"誰でもない。"(短編)

『全国の人殺し諸君。…否、己の手を汚さずに、人を死へ導く死神。神と称する事すら忌まわしい!』

大都会、中央都市の大型モニタービル群に映し出されたのは、仮面を着けた謎の男の姿だった。

『嘘を吹き込み、他人に人殺しをさせた者。噂を流し、人を自殺に追いやった者。人によっては毒となる物を与えた者。無自覚に人を殺める人殺し共。貴様らにはいずれ、裁きが下るであろう。全ては、我ら、"ハーメルン"の手によって…。』

そう言い残し、モニターはすぐに元に戻った。
この出来事は瞬く間に拡散され、録画された映像はニュースにも取り上げられる程、大きな出来事となった。

「おい見たかよ、昨日のアレ!」
月曜日の朝から、学校はその話題で持ちきりだった。
「あぁ、見たけど…結局は誰かのいたずらだろ?」
「そうかもしれないけどさ…でも俺、あの方はきっと神様だと思うんだよ!」
「また訳の分からん事を…」
コイツは昔からそういうものをすぐに信じるやつだ。
どうせまた飽きるだろう。そう思っていた。

その翌日、テレビで有名なタレントが、何人も殺された。
その全てが、異様な殺され方だったが、場所がバラバラな為に、複数の犯人による犯行であるとのことだった。
そして、現場には必ず血で"ハーメルン"と書き残されていた。

この日を境に、この世界は狂い始めていった。

連日猟奇的な殺人事件が報道される中、被害者はタレントに留まらず、企業の社長、教員、一般人までもが次々と殺されていった。
当然、逮捕される者も続々と現れたが、その事件は留まることを知らなかった。
そしてある日、その事件は起こった。

学校のグランドの中心で、学校のいじめ集団全員が、顔を残して肉塊となって発見された。
悲しむ者も居たが、喜ぶ者も多かった。
しかしながら、力の強いいじめ集団が、こうもあっさりと…と考えていると、友達に呼ばれた。


「お前にだけ、こっそり教えるよ」
そう言って見せられたのが、あの映像に映っていた、"ハーメルン"の仮面だった。
「俺が、ハーメルンなんだ。明日自首する。もう目的は果たせたから。」
そう言って、友人は立ち去ろうとした。
「待って、一つだけ聞かせてくれ。」
立ち止まった友人の背中に、俺は問いかけた。
「いじめ集団を…あいつらを、どうやって殺したんだ…?」
友人は、少しだけ振り返った。
「やったのは俺じゃない。"誰でもない誰か"なのさ。」


数日後、友人は死刑となった。
しかし、事件は終わらない。
いつもどこかで、事件が続いている。
友人が話した真相を、映画にすると言っていた奴も居たが…。


「俺がさせないけどな」
俺は、権利書を手に持って、旅に出ることにした。

誰でもない者達を世界に引き連れて、何処までも、何処までも。

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