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症例振り返り4 「身の置き所のなさ」というターム

医学的タームに置き換えられるっていうのは大事だなと改めて思いました。

例えば、なんだか様子が変なんですっていうのを「意識障害」ととらえるとやらなければいけないことが見えてくるし、「意識障害」として臨床推論を進めながら所見を取っていくと実は言葉が伝わっていないだけで「失語」だと気づいたり。

タームに落とし込めるとと思考がスタートする感覚ですね。

そのタームの一つが「身の置き所のなさ(restlessness)」です。

辛そうにしていて、痛みがあるとも言わないが、いてもたってもいられない様子のとき。どうしてあげればいいんだろう?と思考停止になってしまうのではなく、

これは「身の置き所のない」状態だ!と思えるかどうかなんです


症例:70歳男性

結腸癌の肝・肺転移があり化学療法を実施していたが半年前に化学療法を本人の希望から中断していた。

腹痛を主訴に来院され、CTで癌性腹膜炎による大腸イレウスと診断。

入院2日後に嘔吐による誤嚥性肺炎あり、抗生剤開始するも増悪し化学性誤嚥によるMendelson症候群が主体と考えられた。

酸素マスク5L/minでSpO2 93%を保てるものの、寝てると苦しく座位でいるのも苦しくマスクも煩わしくて何度も外してそのたびに看護師が付け直すというような状態になった。意識もややもうろうとしているが、オーダーは入る。

血液検査ではDIC、腎機能障害、肝機能障害の進行を認めた

「身の置き所のなさ」があると認識すること

誤嚥性肺炎の治療としてCTRX開始したが、血液培養から緑膿菌検出されたためMEPMに変更。DEX4mgを食思不振にもともと内服していたが、状況から内服困難で肺もARDSになりそうなCT画像だったのでDEX6.6mg/dayの静脈投与に切り替えた。

疼痛の訴えはなく、酸素投与7L/minでSpO2 93%と酸素化低下はあるものの90%以上は保てている。とりあえずこれで様子をみるしかないか.......。と考えていた

病棟看護師から、「身の置き所のない様子はなんとかなりませんかね?」と連絡があり、はっとした。

連絡をくれた看護師は「身の置き所がない」というタームを知っていて、患者さんがその状態であることを認識し、それには対応策があるということを知っていたのです。

僕は「病状を改善する策は立てたし、疼痛の訴えが薄いから鎮静薬も必要ない」と考えて、「いてもたってもいられず、苦しい様子」を様子見する選択しかできていなかったのです。

身の置き所のなさへの対応

”緩和ケアレジデントの鉄則”には以下のように

「身の置き所のなさ」は特定の診断につながるものではない。
身の置き所のなさ=鎮静と最初から一対一対応でとらえてはならない。
身体要因、精神要因を包括的に評価する

今回の症例では

身体的要因として①大腸イレウスによる痛みと嘔気②誤嚥性肺炎による呼吸困難、精神的要因として③過活動せん妄が挙がりました

また薬剤性の要因として④定期内服のメトクロプラミドによるドパミン遮断作用でのアカシジアも鑑別となりました

大腸イレウスからの嘔吐による誤嚥性肺炎だったので内服は全て中止し、呼吸困難には酸素投与を開始しました。

そして、疼痛と呼吸苦にオピオイドの導入をと考えました。

オピオイドの選択

皆さんならどのオピオイドを選択しますかね?腎機能障害がありモルヒネは使えない状況でした。呼吸苦主体ならモルヒネを使いたいところでしたが。

ここで難しいのが大腸イレウスがあることです。オピオイドは基本的に便秘になります。つまり腸蠕動を抑える方向に働きます。

しかし、エビデンスは十分ではないものの経験的にフェンタニルは腸を動かす方に働くと考えられているようです。なので大腸イレウスにフェンタニルを使って鎮痛を測っていると穿孔する例があるのだそうな。

動かさないことで疼痛緩和するのであればオキシコドンですが、動かしてイレウス改善を狙っていくのが疼痛緩和にも今後の病状としてもいいと考えるならフェンタニルを選択するという考えても考えても答えが出ないような状況に陥りました。

結果としては、教科書的な第一選択としてオピオイド開始はオキシコドンで始める方が無難だろうということでオキシコドン持続皮下注を開始しました。

★オキシコドン10mg/1ml+生食9ml 0.2ml/hrで開始。

一定の効果は得られたものの、効果は限定的であったためさらにミダゾラム持続皮下注も併用することで穏やかに過ごされるようになりました。

しっかり効く量まで短時間でもっていく

オキシコドン持続皮下注、ミダゾラム持続皮下注を使った経験が今回で数回目だったんですが、日中は別のdutyがあったため上級医が容量調整をしてくれていました。

そのスピード感がやっぱり早いんですよね

効くか効かないかゆっくり見ていくっていうのはしないんです。患者さんの疼痛や身の置き所のなさはEmergencyなんですよね。

そう思って、早い段階でしっかり効かすために効果発現時間が15分~30分程度なのでフラッシュを始めは積極的に使い、ベースアップしてました。

心不全のときにフロセミドivするときとか、ICU管理とかと似てるな~って僕としては感じました。

心不全のフロセミド20mg ivした後、1時間で尿量出てなければ40mgをすぐivしてまた1時間後に見て効果なければさらに容量を上げてってしていかないと前負荷かかりっぱなしで悪循環から抜けれないんですよね。

そういう、時間単位で状態をよくしてやるんだっていう意識が大事だなとつくづく思いましたね。

まとめと感想

・「身の置き所のなさ」という状態に気づけき医学的タームとして認識すれば思考が進む
・「身の置き所の無さ」=鎮静と一対一対応で考えずアセスメントして改善可能な要因はないか考える。
・オキシコドン持続皮下注を使うときは十分な鎮痛を早急に得るために時間単位で効果判定と容量調整を行う

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