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木を植える(1)

庭らしくするために、まずしたかったのは、木を植えることだ。庭における木の役割は多様だ。季節ごとに変わる葉や花の様子を楽しむ、外からやってきた鳥や昆虫の住みかとなる、落ち葉が堆肥になる、木陰をつくり家屋まわりの気候を快適にする、南側の進入路からの視線を遮りる、少しずつ成長する姿を慈しむ。多種多様な木が、寄り添うように育つ庭が理想だった。(妻にも意見を求めてみたが、食べられない植物にはさほど興味がないようで、好きにすればよいとのことだった)

いろいろ調べてみると「雑木の庭」というコンセプトが、私の作りたい庭に近かった。そこで、雑木の庭に関する本を借りたり買ったりして、植える樹種や配置を検討していった。曰く、高木と低木をバランスよく組み合わせること(立体的な見栄え)。落葉樹をメインにしつつも常緑樹を効果的に取り入れること(冬場の緑や目隠し)。花の咲く時期が偏らないようにすること。直線的ではなく、偶然に配置されたようないくつかの植栽の島を設けること。基本は好きな木を植えるが、周囲の自然に溶け込むように、在来の、なるべく近所に生育する樹種をメインにしたかった。もともと、家の南にある斜面林にはコナラ・アベマキといったどんぐりの木が多かったことから、そこから自然に繋がってゆくようなイメージで、図面を描いてみた。

大まかな配置と樹種が決まれば、いよいよ苗木の入手である。愛知県には稲沢という苗木の生産でよく知られた街がある。初夏、その街の神社で開かれる苗木祭りに出かけることにした。大きな木は配送を頼んだり、植え込みを依頼することも可能だったが、そこまでの予算は用意していないし、自分で植えた木を小さなうちから育てることをしてみたかった。そもそも、所有するワンボックス車に入る大きさの苗木はたかが知れている。

入手した苗木は、思い出せる限りで次のとおりである。

  • ヤマボウシ(日本の在来種で、春に白い花が咲く。株立ちのやや大きめの苗だった)

  • マルバノキ(家から近い岐阜県美濃地方によく見られる、丸い葉がやさしいイメージをもつ木である)

  • クコ(実が食べられる低木)

  • ロウバイ(早春に真っ先に黄色い花を咲かせる木。楽しい春の兆しを感じる庭の目印にしたかった)

  • シュンラン・イカリソウなどの下草

苗は、がんばって車の中に格納したが、後部座席の2歳の双子の手がちょうど届く位置に、葉っぱがたくさんぶら下がる格好になった。帰路、二人とも、ずっと「ぱっぱ、ぱっぱ」(葉っぱの意味)と言い続けていた。

いくつかの苗がそろったが、植木市ではコナラやアベマキなどいわゆる雑木のよい苗がなかった。そこで、樹木の苗を送ってくれる通販圃場をみつけて、ほかにイロハカエデ・ネムノキなども含めて送ってもらうことにした。しばらくして、大きな段ボールが届いた。

かくして、家の裏には、植えるばかりになった樹木の苗がたくさん並ぶことになった。

※写真は家の周りの雑木林


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