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古典ギリシャ語語形変化分析ツールについてまとめてみたかった

 皆さんはギリシャ語の語形変化はお好きですか?私は大ッッッッ嫌いです!!!!毎回「死ね!!!!!!!!!」と思いながらギリシャ語読んでます。
 
 …いやまあ、ギリシャ語のカッコいい響きに憧れて学び始めたのも事実なんですけど、それはもう昔の話。いや今だって心に余裕があるときは楽しむ余裕もありはするんですが、それなりの文量を読むとなると、ね…。
 
 だいたい、不規則な変化が多すぎんだろギリシャ語!特に動詞!!もはや規則変化に出会ったら逆にたじろぐレベルで不規則変化ばっかじゃねーかよどうなってんだ????
 
 というわけで、そんな困ったギリシャ語の語形変化を解析してくれるツールをご紹介したいと思います。
 
 とはいえ、後述のPerseusなんかは有名で、ギリシャ語読解の記事では必ずと言っていいほど紹介されるものなんですが、そういえばこれ系ツール紹介まとめ記事みたいなのってまだ無い…?と気付いたので、もしかしたら微力ながら誰かのお役に立てれば、とこんな記事を書いてみた次第です。

 とはいえギリシャ語をバリバリ読んでいる方からは「そんなの常識でしょ(藁」と思われてしまうかもしれませんが、まあこういうのはネットの海に書き散らすことに多少の意味がないでもない、と思って大目に見ていただければ…。
 
 なお、以下で紹介したツールとの出会いは偶然で、しかも使い方ははあくまで我流なので、トンチキなことを書いている可能性も多分にありますのでご了承ください。
 
 というか、「これも使いやすいよ」とか「こういう使い方するともっと捗るよ」みたいな情報をご存じの方いらっしゃいましたら教えていただけましたら幸いです。


ALL THE GREEK VERBS

 まずはアナログな手段から。ALL THE GREEK VERBSという本があるのでそれを使います。この本は、動詞の変化形から元の形を調べるための専用の本で、今のようにデジタル系ツールが充実していない時代はまさしく救世主でした。

 もちろん物理書籍である分、ページ数の都合によりすべての変化形を完全に網羅しているとまではいかず、ある程度使用者のギリシャ語知識で補う形にはなってしまいますが…。
 
 逆に言えば、今回ご紹介する中ではツール依存度を抑えることが可能なので、あんまりズルせずに自分の力でギリシャ語を読めるようになりたい!という方には適していると言えるかもしれません。
 
 ちなみに今は電子書籍版もあるらしいのですが、パラパラめくりまくって使う本という性質上、電子書籍だとちょっと使いにくいので紙で買ったほうがいいかもしれません(と思ったらAmazonで昔よりかなり値上がりしてる…!?)。

Perseus Digital LibraryのGreek word study tool

 これは有名サイトなので知っている方も多いと思いますが一応。タフツ大学の提供する神サイト。以下、省略してPerseusと呼ぶことにします(ところでなんでペルセウスなんでしょう…?調べてないのでわかりませんが、個人的にはギリシャ語の複雑な語形変化という名のメドゥーサをブチ殺してくれるからだと勝手に思っています)。

https://www.perseus.tufts.edu/hopper/morph

 使い方は至って簡単。ごくごく普通に検索窓に調べたい単語を入れりゃいいんです。
 
 ただし、ギリシャ文字とローマンアルファベットの対応は検索窓の下の画像の通り入力しないといけない点に注意。たとえばθはqと入力しないとダメで、ローマナイズのノリでthと入力してもダメです(τηと認識されちゃう)。
 
 ちなみに気息記号・アクセント等は無視しても大丈夫なようです(検索結果にもあんまり反映されない?)。それから、調べたい単語をギリシャ語でコピペできるときには、ローマンアルファベットで入力せずに直接ギリシャ語を入れてもいけます。
 
 それで検索結果なんですが、まずは語形変化を解析した結果が出てきます。動詞の場合は人称・数・時制・法・態など(その後にepic(叙事詩形)だの何だの捕捉情報が出てくることも)。
 
 解析結果に書かれている略号は解説不要かと思いますが、一点注意したいのは態の「mp」との表記。これは「middle/passive」の略で、「中動あるいは受動」の意味です。大幅な省略になってしまっているので初見だと、mp…?なにこれ?マジックポイント…?とかなってしまうかもしれないので一応注意喚起しときます。
 
 で、単語の意味についてはShow lexicon entry inの横のお好きな辞書をクリックすれば表示されます(大抵の場合LSJだとは思いますが)。
 
 他にも辞書内のリンクをクリックすればその語が使われている該当箇所に飛べたり…といった機能もあるのですが、そこまでやることはそうそうないので割愛。
 
 ちなみに、人文情報学研究所様のサイト(https://www.dhii.jp/DHM/perseus_dl)にもかなり詳しく紹介されており、そんな機能あったの!?と驚かされたりもしましたが、とりあえず本稿では最低限の使い方だけに留めておきます(意識低くて申し訳ない…)。

