アブナイ原稿

今から15年近く昔、「AX」というアニメ雑誌がありました。
SONYとアニメと言えば、現在アニプレックスとして大成功をおさめ、傘下にA1ピクチャーズも持ち、覇権(笑)の一翼を担っておられるわけですが、この時期はまだアニメにどう参入していくか腰が定まらなかった時期で、とりあえず情報発信の場として創刊されたのがAX誌でした……と、私は理解しています。
その編集部が、後に出る「機動戦艦ナデシコ」の豪華ボックスを担当されていたり、放送中だった「南海奇皇」を推していてくれたりした関係で、私は創刊二号から半ページのコラム連載をさせていただきました。連載タイトルは「ゆーだけ?」。
多分調子にのっていたんだと思います。また当時私はラジオ番組で話すことも多く、そうしたフランクな語り口を活字で再現したいと思っていたこともあって、いま読むと……ちょっと……これは……かなりドイヒ。

そんなわけで連載は七回で終了と相成りました。と、ここでこの文章のタイトルに戻るわけです。
つまり「アブナイ」のは、読んだ方ではなく、私の立場ということになります(苦笑)。

当時まったく反響もなかったので、たぶん読んだ方もほとんどおられないと思います。
そこで恥をしのび、危険をかえりみず、公開に踏み切ってみました。
ただし、私が保存しているのは校正前のテキストファイルなので、たぶん当時掲載された文章とは細部が異なっていると思います。
またさすがに今読んでこれはないな、と思う部分もありましたので、人様の眼に触れてもさしさわりないと考えた回の原稿のみを、それも一部訂正しつつ、ということにさせてください。
それぞれの文章の前後に、このような解説(言い訳)をつけます。

毎回一応テーマのようなものを決めて書いていました。ここに採録したものは以下の五本になります。

○昔の怪獣ファンがやっていたこと
○人生は第二志望で成功するってホント?
○出版できなかった小説たち
○途中で終わってしまった連載たち
○「THE八犬伝」について

……それでは、どうぞ。




連載第二回原稿より

 はい、ここ最近出たアニメ関係の本で一番重要だと思えるのは「二十年目のザンボット3」(氷川竜介)と、「鉄の城」(赤星政尚)の二冊なんだけど、もう買った?
 以前どこかで(ラジオに来た葉書だったか、パソコン通信だったか)これらの本について「昔のファンってアニメ観るときメモとってたんだって」「うそぉ?」みたいな感じの感想をみかけてちょいとショックを受けたんだよね。そういう世代が居ることは想像してたけど、そういう人達が一方で「つまらない」「わからない」という言葉を使う、それは納得いかない気持ちもあるわけ。で、今回はそういう話。
 三十歳以上じゃないとまづ知らないと思うけど、ケイブンシャが昔「原色怪獣怪人大百科」という本を出していた。説明するのは難しいんだけど、本といっても中身はB4オールカラーの紙が折り畳まれて何枚も入っているという形で、その紙に表裏で十六体の怪獣や怪人がアイウエオ順で紹介されているというもの。当時は特撮ヒーローもの全盛だから勿論全て特撮ものばかりだ。
 最初に買ってもらったのは小学校低学年だったと思うけど、高学年になってある日ふと思いついたことがあった。「原色……」の各怪獣怪人のデータには、それが登場した「作品」「エピソードタイトル」「放映日」が多少のヌケはありながらフォローされていた。と、いうことは、だ。それを作品ごと放映日順に並び返れば、各作品の「全話リスト」が出来るのではないか?なんでこんなことやってみようと思ったのかなぁ。多分「シルバー仮面」と「アイアンキング」のサブタイトルがあんまりに格好良すぎたせいじゃないかと思う(「さすらいびとの荒野」とか「朝風の密使」とか)。
 実際にはヌケが多かったりデータの間違いがあったりして、完全なリストは出来ない。余計に悔しくて、自分で図書館にいって新聞の縮刷版でとにかくサブタイだけは拾ってきて、自分だけのリスト作って悦にいっていたわけ。考えてみればファンダムの先輩達が作っていたリスト(当然テレビにかじりついて作っている)が、「原色怪獣怪人大百科」の元になっているわけだから、なんか本末転倒なことやっていたわけだけど。
 その後「ファンタスティックコレクション ウルトラマン」が出て、そこに精緻な放映リスト(当時はフィルモグラフィと呼んでいた)が掲載されているのを見て、ビックリすることになる。
 大人になって、「原色……」から逆にリスト作ろうとしたのなんて自分だけだろうな、と思っていて、別に誰にも言わずにいた。ところが、ええと、あれはなんのときだったかな。脚本家の荒木憲一さん(「ダグオン」「ヒカリアン」)、荒川稔久さん(「戦隊シリーズ」「ブルーシード」)と呑んでいたとき、ふとそんな話になって「オレもやってた」「オレも」ってな話になっちゃった(笑)。


