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船長と奥さんと穀物畑

むかしむかしオランダの海ぞいに

それはそれはにぎやかな町がありました。


 毎日たくさんの荷物をつんだ船が、出たり入ったりしています。

 お金持の人も、おおぜい住んでいました。

 その中でも一番のお金持は、ある、わかいおくさんでした。


 このおくさんは、ご主人がなくなってからは、一人でくらしていました。

 美しい人でしたが、ただこまったことに、たいへんうぬぼれがつよかったのです。

 おくさんは、たくさんの船を持っていました。

 住んでいる家も、町で一番大きくてりっぱな家でした。
 家のかべには、すばらしい絵がかかっています。
 家中にしいているじゅうたんも、とても上等なものでした。
 食事のときには、金と銀のお皿で食べるのです。
 ある日、おくさんは年とった船長をよんで、

「あなたは、これから世界じゅうをまわってきてください。わたしの船をみんなつれてね。
そして、あなたが世界一美しいと思ったもの
、世界一とうとい思ったものを持ってきてください。
でも、一年したらかならず帰ってきてくださいよ」
と、いいました。

 船長はすぐに、世界一周の旅にでました。

 町の人びとは、それからというもの、

「あの船長は、どんな宝ものを持ってくるだろう?」
と、そればかりはなしあっていました。
 一年がたちました。
 ある日、見はりのものが、
「船が帰ってくるぞー!」
と、さけびました。
 町じゅうの人びとが、船つき場に集まりました。

 わかいおくさんも、むかえにでてきました。

 人びとは、おくさんのために、うやうやしく場所をあけました。

 美しいおくさんの目は、ギラギラとひかっていました。
 船長が、どんな宝ものを持ってきたか、はやく見たくてたまらなかったのです。

 しらが頭の船長は、ボウシを手にして、おくさんの前にすすみでました。

「おくさま、ただいまもどりました」

「あいさつはいいわ。それで、なにを見つけてきてくれましたか?」

「はい。ながいながいあいだ、わたくしは、世界中を旅して、いろいろな宝ものを見ました。
しかし、どれもこれも世界一美しいもの、

世界一とうといものとは思われませんでした。わたくしは、もうすこしであきらめてしまうところでした」
と、船長はさらに、はなしつづけました。




「ところが、バルト海のある港にはいっていったときのことでございます

穀物(こくもつ)畑が見わたすかぎり、ひろびろとひろがっておりました。

ムギの穂(ほ)は、風をうけて波のようにゆれていました
太陽はあたりいちめんに、こがね色の光を投げていました
これを見たとたん、わたくしは穀物(こくもつ)こそ、
わたくしたちのまいにちのパンをつくる穀物こそ、世界一美しいもの、
世界一とうといものだと思いました。そこで、船いっぱいに小麦をつんでまいりました」
「なんだって!」
 おくさんは、まっかになっておこりました。


「穀物を持ってきたって。
バカ! トンマ! そんなことのために、一年も世界を歩きまわったのかい」

 船長は、しずかにこたえました

「はい。わたくしは一年かかって、ようやく、世界でいちばんたいせつなものは、穀物であることに気がつきました。神さまが、こがね色に波うたせている、あの穀物でございます。あれがなくては、わたくしたちがまいにちたべるパンもつくれません」

「ええい。そんなものは、海にすてておしまい!」
と、おくさんはどなりました。

「それから船長、おまえもいっておしまい。おまえは首にします。おまえの顔なんか、もう二度と見たくない!」

 船長はだまって、どこかへいってしまいました。

 船乗りたちは、穀物を海にすてはじめました。
 そのときとつぜん、やせたしらが頭のおじいさんが、おくさんの前にすすみでました。

 おじいさんは片手をあげて、ひくいけれども、あたりの人にもハッキリと聞こえる声でいいました。

「気をつけなさい。神さまからのいちばんとうといおくりものをすてたりすれば、
かならずバチがあたる。よく考えてみなさい。世の中には食べ物がなくて、腹をすかしている貧乏人も、おおぜいいるのだ。お まえさんだって、いつ貧乏になるかもしれない。気をつけなさい」

 美しいおくさんはカラカラと笑って、

自分の指から、世にもすばらしい宝石のついた指輪をぬきとりました。

 そしていきなり、それを海の中に投げこんでしまいました。
「ふん! 海はこの指輪を、わたしにかえしてはくれないでしょう。でもわたしは、貧乏にはなりませんよ。さあ、さっさと荷物をすてておしまい」
 こうさけぶと、おくさんは頭を高くあげ、胸をそらせて帰っていきました。
 しばらくして美しいおくさんは、大きなパーティーを開きました。

 そのあたりのお金持の人たちは、のこらず集まってきました。
 宝石はピカピカとかがやき、絹の衣装はキラキラと光りました。



 みんなは、飲んだりたべたり、大さわぎをはじめました。
 そのとき、一人のめしつかいが、大きなお皿をはこんできました。
 お皿には、大きな大きなさかなの丸あげが乗せてありました。
 おくさんはさっそく、さかなを切りはじめました。
 ところが、ひときれ切ったとたん、ビックリして、
「あっ!」
と、さけんだのです。
 みんな、お皿のまわりに集まってきて、さかなを見つめました。
 だれもかれも、あっけにとられて口もきけません。

 さかなのおなかの中には、指輪がキラキラ光っていたのです。

 しばらく前に、おくさんが海の中に投げこんだ、あの指輪だったのです

 海が指輪を、おくさんにかえしたのです。
 あくる朝、おくさんの船があらしにあって、みんなしずんだという知らせがとどきました。

 でも、これはほんのはじまりで、不幸せなことはつぎからつぎへとつづいて、おくさんはどんどん貧乏になりました。


 こうして、一年がたったときには、わかくて美しくてうぬぼれやのおくさんも、とうとうこじきになってしまったのです。
 おくさんのいた町もさびしくなって、いつのまにかなくなってしまいました。
 穀物の投げこまれた船つき場のあたりは、いまは砂でうまっています。
 もうここには、一そうの船もやってきません。
 一年たつと、そこにムギ畑ができました。
 けれども、この畑のムギの穂は、中がからっぽでした。

おしまい



 5月16日は性交禁忌の日
 江戸時代、この夜は特に性交禁忌の日とされました。
 禁忌を破ると3年以内に死ぬとまで言われていました。

5月16日は

 ネポムクの聖ヤン・ヨハネの祝祭日
 自己判断・ボヘミア・チェコ・スロバキアの守護聖人。

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