それはきっと一瞬で、永遠で
真夏の日差しが照りつけるそんなある日の話。
(んー、どうしよう…?チェックのワンピースは子供すぎるわよね…。かといっておしゃれな服とかそんなのないし…そもそもおしゃれって何よ…?わっかんないなぁ、もう!)
ベットの上に服を目一杯広げ
少女は悶絶していた。
この何でもない日は少女にとって
"大切な日"である事は間違いないのだから。
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『そうだな…。じゃあ、今度デートでもするか?』
そんな些細な彼の一言が私を困惑させる。
迷惑じゃないし、むしろ嬉しい。
普段は絶対にそんな事を言わない彼からのアプローチ
このチャンスを逃したくはないし、きっと今後にも影響するはずだから。
普段、女の子らしい事が出来てない私に巡ってきたチャンスなのだから
この機会を…必ずモノにしたい。
だからこそ、ファーストインパクトは大事…なはず。
女の子らしい服装に女の子らしい髪型。
ちょっと背伸びしてお化粧。
あまり濃くならないように…出来るだけナチュラルに。
かといって、鈍感な彼が気づいてくれるくらいには…。
『って、難易度高いわね…本当に。』
深いため息をこぼす私。
私を悩ませる彼はいつも頼りなくお馬鹿で
頭も運動神経も並みで、これといった長所はなく
強いて言えば神社の息子で。
でも、誰に対しても優しくて誰かの為に精一杯、努力して頑張ることができて
私の事を対等な立場で平等に接してくれる唯一の存在で…。私の特別な人である。
何処が良いかと言われたら正直わからないけど
初めてこの人と"一緒にいたい"と思った相手である事は変わらない。
『冬花ちゃん〜♩ご飯の時間よぉ〜。愛しの翔くんが待ってるわよぉ〜』
掛け声と共にドア開く。
私のお母さんは正直変わってるし、娘の部屋をノック無しで入ってくる。
注意しても治らないので私も諦めてる。
『っ!!お母さん!勝手に入らないてよ!ちゃんとノックしてよ!!』
『あら〜?ごめんなさい〜。冬花ちゃん怒った?お母さん、怖い〜』
『怒ってないけど…あれよ、今はお母さんと私だけじゃないんだから!かけ…秋月くんもいるんだからね?わかった?』
『はーい♩お母さん、わかりました〜
次からはちゃんとノックするから!…ん?どうしたの?こんなにお洋服たくさん出して?』
『え?あー、そ…そうよ!ちょっと友達と遊びに行く予定があって…』
取り乱す私に対して、すかさずお母さんはニヤリと微笑む。
『そうなのね?きっと今日、遊ぶお友達は"大切なお友達"なのね?』
こういう時、お母さんは妙に鋭い…。
『ならぁ〜、お母さんがアドバイスしてあげるわぁ。
冬花ちゃんはまだ若いし、お肌もピチピチだしぃ〜。変に着飾る必要はないとお母さんは思うなぁ〜』
そう言いながら部屋へとズンズン入ってくるお母さん。
『ちょっと!勝手に入らないでって!』
私の制止を聞かず、あれこれ私の服を手に取る。
『お母さんに任せてぇ!これとか良いと思う!』
お母さんが手にとった服は少し子供っぽいチェックのワンピース。
『お母さんったら…。それは少し子供っぽいと思ったからやめとこうかなぁって』
『そう?冬花ちゃんに似合うとお母さんは思うなぁ〜?』
そう言ってワンピースを持ちながら
お母さんはその場でクルクル回る。
『お母さんに似合うって言われても…。あいつがどう思うかわかんないし…。』
『お母さんはね、思うの!こういったお洋服はねぇ、"今"が一番似合うのよぉ〜、お母さんはもう着れないし、きっと冬花ちゃんもあと2、3年したら着なくなるわぁ』
『つまりね?今が一番似合う時なのよ?だから、お母さんはこれが良いと思うのぉ〜!』
そう言うお母さんは軽くウィンクする。
確かにそう言われたらそうだ。
謎の説得感があるは確かだし…
『きっと今日は冬花ちゃんにとっても"大切なお友達"さんにとっても特別な日になるのだから。今、一番似合う服を着て行きなさいなぁ〜♩』
『…ありがと、お母さん。じゃあ、それにするわ』
『うふふ、デート、上手くいくといいわねぇ?今日は帰りは遅くなる?お母さん、夜ご飯先に食べておくわねぇ?』
ニコニコしながら母は私に言う。
『っ〜!!!お母さん!デートなんて言ってないし!もう!!!』
『冬花ちゃん、お顔真っ赤よ?そうね、デートなんて言ってなかったわねぇ?お母さんまた早とちりしちゃった!』
そう言いつつ!チェックのワンピースを私に押し付けて
部屋から出て行こうとするお母さん。
『あ!…そういえば翔くんも少しおめかししてた気がするわぁ!大切な人とデートするって言ってた気がするぅ〜!良かったわね?冬花ちゃん♩』
ゆっくりと扉が閉まる。
そっか…。悩んでるのは私だけじゃないんだ。
あいつも…この日のために…。
そう思うと一気に恥ずかしくなる。
『…どうしよ、今のこの顔はあいつに見せられない。』
しばらく息を整えてから
朝ごはんを食べ行こうと決心した私だった。
『…ん?何これ??』
お母さんが押し付けてきた服と一緒に何かがあった。
それは淡いピンク色のルージュとメモだった。
-それはお母さんからのプレゼントよ
少しばかり冬花ちゃんには早いかもだけど。これなら気づいてもらえると思うわぁ-
『…もう!…お母さんのばか』
やっぱりお母さんには敵わないなぁと思うのであった。
私のことを見てないようでちゃんと見ているのが私のお母さんだ。
『ん?裏にも何か書いてる??』
-P.S キスする時は少しだけ相手にも付いちゃうから気をつけてね♡-
『っ!!!!お母さんのばかぁ!!!』
怒声が響く琴吹家。
"今日"という日は一瞬で終わるが
きっと"今日"は"永遠"に忘れる事がない日になる…はず??
coming soon
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