「君は知らなくていい」【グノーシアSS】

『グノーシア』のネタバレが含まれます。





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 グノーシアに支配された船内で、セツが首輪を嵌められ、鎖で繋がれている。鎖の一端を握り、歪んだ笑みを浮かべるのはグノーシアのひとり、SQ。彼女の嘘を見破れず、セツは敗北を喫したのだ。

(((まだだ。この状況でも、なにか得られる情報があるかも知れない。ここは粘って、次以降のループに繋げなければ。)))

 いまだ瞳に光を失わないセツを見て、SQはサディスティックに笑う。

「残るはセツひとりDEATHな。気丈な顔してくれちゃってるケド、セツはどんな声で鳴くのかニャ?」

 SQはセツを繋ぐ鎖をジャラジャラと弄ぶと、不意に鎖を思い切り引っ張り、セツを強く引き寄せた。

「うッ……!」

 首輪を引っ張られて前につんのめり、うつ伏せに倒れるセツ。その左手首を躊躇なく踏みつけ、屈み込むと、SQはセツの爪を剝がしていった。まずは小指。

「……ッ!」

 薬指。中指。人差し指。親指。セツは歯を食いしばりながら、表情を崩さぬよう努める。

「おおう、強情ですねえ。でもお前、消されるか殺されるかしかナイのに、そんなにガンバる意味あんの?」

 SQが嘲笑う。セツは声が震えないよう己を強いて、可能な限り冷静な声色を作った。

「目的なら、あるよ。私は情報を集めているんだ。『SQ』についてはもう揃っているんだが、そうだな。『君』の名前が知りたい。『SQ』の身体に移植された、母親である『君』のだ。」

「お前……」

 SQは訝しんだ。会って間もない軍人が何故そのことを知っている?それにセツのこの余裕。

「気に入らないね……」

 SQは部屋の奥から赤黒く汚れた金属塊を引き摺ってきた。ジムのトレーニング器具を歪につなぎ合わせてハンマーの形にしたもの。他の同乗者を手にかけた際にも使っていたものだ。SQはそれを難儀しながら持ち上げ、振りかぶり、セツの左腕へ振り下ろした。

「ぐッ……!」

 肉がつぶれ、骨が砕ける音がSQの両手に伝わり、セツへの不快感を加虐の愉悦で上塗りする。SQはもういちど凶器を振り上げ、振り下ろす。左脚。

「ぐ……ううう……」

 セツは苦痛に呻く声を抑えきれていない。SQは目を細める。もう少しだ。もう少しでこのオモチャは芯が折れて、壊れる。オモチャとしてあるべき姿になる。SQの眼が暗い喜色を湛え、口角が吊り上がる。うつ伏せのセツに屈み込み、顔を近づけると、子供をあやすような声色でささやいた。

「ハデに潰れちったNE?もうナマイキ言う元気も残ってないかニャ?」

 セツは限界が近いことを感じながら、どうにか声を絞り出す。

「……正直、恥ずかしいんだが、潰れる、のは、一度……経験、が、あるんだ。……思えばあの時、だった、な。アイツが……」

 そう言いながら、セツは先に次のループへ飛んだ戦友を想った。

(((この鍵を私に寄生させてループに巻き込んだことをアイツは気に病んでいたが、アイツは潰れて死ぬはずだった私に命をくれたんだ。それに、アイツとの旅はね、それは色々あるけれど、何だかんだ楽しいんだよ。)))

「ふふっ。」

 セツの心に温かいものが湧き上がり、笑みがこぼれる。それを間近で見せられたSQは対照的に、不快感に顔を引きつらせる。

「お前は、つくづく気に入らない。……もういい。」

 SQが凶器を振り上げる。

「教えてやる……アタシはマナン!この痛みごと記憶に刻み付けて、死ね!!」

 振り下ろす。右脚。右腕。そして内臓。頭を潰さないのは、楽には死なせないということか。セツの意識が遠のき始める。

(((「マナン」か。特記事項じゃなかった訳だが、僥倖だよ。アイツはきっと、ここまで耐える選択肢を持たないだろうから。)))

 意識を手放す直前、自分を騙しきったグノーシアに一矢報いるため、セツは別れの言葉を口にするのだった。

「また会おう、マナン。まだ確かめたいことがあるんだ。」


……ザザッ。


 1日目。メインコンソールにたどり着いたセツは自分の左手を見ていた。何もなかったかのように元通り。拳を握って、開く。動作は嫌味なほど正常だ。しかしいくら身体が元通りでも、痛みの記憶は消えない。その代わり、痛みの果てに手に入れた情報もまた消えない。

 マナン。彼女について、セツにはひとつの仮説があった。もしそれが正しければ、きっと現状を打開する糸口となるだろう。ただし、それを確かめるにはマナンと、そしてSQと、何度も繰り返し接触する必要があるのだが。

 その時セツの思考を中断させたのはドアの駆動音だった。入ってきた戦友の顔を見る。随分と久々に会ったような心地がするな。君に比べると失敗も多くて頼りない私だが、もし私がこの状況をすべて解決できたら、君も褒めてくれるだろうか。かっこよかった、と言ってくれると嬉しいな。だから君は知らなくていいんだ。この痛みも、痛みと引き換えに得た情報も。

 メインコンソールには既に全員が揃っている。セツは正面に向き直り、新たな戦いの幕を開いた。

「じゃあ、始めようか。敵を——見つけだすんだ」


(おわり)


後記:

 以前妄想した内容をテキストに起こしてみましたが、似た発想をした人が他にいそうだなと思いながら書いています。もしネタかぶりがあったらごめんなさい。グノーシア二次創作に関しては不勉強ですので、何卒。

 ついでに心残りとして、もっとD.Q.O.設備をフルに活かした素敵な痛めつけ方があったはずだと思うのですが、イケてるやり方が思いつきませんでした。実際それで完全に手が止まり、お蔵入り寸前になっていたのですが、「別にゴアが書きたいわけじゃないからなあ」と思い直し、その部分を妥協して作業を再開しました。全体的に楽しく書けたと思います。

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