この文章の後段、「さて、よく作品をつまらない切って捨てる感想があるが、それってもしかしたら損してるだけかも知れないよ」という話に入っていくのですが、そこはカットします(笑)。いや、今でもそう思わないでもないけど、ただ「つまらない」というのも鑑賞者の自由ですからね、と。
自分たちか当時やっていたことなんて、今はWikipediaで簡単に調べられるし、データ原口さんたちがおやりになっていることに較べたら、児戯に等しいです(まあほんとに子どもだったので)。ただ実はWikipediaには間違いもあるし、そもそもネットをいくら調べても見つからない事実は山のようにある。それは現在も変わっていないと思うんですね。


連載第三回原稿より

 フランスを代表する歌手にして名優のイブ・モンタンは、映画のロケ現場で倒れ病院に運ばれる救急車の中で、こう言い残したという。
『私は人生を十分に愉しんだ』
 だから、後悔はしていない、と。
 この時撮影していた映画が「ベティ・ブルー」で知られ、後に日本の「ヲタク」のドキュメンタリーを作ってしまったジャン・ジャック・ベネックスの作品だったっつーのは、勿論単なる偶然だけど。
 今回はそういう話だ。
 
「趣味は?」と聞かれると「仕事」と答えるのは淋しい生き方の代表のようにとらえるムキがあるが、ボクはまさに「趣味:脚本」、いや「趣味:會川昇」である。脚本を書くということは人生の一部になってしまっている。
 だから脚本を書くという作業は、所謂「仕事」ではありえない。右から左に流したり、「自分にはもっと大切な(たとえばロックとか、オンナとか、小説とか)ものがあって、本当の自分はそこにあるのだから、脚本はただの仕事だ」などというしたり顔はなかなか出来ない。
 作家などというのはやはり「なってしまう」ものではなく「なる」ものだとボクは考えている。自分でわざわざリスクのデカいのを承知で選んだ職業なのだ、「オレはこんな子供向けの仕事ではなく本当のもの(たとえばロックとか、以下省略)で自己表現すんのさ」なんて思うぐらいなら、最初からソッチを仕事にしたらいかがか、などとつい思ってしまう。作家という仕事に対して失礼な気がするのよ。
「人生は第二志望で成功するっていうよ」と昔、PDに言われたことがある。その人は脚本を書きたがるボクに「お前は小説家になるべきだ」としつこく薦めたのだ。
 それってなんか変じゃないのか?本当に好きなことを仕事にして、それで成功できればそれが一番いいことじゃないのか?
 
 昔NHKで放映されていた「おしゃべり人物伝」は、ドラマとトークが混ざった異色の偉人伝で、早坂暁、佐々木守、実相寺昭雄、倉内均など豪華な脚本メンバーが名を連ねていた。岸田戯曲賞をとったばかりの山元清多(「ウルトラマンT」の「山椒魚の呪い」……って古いねどうも)による「イソップ」はその中でも印象に残る作品である。奴隷から身を起こしながら放浪を余儀なくされた彼の人生の中で、山元脚本は有名な「酸っぱい葡萄」をクライマックスにおいた。自由を失いかけたイソップは
自分が考えた「あの葡萄は酸っぱいんだ」と諦める狐の話を嘯く。だが、とイソップは顔をあげ、叫ぶ。「いや、違う! やはりあの葡萄は甘く瑞々しいのだ」と。自分は愚かな狐にはならぬ、と。
「アウターリミッツ」の名脚本家ジョセフ・ステファーノが、プロデューサーも務めた映画「天国の約束」は、世界恐慌を背景に自分の町にやってきた映画館にいきたくてしょうがないのにそれを隠している少年の話だ。少年は映画を見たくて仕方なくあくせくして入場料を手に入れようとするがなかなかうまくいかない。面倒だし恥ずかしいのでつい「別に映画なんて」とポーズをとってしまう。それを見抜いていた祖父は息を引き取るとき少年を呼びよせて、「求めろ」という言葉を残す。
 ボクはそれらの作品にこめられたテーマを愛する。
 
