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W杯マッチレビュー ブラジルvs韓国 〜なぜ韓国は大敗を喫したのか〜

はじめに

 はじめまして。東京大学運動会ア式蹴球部(以下ア式)、テクニカルスタッフ1年の錦谷智貴と申します。
 今回のア式マガジンでは、カタールワールドカップ、ラウンド16のブラジル対韓国戦のマッチレビューを執筆させていただきます。お見苦しい部分もあると思いますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。


試合経過

 アディショナルタイムでの劇的なゴールでポルトガルに逆転勝利を収め、グループH2位で決勝トーナメントに駒を進めた韓国。対するブラジルは、カメルーンに対し不覚を取ったものの、2勝1敗と危なげない戦いぶりでグループステージを首位で突破した。
 韓国は基本フォーメーションとして4−4−2を採用し、ポルトガル戦で劇的ゴールを決めたファン・ヒチャンが左のSHでスタメン起用された。一方のブラジルは、4−3−3の攻撃的MFに、怪我の影響でグループステージの2試合を欠場していたネイマールがスタメンに復帰した。

両チームのスタメン

 ここからは、時系列で試合経過を追っていく。パウロ・ベント監督の下、ポゼッションサッカーを志向する韓国は、前半開始直後から最終ラインからのビルドアップを試みた。それに対してブラジルは前線からプレスをかけ、ボールの奪取を試みた。両SBが比較的高い位置をとる韓国に対し、ブラジルの両WGが韓国のCBからSBへのパスコースを分断、あるいはマンマーク気味にケアし、韓国の2ボランチに対してはそれぞれネイマールとルーカス・パケタが睨みを効かせることによって、ビルドアップを封じようとした。その結果、韓国の両CBは十分なスペースを持った味方への選択肢を失い、前線のソン・フンミン目掛けてアバウトなロングボールを蹴り込むか、ライン間のハーフレーン付近にポジションをとったSHに強引に楔のパスを入れざるを得なくなった。ブラジルの対人守備は非常にインテンシティが高く、1対1にも強いため、ブラジルはミドルサードでボールを回収することに成功した。

 ボールを握ったブラジルは、左SBのダニーロをボランチの位置にあげ、3−2−2−3のような形でビルドアップを行った。ここでポイントとなったのが両ワイドに開いたWGである。スピードとドリブルによる突破力に優れた両WGは、ボールが収まれば容易に攻撃の起点となりうることから、ブラジルの後ろの選手はシンプルにサイドへ精度の高いロングボールを供給した。こうしてブラジルの一方的な試合運びとなっていった。

ブラジルのビルドアップ(3-2-2-3気味)

 その結果は早くからスコアに表れてくる。前半7分には、右サイドで既に再三起点となっていたハフィーニャが仕掛け、グラウンダーの速いクロスが抜けた先で待っていたヴィニシウス・ジュニオールがフリーの状況を決め切り、早くもブラジルが先手をとった。また、その6分後には、ネイマールが代表歴代最多得点にならぶPKを沈めて2点のリードを取った。

 2失点した直後の韓国は、少しでもリードを縮めるべくハイプレスを仕掛けた。ボールを奪った韓国は、サイドでボールを前進させブラジルゴールに迫ったが、両SBの対応により、自分達の形であるクロスに持っていくことができず、カットインしてもエリアには侵入できなかったため、ミドルシュートを選択せざるを得なくなり、ブラジルにとっての脅威とはならなかった。

 韓国が攻めあぐねる時間が続く中で、ブラジルに3点目が入った。コーナーキックからの流れの中で連続してクロスを入れられ、こぼれ球を拾ったリシャルリソンからのダイレクトプレーで、最後は自分で1対1を決めた。

 3点のリードを奪ったブラジルは、無理に前線からプレスに行くことはせず、韓国を自陣に引き込む形での守備ブロックを敷いた。その際にチームとして徹底されていたのが、中央の重要なスペースを埋めるということだ。このことにより、韓国はブラジルの敷いた守備ブロックの外側でボールを回さざるを得なくなり、前述のようなあまり効果的ではない攻撃が続いた。前半の36分にはカウンターからルーカス・パケタが4点目を決め、前半のうちに試合の大勢は決した。

