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【第2回】出資持分払戻と剰余金配当禁止の関係・医療法人で可能な減資と医療法に抵触する減資

持分のある医療法人の出資持分払戻と残余財産分配は医療法第54条の剰余金配当禁止に抵触しないのか?

平成19年3月31日以前に設立された持分のある医療法人(いわゆる経過措置型医療法人)は定款の規定により出資持分を所有している社員が退社した時に請求できる出資持分払戻と、医療法人が解散して残余財産が確定した時に払い戻す残余財産分配がありますが、医療法第54条は「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」と定めています。

出資持分払戻も残余財産分配もいわゆる剰余金の配当のはずなのに、法律で剰余金配当禁止が定められているのにどうして出来るのか不思議に思ったことはないでしょうか?

個人的には不思議に思って当たり前だと思うのですが、どうも世間一般的には厚生労働省が出資持分払戻や残余財産分配を認めていますし、書籍にも普通に書いてあるので疑問を持たない方が多いようです。

しかし、医療法人は剰余金配当禁止が原則で、その例外として出資持分払戻と残余財産分配がなし崩し的に認められています
このことを医療法改正の経緯等をエビデンスを示しながら解説いたします。

最近持分のある医療法人では出資持分払戻に関するトラブルが増えており、裁判になっているケースも少なくありません。
これは医療法人は剰余金配当禁止が原則で、その例外として出資持分払戻と残余財産分配があるという事実を知らず、出資持分払戻が当然の権利であるように誤解されているのが原因の1つだと私は思っています。

そもそも定款には出資持分払戻請求は社員退社時に「できる」と規定されており、社員退社時に自動的に出資持分払戻請求がされるわけではなく、請求という手続きが必要です。
また、相続時には原則は出資持分の相続であり、その例外として出資持分払戻があります。
出資持分払戻については「3訂版 医療法人の設立・運営・承継・解散」(日本法令)の第4章に多少詳しく書かれているので、そちらをご参照ください。

なお、これも世間一般的には昭和60年の医療法改正を第一次医療法改正と呼んでいるので、昭和23年に制定された医療法が昭和60年まで改正されていないと誤解されがちですが、医療法は昭和24年以降も頻繁に改正されています。
特に昭和25年の医療法改正で初めて医療法人制度が創設されており、とても大きな改正でした。
なぜ昭和25年を第一次医療法改正と呼ばず、昭和60年を第一次医療法改正と呼ぶのか私も理由がわかりませんが、医療法人制度が昭和25年の改正で初めて創設されたことは覚えておいてください。

持分のある医療法人で可能な減資と、医療法に抵触する減資

持分のある医療法人の減資の相談はいまだにありますが、これも出資持分払戻と剰余金配当禁止の関係を正しく理解していれば、どのような減資であれば医療法人で可能なのかおのずと判断できるはずです。

持分のある医療法人は出資金(資本金)があるので、出資金が1,000万円以上だと赤字でも納付する義務がある法人住民税の均等割額が高くなりますし、出資金が1億円以上だと中小企業等でなくなるため、法人税の軽減税率が適用されなかったり、中小企業投資促進税制や医療機器等の特別償却等の適用が受けられなかったり、欠損金の繰越控除ができる金額が少なくなったり、交際費が全額損金不算入になる等、出資金が多ければ多いほど不利になることが多いです。

このため多額の出資金を拠出して設立してしまった医療法人ほど、減資を検討するところが多いです。

減資には無償減資と有償減資があります。

無償減資は減資金額を「資本金」から「その他資本剰余金」に振り替えるだけなので、資本金の額は減少しますが、欠損てん補に充てる無償減資を除き資本金等の額は変わりません。
資本金の額が減少すると法人税の軽減税率、中小企業投資促進税制、医療機器等の特別償却、欠損金の繰越控除、交際費の損金算入等に影響があるので、無償減資であっても出資金が1億円以下になればメリットは大きいと思います。
ただし、欠損てん補に充てる無償減資を除き資本金等の額は変わらないので法人住民税の均等割額には影響がありません。

有償減資は実際に資金の支払いが生ずる減資であり、出資者に対する「資本金」の払戻しの金額と「その他資本剰余金」の配当となる金額がでてきます。
無償減資と違い有償減資は資本金等の額も減少するので、法人住民税の均等割額にも影響があります。

以下、持分のある医療法人で可能な減資と、医療法第54条に抵触する減資について解説いたします。

有料記事の目次

  • 出資持分払戻に関する裁判所の判断

  • 本当は医療法人が自律的に定めた定款ほとんど存在しない

  • なぜ厚生省(当時)は剰余金配当禁止に矛盾する出資持分払戻と残余財産分配を認めたのか?

  • 持分のある医療法人の増資

  • 持分のある医療法人で可能な減資と、医療法に抵触する減資

  • 無償減資が可能な範囲


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