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英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23「ダイヤモンド・セレブレーション」 未来を見据えた必見の公演

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/23でバレエ公演「ダイヤモンド・セレブレーション」が2023年2月23日まで上演されている。バレエ団のファン組織「フレンズ・オブ・コヴェントガーデン」誕生60周年を祝うもので、3部構成9作品、多国籍の15人のプリンシパルから若手に至るまで、カンパニー総出で「フレンズ」に対する感謝を表するという、非常に贅沢なガラ公演だ。
英国ロイヤル・バレエ団が生んだ名作や、ワールド・プレミアとなる新作、さらに「ダイヤモンド・セレブレーション」――バレエ団とファンの「ダイヤモンド婚」ともいえる60年にふさわしく、バランシンの『ジュエルズ』より『ダイヤモンド』で締めるという構成も粋。出演者のクオリティはもちろん、伝統的な名作から意欲的な新作まで、バレエ団の未来をしっかりと見据えたバレエ団の真摯なまなざしも感じられ、これを映画館で見られるという贅沢には感謝をせずにはいられない。必見である。

■「リーズ」や「マノン」。バレエ団が生んだ振付家の代表作

第1部は英国ロイヤル・バレエ団が生んだ名振付家と彼らによる名作がテーマ。フレデリック・アシュトン、ケネス・マクミラン、そして現在活躍中のウェイン・マクレガーとクリストファー・ウィールドンの作品を取り上げる。

『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』 ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

『シンデレラ』『二羽の鳩』などでも知られるアシュトンはバレエ団1935年に英国ロイヤル・バレエ団の前身であるヴィック・ウェルズ・バレエに入団し、ダンサー、そして振付家として活躍する。『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』(『リーズの結婚』/1960年初演)はアシュトンの名を世に知らしめた代表作の一つとされ、今でもバレエ団の代表作の一つとなっている。オサリバンの溌溂としたリーズが個性にマッチ。

『マノン』 ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

マクミランは英国ロイヤル・バレエ団の象徴ともいえる演劇的要素の深い「ドラマティック・バレエ」の代表的な振付家の一人。彼の代表作『ロミオとジュリエット』『マイヤリング』『マノン』の主演は、世界中の名ダンサー達が「一度は踊ってみたい」と口にする名作であり難役である。ロイヤル・バレエ団のダンサーにとって、そうした思いはことさら強く、熱く、公演ともなると主演に限らず舞台上全てのダンサーもとい演者たちが、バレエ団の誇りをかけて作品に命を吹き込むのである。今回マノンを踊るのは高田茜。その存在感と色気は、小悪魔とはこれか、と思わせられる香りを放つ。

『For Four』©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

現在活躍する常任振付家の作品からはマクレガー『クオリア』と、ウィールドン『FOR FOUR』を上演。とくにウィールドンの『FOR FOUR』はこの公演がカンパニー初演。シューベルトの『死と乙女』の弦楽四重奏にのせて、4人の男性ダンサーが競演する。マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベという、フレッシュな魅力や優雅さなど、多様な個性を持つ男性たちの競演は実に見応えがある。

■お気に入りが見つかる?4作のワールド・プレミア

続いて第2部はワールド・プレミア、いわばこの公演が世界初演となる4つの作品が並ぶ。

『See Us!』©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

トゥーンガ『SEE US!!』を踊るのは、アーティストなど若手たち。プリンシパルだけでなくこうした若いダンサーにも舞台に立つ機会を与えているのが素晴らしいのだが、それに応えたような熱と、何か湧きだすような感情が胸に迫りくる。

タノウィッツ『ディスパッチ・デュエット』は劇場の柱と送電線パネルのようなセットを組み合わせた舞台で踊られる男女ペアの作品。男性の衣装のパンツの部分がスカートのようにひらひらと揺れることもあってか、過去から未来に至る様々な時代やあらゆるジェンダーがボーダーレスで融合するかのような、不思議な世界観が魅力か。

『コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使』©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

プフェール『コンチェルト・プール・ドゥ―ふたりの天使』は1970年代のヒット曲を使ったもの。世代的によっては昭和感を覚える一方で、もしかしたら一周回って新しいのだろうかと、思わず腕を組む。とはいえ、マックレーの存在感は素晴らしく、やはりこの人はバレエ団が生んだ世界的な大スターであると思い知らされるのだ。

『プリマ』金子扶生 ©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

ズケッティ『プリマ』はフランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディの4人の女性のために振付した作品で、衣装はキャサリン妃やミシェル・オバマなどセレブご用達のファッションデザイナー、ロクサンダ・イリンチック。第1部の男性4人の踊り『FOR FOUR』と対をなす作品ともいえる。金子扶生のゴージャス感もさることながら、この衣装を着こなすことのできるという、魅せ方を心得たダンサーの「すごさ」を感じる。

■「ダイヤモンド」の至高の輝きときらめき

『ダイヤモンド』©2022 ROH. Photographed by Andrej Uspenski

最後はジョージ・バランシン『ダイヤモンド』。1967年にニューヨークで初演された『ジュエルズ』は「エメラルド」「ルビー」「ダイヤモンド」の3つで構成され、「エメラルド」にパリ、「ルビー」にニューヨーク、そして「ダイヤモンド」にはロシアバレエへのオマージュが込められている。

主演はマリアネラ・ヌニェスとリース・クラーク。幕間のインタビューでヌニェスが「リースのためにある作品のよう」という通り若い騎士がロイヤルの女王・ヌニェスにかしづき、輝かせる。大粒のダイヤモンドを中央に戴きながら、磨き抜かれた数々の宝石たちがきらめくひと時を、存分に堪能していただきたい。

ロイヤル・バレエ『ダイヤモンド・セレブレーション』
(2022年11月16日上演作品)


指揮:クン・ケセルス ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団

【第1部】
●『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』序曲とパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フェルディナンド・へロルド
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、アレクサンダ―・キャンベル
●『マノン』1幕 寝室のパ・ド・ドゥ
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
出演:高田 茜、カルヴィン・リチャードソン
●『クオリア』
振付:ウェイン・マクレガー
音楽:スキャナー
出演:メリッサ・ハミルトン、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド
●『FOR FOUR』(カンパニー初演)
振付:クリストファー・ウィールドン
音楽:フランツ・シューベルト
出演:マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベ

【第2部】
●『SEE US!!』(世界初演)
振付:ジョセフ・トゥーンガ
音楽:マイケル“マイキーJ”アサンテ
出演:ミカ・ブラッドベリ、ルーカス・ビヨンボー・ブレンツロド、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、レオ・ディクソン、ベンジャミン・エラ、
オリヴィア・フィンドレイ、ジョシュア・ジュンカー、フランシスコ・セラノ、ジョセフ・シセンズ、アメリア・タウンゼンド、マリアンナ・ツェンベンホイ
●『ディスパッチ・デュエット』(世界初演)
振付:パム・タノウィッツ
音楽:テッド・ハーン
出演:アナ=ローズ・オサリヴァン、ウィリアム・ブレイスウェル
●『コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使』(世界初演)
振付:ブノワ・スワン・プフェール
音楽:サン=ブルー
出演:ナタリア・オシポワ、スティーヴン・マックレー
●『プリマ』(世界初演)
振付:ヴァレンティノ・ズケッティ
音楽:カミーユ・サン=サーンス
出演:フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ

【第3部】
●『ジュエルズ』より『ダイヤモンド』
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
ロイヤル・バレエ団
公式サイト
https://news.eigafan.com/roh-test/movie/?n=a_diamond_celebration2022

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