すべてを変えた あの日…(15)

この手記を残そうと決めたのはここに記す彼等の声を届けたかったからです。それでもここに記すことができるのは一部、伝えられないことが多く私達のなかに染み付いています。この震災がなければお互いに知り合うこともなかったからこその縁があります。私達の取材は無理やり相手から何かを奪い取るような押し付けるようなやり方はしない。何度も会い会話を重ねる中でふと吐き出した思いを書き残し、その瞬間を写し出したものでありたかった。それは彼等の素直な心を写し出したいと思うから。なぜなら私達は媒介者にすぎないからです。
私達の言葉や写真がこれら彼等の心を伝える為の一助になっていれば幸いです。

<彼らの言葉をここに記す>

ある若者がいった。
「 重いものが心の中にある。何十年何事もなく生きられるのか」

「考えると不安になります。ずっと心の中に重いものがあるのです」


「命をつないでいく。何があってもこの子を守り抜く」

「避難所生活は長がった…」

「船で沖へ出て助かったんだ」

「水は未だに給水 一か月近く ロウソクの生活 」

「今は漁出れない。生活が苦しい。 んでも堪えねばならねえ」

「奇跡的に残った種で初めてのワカメ漁。 朝から家族総出だよ」

「負げねえぞ。俺たちの手で復興する」

「全部流されたけど俺たちずっと友達」

「僕ね、お外でみんなとかけっこしたいんだ」

「みなさんに助けられて こうして生かされてます」

「 見つけてあげたい。一人でも多くの人を見つけてあげたい」



「自宅に戻った夫が9月に亡くなった。 今は息子夫婦と3人暮らし」

「近所5世帯で子どもを助けようとしたが、流れてきたガレキに阻まれ 5名亡くなった」

「顔を見せてくれるだけで嬉しいよ」

「家族も友達もいなくなって一人ぽっちよ」

「こんな思いをするなら嫁に来なけりゃよかった」


「お父さんが優しい顔に戻ったの」

「あの日高台のこの八幡様に人が溢れていてね、ここから流されていくのが 見えたんだ」

「観光地の浜に早く戻さないと、人がいなくなっていくよ」

「沖へと船を出さなかったら、こうしてまた孫を背負うことはなかった」

「多勢の方々からのご支援を力にして、元気に明るく生活していきます」

「あの震災があって皆で車中生活して、でも普段通りの生活が戻りつつあった頃から生きてるのに家族はバラバラになりました。家族も家もちゃんとあるのに、あの時の思いを忘れてしまっているのは私達も一緒なんです。どうして…って。 家族も家も無事だった私達は本当の被災者じゃありません。同等なんかじゃないんです。 震災後おかずなんて贅沢できないけど、近所の竃を借りて毎日この海苔でおにぎり食べてました。当たり前のことがすごくありがたいものなんですね。 恥ずかしいけど、無くさなきゃ分かんないのかって言いたい人間もいるんです。 失ってから後悔しても遅いから…。伝えたくても届かないところへいってしまったら遅いから…。弟は三日間連絡が取れず避難したビルの3階からヘリで救助されました。 私は忘れない。 沢山の人の手は、ここを助けてくれました」

「被災したこの地では子どもたちは不便ながらも、それを受け入れ毎日を送っています。 この先いつか必ず今回目にした経験が何かの役に立つことを願っています。息子が大きくなった時この震災のことを伝えたいと思います。 8月9日に津波で行方不明だった同級生が見つかりました。長い間水が引かず見つからなかったのです。結婚し二人の子の父親なのに。遺された家族のことを思うと本当に悲しいですね。彼のお母さんも津波が憎いと話されていました。彼は気仙沼で見つかりました。車を取りに戻る途中で津波にあったようです。生き残った私達は無念ながらも亡くなった方達の分まで強く生きること。そして津波のことを後世に伝える義務があります。 私の家族の間でさえ震災から5カ月経って既に温度差を感じます。世の中はもっとです。どうかこの震災を皆んなの心から忘れることのないよう…。ただこうして色々な方々との出会いやご支援に父母も本当に感謝の気持ちでいっぱいだと話しておりました」


「私達家族は命も家も無事でした。震災後の不便な生活もそれなりに楽しみながら過ごしました。ただ義妹はガレキの中を毎日通い仕事を続けるうちに変調が現れました。PTSDと診断されました。今はガレキが残る街を歩けないのです。薬を飲みながら内陸の方にアルバイトに通っています。彼女の人生にこれからこの病がどんな影響をしていくのか心配でなりません。でも、生き残った私達は強く生きなければ。この子に伝えていかなければと思うのです」


「いっぱい愛をもらったから、ありがとうって気持ちで皆さんに千羽鶴を折ってるの。この避難所ももう9世帯しかいないけどやっと仮設当たったの。あんた達の来るの待ってたよ。今度は仮設に訪ねてきてね」

