近藤誠医師 がん放置説⑧
著名人の援護射撃
ベストセラーになった山崎章郎さんの『病院で死ぬということ』が出版されたのは1990年です。この本を読んで、私はつくづく病院で死にたくないと思いました。病院で死ぬことをさけるためにも、なるべく病院には近づきたくないと思ったものです。
病院で亡くなる人たちの、あまりに悲惨すぎる事例が、いくつも紹介されていたからでした。この本を読んだ人たちは、病院でこんなに非人間的な最期を迎えたいとは思わないはず。病院のひどさを指摘してくれた山崎医師には好感と信頼感をもちました。私にとっては近藤さんと並ぶ医学界のヒーローでした。
そんなわけで、私にとって山崎章郎医師は良心的な医者の代名詞的な存在だったのですが、その山崎医師が、近藤さんのがんもどき説に賛同しているのです。
彼は『あなたの癌は、がんもどき』を評して「医療者のアイデンティティーを揺さぶられる内容。だが、患者本位の医療とは何か、見つめ直すことにつながる」と朝日新聞で語っています。
あの穏やかな風貌の山崎医師も、本気で近藤説をみとめていたのです。最強の支援者。患者の味方の代表的な人物である山崎医師ですら近藤説を絶賛したのですから、一般の読者が近藤説を信じるのは当然の結果だと思うほかありません。
近藤さんの本につづけて愛読するようになった安保徹医師の本にも、似たようなことが書かれています。
安保さんも、はっきりとがんの三大療法、つまり手術、抗がん剤、放射線を否定しているのです。苦痛がつきもののその手の治療を受けるよりは、体温をあげて免疫力を強めるべしと説いています。
なかでも私が惹かれたのは、安保さんの力説する「免疫力」でした。それは健康に生きるためのキーワードにも思えました。
めったに風邪をひかず体温もたかい私は、安保さんの本を読んで、自分の免疫力に自信をもってしまいました。がんになっても自然に治るような気がしたのです。
その安保さんががんの治療を否定しているのです。医療ががん患者の病状を悪化させていると言います。安保さんは新潟大学の教授でしたし「免疫学の世界的権威」とあちこちで紹介されています。そんな人が近藤さんと同じことを説いているのです。
近藤さんの説を安保さんの説が補強している。そんな感じを受けました。それもまた私が放置を選ぶことになった一因でした。
近藤さんのがん放置説が広まった背景には、山崎さんや安保さんをはじめとする著名人の影響も大きかった気がします。放置説は、彼らによってさまざまに補強されて流布されたのです。
放置説に反論する本は本屋さんでも目立ちません。大きく広告が出るわけでもありません。図書館にも近藤さんや安保さんの本はあっても反論本はありません。
病院や医療と無縁に生活している一般人の私には、放置説が間違いであると気づく手立てもありませんでした。