潜んでいる『才能』

先日早朝からティッシュ配りのバイトをした。意外と寒くてもう少しで終わる、というところで、配っている場所の前の建物の警備員らしきおじさんに声をかけられた。

え?怒られる?敷地内には入ってないぞ。と恐る恐る話を聞く。

『そのティッシュちょうだい。それと、頑張ってるから、これ、あげる。』

そう言って手渡されたのは、プラスチックの結束バンドで作られたバッタの人形だった。細かい触覚や足、羽根の感じもよく出来ている。

『いいんですか?凄い!ありがとうございます。』と言いながら頭を下げると、おじさんが首から下げている社員証らしきものの横に、同じバッタが色違いで何匹か付いていた。

こういう時に私はいつも面食らう。出たな、才能。と。一見普通のおじさんなのに。おそらくゴミとして捨てられるであろうこのバンドを使って、ホッチキスやテープなどを使わず、編み込むだけでこれを作ってしまう事。これを才能と言ってしまうといささか大袈裟かもしれないけれど。

『最小限のもので、最大限のセンスを出せる人』に、私はとても憧れる。

そしてそれを名前も知らない私に、しれっとくれる事も。

『お互い大変だけど、頑張ろうね。』という優しい言葉付きでだ。

嬉しさと、何故だか嫉妬心が入り混じった、変な気分でバッタを見てしまうのだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?