「子供達の顔を見て重いものが心にあると実感した。この子たちが涙を見せるのは余裕があるから。本当に苦しい子は涙が出ない。理由の一つは現実をまだ受け止められない。涙を流すことは感情を大きくしたり小さくしたりしている。救いである。何故できるか。ダンスで表現するということをやってきたからだ。感じる心を出すことをやってきたことは早めに震災の恐怖から抜け切ることができる。 泣ける子はこの子たちだけかも…。泣けない子はいっぱいいる。まだ心の中の整理がついていない。阪神淡路の震災の後も3年後に自殺者がと聞いている。 何十年?終息までかかるのかという事実。被爆した事実が分かった時にどれだけ苦しくなるか…。自分の気持ちを出すことができる子をもっと増やしていかなくては。我々の手で沢山の人を救っていければ。 このスクールも子供達のダンスがやりたいというので再開した。 子供達は自分達で何かやろうという。お前達子どもだから何もできないだろうというと、踊ることができるという。皆を喜ばせたいという。 正直、何で子供達は帰って来るんだ?と。自分は毛布を被り食べ物を貰いにならんでいる。被災者になっていると思った。まず被災者にならないことを約束させた。 子供達よ、強く生き抜け。そして救う側の人間になれ。 被災者の心になってはいけない。被災者から抜け切れ。君たちは救う側に立て。 自ら手を差し伸べる人間になれ」


「被爆って実際よくわからない。実感ない。事実を受け止めるのは怖い」

「私達は伝えていく。将来までつなげる」

「生まれ育った福島で今も生きている。福島の人間として誇りを持ちたい」

「私の夢は普通のことだった。でもそれができるか不安。それができなくても生きる」

「可哀想だとか怖がっているという目で差別を持った目で見て欲しくない」

「怖さは伝えていきたいけど私たちは関係なく楽しく生きている。 ダンスは私達の心の表現」

「同じことが二度と起こらないように、当人しか分からないことを私達が多くの人に 伝えていきたい」

「普通に暮らしたかった。普通のことが普通でなくなり、普通じゃないことが普通になった」


「放射能が危ないとか言われても分からないし、どうしたらいいか分からないし、被爆しているのか何も感じてないから分からないけど被爆は事実。よく考えると怖いけど、だからってどうすることもできないし考えても余計怖くなる。でも伝える方法を自分達は知っているし、自分の気持ちをダンスで現わせるから他の人の分も伝えていきたい」

「好きで被爆したわけでもないのに周りからそう見られて…。それでも私達は頑張って生きている。 将来は真っ暗だけど今は大好きなダンスできてるし被爆してても生き生きしてられる。
被爆してるからって私達は関係ない。自分達が経験したことを伝えていきたい」

「その時お兄ちゃんと二人きりでお母さんいなくて怖くて。何があったか分からなくて、お兄ちゃんっていっても返事聞こえないし、周りがどんななってるか分からないし、そんな怖い経験した。 被爆しているこれからが不安」

「言えないまま我慢している人もいるから皆な一緒だよって世界中に伝えたい」

「地震の後、被爆という言葉を知った。東北の人とそうじゃない人と考えてること違うから伝えていきたい」

「生まれてから福島にいるのに原発があるのを知らなかった」

「あの後、皆んな忘れている。前の生活に戻ってるのが悲しい」

「将来、福島出身であることを言われると悔しい。生まれた場所を皆んなに教えられないのが悲しい」

「福島出身と堂々と言えるように強くなっていきたい」

「そんなこと思ってもしょうがない。前に進まなきゃいけない」

「震災あってからずっと怖くて。それを体験したこと、ダンスは私しかできないから。 福島は頑張ってるって伝えたい」

「家は無事、隣の家は亀裂が入っていた。親戚はこの近くだけで遠方はいない。 避難した所に9日間くらいいた。でもそこは線量が高かった。
マスクをつけ水も野菜食べなかった。 おばあちゃんが作ってくれた野菜が食べられなくなった。 今は元のように生活している。それでいいの? 」

「私達は内部被爆している。でも30年も50年も生きたい」

この地を踏み空を仰ぎ祈りを捧げました。

そして私の中に刻まれた声がありました。

声なき声をひろいたかったのです。


<こころに刻まれし声>


父と 野球をした あの日
僕が父の球を つかんだ グローブ
青い空は あの日と おなじ
残ったのは 僕の グローブだけ
父も 僕も もう いない


流され 運ばれし 行く先は
天の丘
さあ 一列に いらっしゃい


わたしの 生きた場所は どこでしょう
さまよい 歩きますが
見当たりません
わたしの 靴は どこでしょう
彼の地へ 行く道 歩くため
片われを さがして いるのです
わたしは いったい どうしたのでしょう
どこに いるか わかりません
わたしは あの 黒い波に のまれたあと
どうなったのでしょう ただ 知りたいのです
どうか 私の靴を さがしてください


