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聖なる夜の前日 1

※本作品はCOCシナリオ『イブの夜に』のリプレイ風の作品です。まだプレイしてない方はネタバレなどにご注意ください。



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12月24日。
世界中の老若男女が、うたを歌ったり手を繋ぎ踊ったりしながら、あちこちで昼夜構わず、1日早めの神の誕生日を祝う。
この街、渡中井(となかい)町も例外ではなく、そんなお祭りモード真っ盛りだ。
駅前の並木道を彩る数々のイルミネーション。その脇に立つ有名な製菓店は朝からケーキを求める客の列が絶えない。
一方で向かいのコンビニの駐車場でも、赤い帽子を無造作に被った痩せ型の青年がケーキを売りさばいている。
通りには、カメラを片手にピースサインを放つ若い女の子や、大きな買い物袋を持った子供連れ、腕を絡ませ歩く恋人達で溢れかえっていた。
そこにいつしか降り始めていた雪が、ネオンの光に照らされながら、鮮やかな銀世界を創り上げるのである。
自然とテンションが上がるだろう。クリスマスとは、そういうものなのだ。


『わあ、綺麗…。雪よ!雪!ホワイトクリスマスね?私、凄く嬉しいわ!葵!』

両手を目一杯に使い、降り始めた雪の喜びを伝えるのは、赤い大きなリボンがトレードマークの姫野 紅葉である。
実家は不動産の社長。つまり社長令嬢であるが、本人は着飾る事はなく、純粋無垢なパッチリお目の女の子。
何処か子供っぽく、その持ち前の天然さで多くの殿方が彼女に恋に落ちているらしい。

『そうね、紅葉が喜んでるなら何よりだわ。きっと今日は私達にとって良い一日になるはずよ』

姫野 紅葉の喜ぶ姿を見て、くすりと微笑み笑うのは、山久 葵である。
幼少期から、バスケットボールをしているスポーツマンで運動神経は抜群。
高校時代は将来のプロ女子バスケを支える存在になるだろうと期待されていたが、高校最後の試合に足を痛めてからはバスケットボールの道を諦めたらしい。

『私達?いや!"みんな"の間違いだろー!葵!てか、荷物クッソ重いんだけどさぁ』

周囲に響く声で吠えているのが、小谷 健である。
小柄な見た目とは裏腹に、馬鹿でかい声に根っからの暑い漢でもある。
"正義の味方"になる事が夢で、周囲に馬鹿にされつつも何事もやって見なくちゃわかんねぇーだろ!と言い返し続けていた。
今は、夢へ一歩近づく為に警察学校に通っているとのことだ。
小さい頃から小谷の『こ』と健の『けん(犬)』と背の低さから"こいぬ"と呼ばれている。本人は言われたら怒るらしい。

『いや、そこで葵くんに頼むのか、小谷よ…。普通は男の俺だろうに…。すまないね、葵くん』

眼鏡をクイっと上げて、ハスキーな声で小谷に注意してるのが、濱野 燐だ。
成績優秀、顔立ちも整っていて多くの女性からモテるが言動が変わっている…。
いや、変である。俗に言う黙っていればカッコいいタイプの人間である事は間違いない。

『あら、そうね。ごめんね、子犬』

『おめー!!そのアダ名はやめろやい!カッコ良くないじゃねーか』

驚いた表情で互いを見つめる葵と隣。

『怒る基準がカッコいいか…なのね、小谷くん』

『ああ、カッコよかったらもはやなんでも良いのか』

苦笑いしながら、アホの子を見つめては軽い溜息を零す二人に対して異議を申し立てた者がいた。

『そうかしら?カッコいいって大事だと私は思うわぁ!』

『だって、絵本の王子様はみんなカッコいいじゃない?それに健くんは警察官になるのでしょ?正義の味方になるのだったらカッコ良くなくちゃ!…ね?健くん♩』

紅葉は軽くウィンクしてみせる。

『だ!よ!な!さっすが紅葉はわかってるぜ!!』

過剰な反応し、救いの手に全力で飛びつこうとする健をさらりかわす紅葉。

『まあ、姫野さんも…同じ分類に近いがな…俺から見たらな』

『んー、まあ、否定は出来ないけども。あの子は頭は良いのよ。性格?の問題じゃない?』

到底、理解は出来ないなと隣が二人を見ながら呟くと誰かのスマホが鳴る。

『ん?誰か、スマホが鳴ってるわよ』

『俺ではないな?姫野さんか小谷くんだろ?』

『私…じゃないわ、健くん?ほら、光ってるわぁ』

『お?本当だ。誰だー?俺に救いを求める者かー?』

そんな大袈裟なと葵と隣が同じタイミングに思ったくらいに、健もスマホの画面を見る。隣で紅葉も覗き込む。

『…真代 イブ』

『おお、そうだ!イブじゃん!こないだたまたま会ったんだよなぁ!』

『そうでございましたの?奇遇ですわね、私もたまたま会ったのですわぁ!』

真代 イブは高校時代の友人。
黒髪でサラサラストレートヘアーの雪のように白い肌が特徴的な女の子だ。
高校2年の冬にご両親の都合で引っ越してからは疎遠になっていた。
しかし、たまたま町であった健、紅葉は携帯番号を交換していたみたいだ。

『成る程な!紅葉も会ったのか!』

『そんな事よりも、早く出てあげては?』

『お?そうだった!どうしたんだ?イブ、何かあっ』

健の声を遮るように、スマホの向こうから声が響く。

『大変なの!!小雪にさっきからずっと連絡してるのに出ないの!
大変だわ…ほんとに…もしかしたら…。
とにかく駅前のよく行ってたファミレスで待ってるから!絶対にきてね!』

通話が切れる。

『…お?』

まさにアホが出すような声を出した健出会った。


coming soon

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