある」
ミアラ「そうですね!」
ボルグ「俺たち、意外とうまくやれそうだな」
ボルグとミアラ、拳を合わせる。
ボルグ「明日から、就職活動だ」
ミアラ「えいえいおー!」


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