明るきところへ ゆく道は
行けど 辿れど 迷い道
されど ただ 道 歩くのみ
ただ ただ 淡々と



あの日 君がいた このイスに
消えた おもかげ さがしても
イスが あるだけ


行方知れずの 父 おもう
たたずむ 吾子の こころから
なみだ したたる 肩をたたき 抱き寄せし 再会
うれしさと
いずこへと
途方にくれて
惨状に たつ

くらくらと まわれ まわれし 大地から
うねる波 よせ のみこみし
ああ 吾子よ
いずこへ 旅だち ゆきたのだ
今朝の 笑顔をのこし 消えたのだ
きみの ぬくもりは もう ない
ザップン ざっポン どーっ ごおおおお


ああ うつしよ 無となりし 無常


地をさらい 黒い波に のまれし 現世のあと


波に ひかれし 黒々と
逃げども 逃げども 追ってくる
地を 這い 追ってくる 波の かまくら
二度と もどれぬ 波の ほこら うつしよの かたみ
すべて おき
たまのみ とびて
かへる ふるさと



ざめざめと 雨粒 すべて ながれ消し
されど 地の底 ひそむ 影
深き 深きに とどまりし
大地に かへり 守らしむ


母よ 父よと さけびし声も
黒き波に のまれし 消されゆく
ああ 母よ
布団を とられ 寒かろう
ああ父よ
支える杖なく つらかろう
いたわる 父母の 姿なし



先だつもの おもひのみ
なかまと 手をとり あがってゆくぞ
持ちているのは 互いの手
つなぎて ゆくのは みたまのみ


木の葉 一葉 ながれつく
ながれ ながされ
彼の やすらぎの 地へ
待ちて いるのは みおやであるぞ
かへりたまひし
ようやくに


いちまつの いのち きえさり ふるさとへ
かへりし みたま ふたたびに さく


かざしもに ふきたまるる こんわく まきちらす
ちりぢり とびゆく ねごう ちへ
もちて ゆかりし みたまのみ



なくな わが子ら みな いっしょ
なみだに くれても 夜は あける
旅にむかう 列をなし
道にしたがい すすむのみ
なれど 残せし 思いに とまり


こきざみに 揺れし大地に おののきて
舌を振るう 波に 呑まれし子
声もとどかず ただ 呑みこまれ
かへるところは 御祖のむね


仇同士の いざこざ ありても
一旅 肩よせ なつかしむ


いざ すすめ ゆかん
さりならば かたずをのみ まいしんす
さくらちる はかなき いのち
いしずえ もち すすまんとす




こはくいろの いしを しきつめて
なき なきながら じゃり じゃり ふみしめる
じゃり じゃり じゃり



なみまの そらより みえるしま
おひさま てらせし ひかるなみ


吾子を さがせど みつからぬ
なみに のまれし 水神のもと


みおやは どこぞ さがしても
手をつかめぬ 空となり
その清き たまは 天上の
みおやの やさしき まなざしのもと
つどいしときに であう たま



さきがけて いかねばならぬ さだめなり
ながれにまかせ とうとうと
なまみの からだ つかわせし
かじとる やかた ひとりなり
ぬかるみ さざなみ たちし いわまから
こえだけ きこゆ とおきより
まろく わかるる ひがきたり
さめざめ なく こらに てをそえて
ともに まいろう その みちへ
わがみを たてて つかわせし
そなたの みこころ ともしびと なり


ながきとき まちこがれし ときを むかえ
さいせい ありし このよにて
もちたまひし こころのみ
さずけて またも もどれし よ
うきよ うきたま あずかれし
なまみの からだ すておきよ


さずかりし みたま どうせよと
ながす なみだで きよめたまえ
しずかに たいわ よく するぞ なにかは しらねど
すぐるものなき
しるし ありて いみを とう


りん りん りん りん
まるき あおい しらべに
のり なり おどり ざわめくなり
われ たましい みかたく なりし
いずこへ ながるる たきとなる
さじなげし ときもたてば うまくなにごとも ゆかんとす
しろき たまもて なつかしむ
こたえ もとむる ことなし さきだち むかう
なつぐも たちさわぎ しるしめす
われも さきだち ゆかねば ならん


このよに うまれし ときを とう
なかまるの しろき つえ もち たぐりゆく
まわれ まわれ ぐるぐると
そつなく こえた とおげのみち
きたみち もどれず さきゆき くらし
なれば ひかりもて ゆくのみぞ


つながっているのが ねはん


あなたの心に翼あることばの一つ一つが届いて和らいで解き放たれていきますように。 サポートよろしくお願い致します✨