僕らがシュポ=モティングを好きになる理由

「中山さん!この(ワールドサッカーダイジェストの)名鑑!いいんですよ!シュポ=モティングに関する記述!愛があるんです!素晴らしい!」
「ああ、それ僕が書いたんですよ(笑)」

ある日のDAZNの中継ブースで、解説の中山淳さんとこんな会話のやり取りがありました。皆さんご存知の通り、僕らリーグアン放送席はシュポ=モティングが大好きです。

ジャン=エリック=マキシム・シュポ=モティング。
(Jean Eric-Maxim Choupo-Moting)

強烈な長さとインパクトを誇る、違う読み方をすると男子中学生が無意味に喜びそうな名前を持っているシュポ=モティングは、カメルーン代表のFWであり、パリ・サンジェルマンのバックアッパーです。マインツでトーマス・トゥヘル監督の下でプレーしていた経験があることはお馴染みですね。彼の加入時の動画を見てみましょう。

191cmの長身のFWと言うと、威圧的なキャラクターを想像してしまいがちですが、彼にはそういう部分がありません。FWのオラオラ感とはほど遠い、謙虚で紳士的な人柄。どこかの誰かみたいに、先発から外されたり、途中交代をさせられても不満を露わにすることはありません。穏やかにフランス語を操るシュポの姿には、いい人感がにじみ出ています。彼はお父さんがカメルーンの出身なので、ドイツ育ちですがフランス語を話せます。ドイツ系選手をチームに溶け込ませるためにも、シュポはとても大切な存在なのです。

ですが、勝負にはいつだって真剣です。後輩のアブドゥ・ディアロとのホッケー対決では、遊びにも関わらず準備体操をするほどの意識の高さで臨み、抜群の鋭さのあるカウンターで後輩に花を持たせることなく勝利しています(試合後のディアロの表情に注目!)。

そして彼を時の人にしてしまったのが、昨季31節のストラスブール戦です。
(ハイライト動画は、別タブでYouTubeのページから視聴できます)

そうです。例の「味方のシュートをゴールライン上で阻止した」あの事件です(動画1:24~)。右サイドから放ったクリストファー・エンクンク(現ライプツィヒ)のシュートを、こともあろうにゴールライン上でトラップして止めてしまった、あの事件です。

よりによって、この試合は天才FWキリアン・エンバペ君がベンチにいたために、信じられない事件の直後に「信じられない、何やってんの!あいつ?」という感情をそのまま出してしまうエンバペのリアクションが、見事にカメラに抜かれていたのです。

私はこの試合をDAZNで実況していました。DAZNで実況する時には、片耳で英語コメンタリーを聴きながら喋っているのですが、英語コメンタリーはケラケラ高笑いをしていました。あれで笑うなって言う方が無理だ!エンバペの表情はハイライトでもしっかり使われています。

それ以降、シュポ=モティングが何かをするたびに、エンバペの表情が抜かれるカメラワークが多くなりました。エンバペの父親もカメルーンの出身。シュポはカメルーン系の先輩でもあるはずなのですが、もはや立場が逆転しています。当然、SNSでもシュポはいじられまくる。チームメイトにも、(後輩からも)水をかけられる!ああ、自慢の黄金に輝く高価なジャケットが濡れてしまう!(シュポ=モティングとキンペンベのファッションセンスはPSGで注目すべきトップ2!)。その後、逆ギレしてチームメイトを追いかけるシュポ、逃げるチームメイト。中学生か!

ですが、彼はそれで終わる人間ではないのです。今季3節のトゥールーズ戦。ネイマールを欠いた試合で、ケガをしたエディンソン・カバーニに代わって入ったシュポは、驚くべきパフォーマンスを見せます。
(ハイライト動画は、別タブでYouTubeのページから視聴できます)

この試合の50分、ゴール前の密集から、彼はルーレットターンで相手DFを華麗にかわし、利き足ではない左足でゴールに流し込みます。そうです。彼はもともとウインガー。足下の技術も持っているのです。ゴールライン上でボールを止めるだけの選手ではない。直後にエンバペとタッチした時のエンバペの表情を見て下さい!(なんだ、こいつ、やるじゃないか!)という表情をしています(どっちが先輩だとかは突っ込まない!)。その後、ベルナトのアシストで右足のワンタッチゴールを決め、まさにワールドクラスの活躍を見せたのです。

この時の私は叫びました!