Logeion

上記のPerseusを使えば大抵の場合大丈夫だとは思いますが、Perseusも完全ではなく、ときどき引っかからない単語があります。
 
 そういった場合はシカゴ大学の提供するLogeionを使ってみるといいかもしれません。

 あと、Perseusはときどき繋がりにくくなったりもしますので、そういった場合にこのサイトを知っていると安心でもあります。

 Perseusとの最大の違いは、「ドンピシャな綴りでなくとも似た単語を拾ってきてくれる」という点。たとえばPerseusだと、「ある動詞の中・受動分詞の中性形-μενονは出てこないけど男性形-μενοςだったらなぜか出てくる」みたいな謎の現象がときどき発生するんですが、Logeionなら近いものを自動でピックアップしてくれる機能により、こういったことは起こりにくくなっています。
 
 さらに左のフレームにはアルファベット順に単語がずらっと並んでいるので、自動表示された単語がどうやらお目当てのものとは違うようで気に入らない場合などは手動で選ぶこともできます。
 
 なお入力に関してですが、LogeionもPerseus同様、ギリシャ文字もローマンアルファベットによる入力も両方受け付けています(ただしPerseusとは異なり、入力するとサジェストが表示される形式。θを入力したいときはqと入力するなど、入力方式はPerseusに準ずる)。

 また、「Consult Μορφώ」というところを押せば語形分析もしてくれるんですが、そのときもデータにある中で一番近いものをサジェストしてくれます。
 
 ただしこのLogeionも完璧ではなく、あくまで綴りが最も近いものをピックアップして表示するだけなので、とんでもなく遠いサジェストをしてくるときもありますので注意。
 
 その他Perseusとの違いとしては、辞書が充実しているという点。LSJ以外にもフランス語やドイツ語など色々な辞書を取り揃えているので、英語以外もできる方には嬉しい機能ですね。

 ちなみにこのLogeionですが、アプリ版もありますのでスマホやタブレットでも使えて便利です。

Academic Dictionaries and Encyclopedias

 それでも、PerseusでもLogeionでも出てこねえ!という単語に遭遇することもあります。そのとき切り札となるのがこのサイト。

 実はこれ、苦し紛れに単語そのものでググったときに偶然辿り着いたサイトで、PerseusやLogeionのようにどこ大の運営とか全く分からない謎のサイトなんですが、とにかく語形分析能力がやたら優秀。
 
 単語の説明は至って簡易なので辞書は他サイトで見るしかないのですが、PerseusでもLogeionでも出てこない単語がここでは出てくることがかなり多いです。逆にPerseusやLogeionで出てくる単語が出てこないこともあったりして、どういうアルゴリズムで動いているのかは気になるところです。何!?何なの!?怖いよぉ!!
 
 …とまあよく分からないことだらけのサイトではあるんですが、とりあえず使えるもんは使っときましょう。

Wiktionary

 お馴染みのウィクショナリーも語形分析に使えないこともないです。というか、上記ツールのどれにも引っかかってこなかった場合、最後の砦として使うことになるでしょう。

 逆に言えば、ウィクショナリーは最初から使うもんではありません。当然のことながら、辞書見出し語形が何なのか分からないとそもそも該当の単語をウィクショナリーで表示させることすらできないからです。というわけで、やはり以上で紹介してきたツールとは使い方が異なります。
 
 「あー!あの変化形、どのツールにも引っかからなかったんだけど、おそらく原形はアレだと思うんだけどなー!」「形からして時制はあれで態はあれで法はあれっぽいんだよなー!」といったシチュエーションに陥ったら、ウィクショナリーを見てみましょう。なんとウィクショナリーにはそれぞれの動詞の変化表一覧が載っているんです。

 ちなみに上述のLogeionにも同じく変化表を表示させる機能が付いているのでそっちでもいいですが、個人的にはウィクショナリーの方が見やすいのでオススメしておきます。

 ここから探せばもしかしたら突破口が開けるかもしれません。それでもダメだったら相当に珍しい変化形ということで、あとは自分の知識を総動員してなんとかするほかないですが…。あるいは元のテクストの誤植とかも疑ってみるとか…?

動詞以外、およびラテン語について

 ちなみに上記の話は主にギリシャ語の動詞に的を絞って話を進めてきました(なぜならおそらくこういったツールが必要になるのはクソ複雑な動詞の変化なので)。
 
 でも、ALL THE GREEK VERBS以外は動詞以外にも対応しているので、調べようとしている単語の品詞がそもそも分からない!という場合ももちろん使えます。使えるどころか、ギリシャ語では動詞以外でも変な変化をするやつらが多いので、普通にガンガン使っていきましょう。
 
 それどころか、上記のツールはALL THE GREEK VERBS以外、ラテン語にすら対応しています。ラテン語の変化はギリシャ語に比べればまあほんと素直も素直なんですが、もちろんこういうツールで調べられるのはありがたいですね。

ツール使うとかズルくね?と思ってる方へ

 うるせーーーーーーー!!!!!!!!優等生ぶってんじゃねーーーーーーーー!!!!!!!
 
 しかしツールに頼らずに己が力のみでギリシャ語を読まんとするその決意誉れ高い。そういう方は『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』(堀川宏著、ベレ出版)の主要不規則動詞の変化一覧などで勉強するといいかもしれませんね。

情報求ム!!!

 というわけで私が知っているギリシャ語変化分析ツールは以上なのですが、最初に言ったようにこれらのツールとの出会いは偶然だったので、もしかしたらこの世にはもっと優れたツールがあるかもしれません。
 
 なので、そういった情報をお持ちの方は是非お教えいただけましたらガチで助かりますので本当に本当によろしくお願い申し上げます!!