それはきっと一瞬で、永遠で

真夏の日差しが照りつけるそんなある日の話。

(んー、どうしよう…?チェックのワンピースは子供すぎるわよね…。かといっておしゃれな服とかそんなのないし…そもそもおしゃれって何よ…?わっかんないなぁ、もう!)

ベットの上に服を目一杯広げ
少女は悶絶していた。

この何でもない日は少女にとって
"大切な日"である事は間違いないのだから。

------------------------------------------------------

『そうだな…。じゃあ、今度デートでもするか?』

そんな些細な彼の一言が私を困惑させる。
迷惑じゃないし、むしろ嬉しい。
普段は絶対にそんな事を言わない彼からのアプローチ
このチャンスを逃したくはないし、きっと今後にも影響するはずだから。

普段、女の子らしい事が出来てない私に巡ってきたチャンスなのだから
この機会を…必ずモノにしたい。
だからこそ、ファーストインパクトは大事…なはず。

女の子らしい服装に女の子らしい髪型。
ちょっと背伸びしてお化粧。
あまり濃くならないように…出来るだけナチュラルに。
かといって、鈍感な彼が気づいてくれるくらいには…。

『って、難易度高いわね…本当に。』

深いため息をこぼす私。

私を悩ませる彼はいつも頼りなくお馬鹿で
頭も運動神経も並みで、これといった長所はなく
強いて言えば神社の息子で。
でも、誰に対しても優しくて誰かの為に精一杯、努力して頑張ることができて
私の事を対等な立場で平等に接してくれる唯一の存在で…。私の特別な人である。
何処が良いかと言われたら正直わからないけど
初めてこの人と"一緒にいたい"と思った相手である事は変わらない。

『冬花ちゃん〜♩ご飯の時間よぉ〜。愛しの翔くんが待ってるわよぉ〜』

掛け声と共にドア開く。
私のお母さんは正直変わってるし、娘の部屋をノック無しで入ってくる。
注意しても治らないので私も諦めてる。

『っ!!お母さん!勝手に入らないてよ!ちゃんとノックしてよ!!』

『あら〜?ごめんなさい〜。冬花ちゃん怒った?お母さん、怖い〜』

『怒ってないけど…あれよ、今はお母さんと私だけじゃないんだから!かけ…秋月くんもいるんだからね?わかった?』

『はーい♩お母さん、わかりました〜
次からはちゃんとノックするから!…ん?どうしたの?こんなにお洋服たくさん出して?』

『え?あー、そ…そうよ!ちょっと友達と遊びに行く予定があって…』

取り乱す私に対して、すかさずお母さんはニヤリと微笑む。

『そうなのね?きっと今日、遊ぶお友達は"大切なお友達"なのね?』

こういう時、お母さんは妙に鋭い…。

『ならぁ〜、お母さんがアドバイスしてあげるわぁ。
冬花ちゃんはまだ若いし、お肌もピチピチだしぃ〜。変に着飾る必要はないとお母さんは思うなぁ〜』

そう言いながら部屋へとズンズン入ってくるお母さん。

『ちょっと!勝手に入らないでって!』

私の制止を聞かず、あれこれ私の服を手に取る。

『お母さんに任せてぇ!これとか良いと思う!』

お母さんが手にとった服は少し子供っぽいチェックのワンピース。

『お母さんったら…。それは少し子供っぽいと思ったからやめとこうかなぁって』

『そう?冬花ちゃんに似合うとお母さんは思うなぁ〜?』

そう言ってワンピースを持ちながら
お母さんはその場でクルクル回る。

『お母さんに似合うって言われても…。あいつがどう思うかわかんないし…。』

『お母さんはね、思うの!こういったお洋服はねぇ、"今"が一番似合うのよぉ〜、お母さんはもう着れないし、きっと冬花ちゃんもあと2、3年したら着なくなるわぁ』

『つまりね?今が一番似合う時なのよ?だから、お母さんはこれが良いと思うのぉ〜!』

そう言うお母さんは軽くウィンクする。

確かにそう言われたらそうだ。
謎の説得感があるは確かだし…

『きっと今日は冬花ちゃんにとっても"大切なお友達"さんにとっても特別な日になるのだから。今、一番似合う服を着て行きなさいなぁ〜♩』

『…ありがと、お母さん。じゃあ、それにするわ』

『うふふ、デート、上手くいくといいわねぇ?今日は帰りは遅くなる?お母さん、夜ご飯先に食べておくわねぇ?』

ニコニコしながら母は私に言う。

『っ〜!!!お母さん!デートなんて言ってないし!もう!!!』

『冬花ちゃん、お顔真っ赤よ?そうね、デートなんて言ってなかったわねぇ?お母さんまた早とちりしちゃった!』

そう言いつつ!チェックのワンピースを私に押し付けて
部屋から出て行こうとするお母さん。

『あ!…そういえば翔くんも少しおめかししてた気がするわぁ!大切な人とデートするって言ってた気がするぅ〜!良かったわね?冬花ちゃん♩』

ゆっくりと扉が閉まる。

そっか…。悩んでるのは私だけじゃないんだ。
あいつも…この日のために…。

そう思うと一気に恥ずかしくなる。

『…どうしよ、今のこの顔はあいつに見せられない。』

しばらく息を整えてから
朝ごはんを食べ行こうと決心した私だった。

『…ん?何これ??』

お母さんが押し付けてきた服と一緒に何かがあった。
それは淡いピンク色のルージュとメモだった。

-それはお母さんからのプレゼントよ
少しばかり冬花ちゃんには早いかもだけど。これなら気づいてもらえると思うわぁ-

『…もう!…お母さんのばか』

やっぱりお母さんには敵わないなぁと思うのであった。
私のことを見てないようでちゃんと見ているのが私のお母さんだ。

『ん?裏にも何か書いてる??』

-P.S キスする時は少しだけ相手にも付いちゃうから気をつけてね♡-

『っ!!!!お母さんのばかぁ!!!』

怒声が響く琴吹家。

"今日"という日は一瞬で終わるが
きっと"今日"は"永遠"に忘れる事がない日になる…はず??

coming soon

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?