ブラジルの守備ブロック

 後半になると、ブラジルは前半に比べて守備の強度を落としたので、韓国は、クロスを入れられるようになるなど、自分達の形での攻撃が比較的できるようになった。後半31分には、コーナーキックのこぼれ球に反応した途中出場のペク・スンホが、ミドルシュートを突き刺し意地を見せた。その後、韓国は何度もブラジルゴールに迫ったが、ブラジルもカウンターから再三チャンスを迎えるなど形勢は大きくは変わらず、結果4-1でブラジルがベスト8に駒を進めた。


分析

 では、なぜ韓国はここまでブラジルに圧倒されたのか。ポイントは2点ある。まず、両チームの決定的な差となったのは、攻守のトランジションの速さである。ブラジルは、前半から敵陣深くに押し込み、それに対して韓国はカウンターによる攻撃を狙った。しかし、韓国の守備がボールを奪った瞬間、リシャルリソンをはじめとしたネイマール以外の前線の選手が、素早くプレスしてボールホルダーに寄せ、カウンターの芽を摘むことを試みたのに対し、韓国の中盤の選手は、攻守のスイッチの切り替えがうまくいっておらず、ボールホルダーはすぐに選択肢を失い、ボールロストや、後ろに下げさせられるシーンが目立った。韓国側としては、自陣で構えた時のブラジルの守備ブロックを崩すことは困難だったため、カウンターから得点チャンスを伺う必要があったが、ブラジルの集中した守備の前にチャンスを創出することができなかったのである。

 また、後半になると韓国側が敵陣に押し込み、人数をかけて攻撃をするシーンが増加したが、その分ブラジルのスピード・枚数共に優れたカウンターを受ける回数も増加した。特にキム・ジンスや代わって入ったホン・チョル、キム・ムンファンの両SBは、激しく上下動を繰り返すことをタスクとして求められたために体力の消耗が著しく、韓国側が自陣からカウンターを仕掛けることを試みても反応が鈍くなってしまったのだ。
 
 第二に、ブラジルの前線の選手が流動的なポジションをとったことに対し、韓国側の守備が有効な対策を見つけられなかった点も大量失点の要因として挙げられる。ブラジルは、中盤のネイマールやルーカス・パケタが左右に流れて攻撃のリズムを作り出し、守備の撹乱を図った。4-4-2の守備ブロックを構築し、ゾーンディフェンス気味で守る韓国は、局面においてブラジルに数的優位の状況を作られ、ATK3rdで簡単に前を向かれるなど、対応が後手後手に回ってしまったのだ。

 その中で試合を通して出色の活躍を見せたのが、攻撃的MFで先発したルーカス・パケタである。攻撃時においては、時にはライン間のハーフスペースにポジショニングしてボールを引き出し、時に右サイドに大きく開いてWGのハフィーニャとの連携でサイド攻撃を担い、攻撃を活性化させた。その活躍はスタッツにも現れており、キーパスの本数はハフィーニャと並んでチームトップタイの3本、ボールを受けた回数も93回でチームトップの値を記録した。
 また、守備における貢献度も大きかった。韓国はビルドアップにおいて、両SHに中のポジションを取らせ、アンカーのカゼミーロの脇にできるスペースを使おうとした。しかし、ルーカス・パケタが守備時に戻ってカゼミーロとダブルボランチのような形で並ぶことで、そのスペースを埋め、韓国の前進を防いだのだ。


終わりに

 ここまで試合レビューを行ってきたが、今回のワールドカップにおいて最も重要になったのはやはり守備である。今大会において、日本が相手の攻撃を凌ぎ続け、カウンター戦術で強豪ドイツ・スペイン両国を破って決勝トーナメント進出を果たしたり、堅守を誇るモロッコがアフリカ勢史上初となるベスト4に進出したりと、守備の固さを主眼に置くチームの躍進が続いた。現代サッカーにおいて、自陣においてスペースを消してブロックを形成したチームの守備を崩すのは困難であり、今大会でも多くの得点がカウンターなどの速攻やセットプレーから生まれた。その中で押し込まれた中で立て続けに4失点してしまった韓国守備には、フィジカルなどの個の能力に差があることを鑑みても、組織的な失敗があったと言わざるを得ない。この試合では圧倒的なパフォーマンスを見せたブラジルでも、準々決勝でクロアチアに攻撃を封殺されたことは韓国にとっては衝撃だろうが、アジアの雄として新代表監督の元でのチームの再出発に期待したい。
  
 


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