 先日「アニメ好きはアニメの脚本など書くべきではない」という友人の発言を読んだ。彼の気持ちはわからないでもないが、ボクはAX読者に別の意見を述べる。いいではないか、アニメが好きで、アニメの仕事がしたかったら、なんとしてもすればいいのだ。ま、アニメしか好きなものがないってのは困るけどさ(笑)。
 確かにファン出身の「ダメな脚本家」はいる。あまりにダメなのでいつもコンテが力を入れて直すため、ファンには「イケてる」と思われている……というぐらい駄目な人もいることはいる。
 でもそれはアニメ好きかどうかなんて関係ないのだ。「いい脚本家」と「悪い脚本家」がいる、それだけのことだ。
 確かに「結果的には」第二志望で成功する人生が多いのは確かだろう。だが第一志望で満足して死ぬことを望むのが愚かなことだとは、誰にも言えないはずである。


いや、何度も言いますが、酷いデス、当時の私。もはや(笑)をつけるのもはばかられるレベル。
今では全くわからないと思いますが、当時別のアニメ誌に知人の脚本家がコラム連載してて、そこで「自分にとって一番大切なものは別にあり、アニメの脚本は仕事だ」みたいなこと書いていたので、ひどくご立腹されたのがこの文章なんでしょうね。人それぞれなんだからほっとけよ、と当時のワタシの肩をポンポンしてあげたいです。
またSFとか時代物とか、まあなんでもいいんですが、そういうのをたくさん読んだり見たりしてるくせに「好きだから仕事では書きたくない」とか平然と言う、別の脚本家がいたりして、そういう人にも腹が立っていたんですね。ワタシなんか全然海外SF読んでない薄いファンに過ぎないから、そういう濃い知識のある人は、SF系アニメに呼ばれたら、もうバリバリにハードなのを書けよ! とか勝手に思い込んでいて。
いや、だから人それぞれなんだから、ほっとけよ。
それはさておき、文中に出てくる「おしゃべり人物伝」は、非常に優れたシリーズでした。多くの脚本を書かれ倉内均さんが社長を務められた会社が、後年「BSアニメ夜話」などを制作されていたのも、面白い縁ですね。

さてどの原稿も酷いけど、次の原稿は群を抜いてます。なにしろ「反響がなかった」と書いたこのコラムですが、さすがにこれについては複数の人から「ああいうことは書かない方がいい」と、半ば呆れ顔で忠告までいただいたのですから。


連載第四回原稿より

前回のこのコラムで僕は「小説家になれと薦められたが、それは自分の第一志望ではなかった」というようなことを書いた。
 だからといって僕は小説が嫌いということではない。いやむしろ自分の人生において一番深みと愉しみを与えてくれているものは子ども時代から今に至るまでまづは小説だと断言できる。
 しかし現実に小説家になってしまうことには躊躇いがある。今回はそういう話だ。
 
 熱心な、或いは、意地悪なファンならご存じかも知れないが、僕は有名な嘘つきである。
 これまで各出版社の出版情報どころか、当月の「新刊広告」にまでタイトルが載りながら、ついに出版されなかった小説が僕には多数ある。懺悔の意味もこめて列記してみよう。


『吸血姫美夕』(富士見書房)
『ガンヘッド3』(角川書店)
『八犬士傳』(角川書店)
『グラン・ヒストリア』(アスキー)
『機動戦艦ナデシコ』(富士見書房)

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