「ネイマールがいなくても、カバーニがいなくても、シュポモティングがいます!」

中継を終え、「ああ、報われたなぁ、幸せだなぁ」と思いつつ、現地の記事を漁っていると、試合後のインタビュー記事が上がっていました。ル・パリジャンの記事。

「君のために歌ったサポーターに対して、どんなことを思った?」

「僕はパルクでプレーすることにいつも喜びを感じている。サポーターが好きなんだ。そして、批評などもすべて、フットボールの一部なんだ。誰もが自分の意見を表明する権利を持っている。残念なことに、時にSNSで陰に隠れて発言する人もいる。フットボールについてまるで知らずに、とても否定的な発言をする人が時にいるんだ。僕は不思議に思うんだ。彼らは本当に、自分の人生に満足しているのだろうか?ってね。なぜなら、僕は自分の人生が好きだし、僕は幸せだから。他の人に対してネガティブでいるのはストレスのたまることだと思うんだ。でも、誰もが自分の思ったように自分自身を表現する権利はある。僕はそういう表現はあまり見ないようにしているし、プレーするチャンスがあったらベストを尽くせるように、しっかり練習しているんだ。それはとてもいいことだよね。」

彼はプロとして、自分の立ち位置を良く分かっています。時に厳しい評価を受ける立場であることも受け入れている。その上で、匿名でネガティブな発言をする人物の側に立って、「自分の意見を表明する権利を持っている」と言った上で、「彼らは本当に、自分の人生に満足しているのだろうか?」と問いかけるのです。

人生で上手く行かない時、上手く行っている人のことを羨んだり、妬む気持ちが出るのが人間という生き物です。そういう時は往々にして、他人に対してネガティブな発言をしてしまいがちです。私にもそういう時はあります。
一瞬気持ちが収まるかも知れませんが、その後、後味の悪さが残ります。それは「ストレスのたまること」です。

シュポには「自分は自分の人生が好き」と言い切れる強さがあります。彼は現状パリというビッグクラブではバックアッパーではありますが、その立場を受け入れ、時に年下のチームメイトにいじられながらも、彼は自分自身のことを幸せに思っているので、決して不満を出しません。だからこそ、彼の周りには人が集まりますし、彼がゴールすると、不思議とみんなが幸せになります。そういう存在は、決して軽いものではありません。

Moi , j'aime ma vie. (私は自分の人生が好きだよ)。

いい言葉だと思いませんか?フランス語には

C'est la vie. (人生ってこんなものさ)

という名句がありますが、これは少し諦めにも似た言葉です。
でもその後に、

Mais, j'aime ma vie. (でも、私は自分の人生が好き)

と付けることで、すごく人生がポジティブになります。
それ以来、シュポの言葉は、私の中で大事な言葉になっています。

リーグアンは欧州最高峰のリーグとは言えないかもしれません。ですが、間違いなく世界最高峰の選手たちがいるリーグです。そして何より、くすっと笑えるシーンや、感動的なシーンに立ち会えることがあるリーグです。サッカーを観ることは、最先端の戦術を理解することだけが目的なのではなく、こういう日々の出来事から学ぶことでもあると思うのです。

シュポが失敗したら、「でもいい人なんだよなぁ」と思って温かい目で見守りましょう。そして、自分が失敗した時に、彼の強さを思い出すのです。
そして彼が光を浴びたら、我がことのように喜びましょう!そんな瞬間を皆さんにお届けできればいいな、と思って今後も実況します。
どうぞお付き合いください!

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