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症例振り返り3 多血症

健診異常の対応で困ることはまだまだ多いです。今回は多血症の方が来られたのですが、皆さんどう対応されているのかなと気になるところです。

初診外来で50歳の男性がHb18.6g/dL、Hct 52%の高値を健診で指摘されて二次検診に回ってきました。

実は昔から高値を指摘されていたようで、一回調べてみるかと言われたのが今回だったようです。20年近く前の血液検査でも確かに今と同じ高値でした。


多血症の定義は?

その時は多血症の鑑別か。と考え始めましたが、今振り返るとそもそも多血症ってどこからが多血症なのかってちゃんと知りません。

男性ではHb≧16.5g/dL、Hct≧49%で赤血球増加症だそうです。
女性はHb≧16.0g/dL、Hct≧48%だそうです。

Hct>50%とか血がドロドロなイメージなので感覚としても合いますね。詰まっちゃいそうです。

詰まっちゃいそうって言いましたけど、多血症の問題点は基本的には血液の過粘稠性や血栓症が起こることです。

逆に言うと赤血球数が多くなっても、ドロドロじゃなければそこは問題じゃないんですね。例えばサラセミアだと赤血球増加はきたしてもHctやHbはそこまで高くならないので多血症ではないってことです。

多血症の鑑別は?

僕の頭の中では脱水での濃縮でなければ「だいたいが喫煙によるストレス性多血症」ってところで思考停止していました。あとは高地在住で二次性に多血症になっているとか?(当院は標高約900mにあります)

問診すると喫煙は4年前にやめていて、近隣に住んではいるものの実家は関東圏の海沿いで母親も昔からHbが高いといわれているとか。肥満でもなく、飲酒もビール500ml/day程度でまあそこまでは多くない。

喫煙じゃないのか、スパッと終わらず混んでいる外来で少し悩みました。

過去のCTでは脾腫はなし、他系統の血球は基準内、血栓症の既往はなしでした。とりあえず二次性ではないかとEPOを提出して次回の予約外来につなぎました。


「血液診療の鉄則」にはこんなことが書いてました

赤血球増加症を見たら①ストレス②真性③二次性のどれかを鑑別しよう。
ストレス性は喫煙、飲酒、肥満で良く見られ、特に喫煙が圧倒的に多い。真性赤血球増加症の除外にはJAK2遺伝子変異がないことを、二次性血球増加症の除外にはEPO高値がないことを確認する。

ちなみにJAK2遺伝子変異って骨髄検体でみるもの?とか思っていて無知だったんですが末梢血でいいんですね。

EPOの結果

EPOは基準範囲内でした。EPO高値であれば心肺疾患で低酸素が慢性的にEPO分泌を亢進させているのではないか?と心肺疾患の検索に向かう流れです。

今回の症例だと呼吸苦はありませんが、例えばSASや、豆炭使用による慢性的なCO暴露なんかが地域柄あり得ます。

けど基準範囲内。末梢血検体でJAK2遺伝子変異がないか追加で検査としました。

家族歴はどう考えればいい?

この方、母親も健診で多血症を指摘されているとおっしゃっていました。

真性赤血球増加症(polycythemia vera:PV)って家族性あるの?ってところは気になります。あくまでJAK2突然変異が後天的に発症した増殖性疾患のはずですもんね。

UptodateではPVの家族性の傾向は知られていないが、家族内の複数のメンバーがPVを含む骨髄増殖性腫瘍を発症するような家族の報告はあると書いていました。

JAK2突然変異をきたしやすい素因をもつ常染色体優性遺伝の変異があることが示唆されているようです。

ただJAK2遺伝子変異が陰性の場合はどうでしょうか?JAK2遺伝子変異はPVに特異的なものではないですが、除外に使えるということは感度はいいということでしょう。

陰性の場合に家族歴と若年期からの赤血球増加を説明しうるものがないのか?ということですが

家族性赤血球増加症という病気があるようです。幼少期からの赤血球増加と家族歴をもつという臨床像で、原因はEPO受容体の活性化変異などらしいですが、受容体変異が不明な例もあるとか。

Google検索すると「小児慢性特定疾病情報センター」のページがひっかかりました。

「真性多血症と同様に赤血球の増多がみられるが、先天性であり、常染色体優勢遺伝例が多い(弧発例もあり)。
臨床症状:頭痛、耳鳴り、鼻出血、労作性呼吸困難や入浴後の掻痒症などがみられる。脾腫はない。
血清のerythropoietin(Epo)値は低値で、ヘモグロビン―酸素飽和度は正常
骨髄の赤芽球系前駆細胞はEpoへの高感受性を示す。
原因としてEpo受容体(EpoR)の変異が報告されているが、EpoR変異が不明な例もある。」

JAK2遺伝子変異陰性はPV除外?

JAK2遺伝子変異が陰性なら家族性として調べるかどうかになるのか?
再度Uptodateの多血症診断アルゴリズムを見直してみました。

今回提出したのは末梢血のJAK V617F遺伝子変異の検査です。これが陰性ならJAK2,MPL,CALRの検査に進むってなってますね。けどそもそもその前の段階で Onset in infancy/childfoodの項目があるので、ここの部分の確認が必須になりそうです。

なるほど難しい。

どちらにせよ血液内科の先生に一回相談しなければな、と思い今日の振り返りは終了します。

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