大魔獣激闘 鋼の鬼 についての幾つかの文章

「大魔獣激闘 鋼の鬼」は私が「原案」としてクレジットされた最初のOVAで、ノベライズも書きました。この作品についてははプロットから、最近のDVDのブックレットまで相当な量の文章を書いてきたので、ここにまとめてみました。

最初のプロットを書いたのは1986年、21歳の時で、内容的には相当未熟です。そのため有料とさせていただいて、こっそりと公開させていただく次第です。

最も最近に書いたDVD用の原稿から、当時のプレス原稿、LDやLPの解説原稿、そしてプロットへと先に行くほど古い原稿になっています。プロットは三回書き直したものを全て収録しました。ノベライズや完成作品と見比べていただくのも一興かと思います。

DVD発売時のブックレット用コメント。当時は既にPNを「會川」に統一していたが、わざと元の表記にした

「鋼の鬼」について      会川 昇

「大魔獣激闘 鋼の鬼」が発売されたのは1987年12月、ぼくが22歳の頃ということになります。平野監督にその原案となるA4六枚のプロットを提出したのは前年末か。脚本第一稿は87年の五月に完成しています。今になって驚くのは企画提出から成立までの短さ、そして具体的な製作期間のこれまた短さです。
平野監督は当時「イクサー1」の成功で様々なスポンサーから企画を乞われており、徳間書店が板野一郎監督の新作と同時リリースという話題性で新作を求めていました。当初徳間側ではイクサー1とは異なりキャラクターデザインが監督によるものではなく、また暗いストーリーに難色を示したのを憶えています。にもかかわらず企画から発売まで約一年という速さは、当時のOVA界がまさにイケイケでソフトを求めていたことを示すと同時に、結果としてファンのニーズを的確に掴み取り常に新しいクリエイターを発掘することになっていたのだと思います
それにしても実質製作期間が半年ないというのは、驚異です。現在テレビアニメでも脚本からオンエアまで最低三ヶ月必要とされます。勿論企画や設定作業にはもっと時間がかかります。この作品ではテレビ2クールは優に作れる設定書が描かれ、作画も通常のビデオより遥かに手がかかるものでした。同時リリースという都合上どうしても発売日がずらせなかったことでこの製作期間になったのでしょうが、作品を見て頂ければおわかりの通り、いかにAICといえども……。いえ、それでも当時のスタッフが狂乱状況の中で全てを捧げた結果、。
情熱に溢れたフィルムになっていることは感じられます。

最初のプロットの中に次のような一節がありました。
『琢哉は陽気の中に、フと目的意識を失った不安感を見せる。それに対して研究という目的を持っている遙は幸せだと……。だが遙は「おれにだって不安はある。自分がなりたいような人間にはなれないのではないかという……な」』
当時脚本家専業になったばかりのぼくは、若い野心をもてあまし気味で、しかし自分が作家として立つことが出来るのか、就職していく友人たちに対して自分は、という不安もありました。それは大なり小なり大畑さんや平野監督にも通じる気分ではなかったか、だからこそみんな一読してこのプロットを気に入り、様々なアイデアを注ぎ込んで「自分の作品」にしてくれたのだと思っています。タクヤとハルカは自分たちの中にいる『不安と野心』という双子だったのでしょうか。

最後に本DVDに収録されたプロモーションフィルムについて、ぼくが知っていることを書いておきます。これは当時毎夏武道館で開催されていた「アニメグランプリ」会場で作品発表を兼ねたプロモーションのために作られた作品です。しかし当時まだ設定はラフ段階、脚本が終わった程度の進行状況だったため、監督自身がオリジナルのコンテを描き、恩田さん、大畑さんが直接原画を描き、ぼくがコピーを担当しました。そのためキャラもメカも本編とは異なっています。ぼくはこのフィルムで描かれたまさに怪物そのものの「鋼」「怒鬼」を偏愛し、原画をわざわざコピーしたほどでした。今回初収録されることを嬉しく思っています。


STORY(多分プレスシートなどに流用された公式なストーリー紹介。これを脚本家が書くのは相当珍しい)

 舞台となるのは、某国領海に存在するヤクシニー島、そこに建設された巨大な総合研究所「サンサーラ」である。遡ること3年前、サンサーラの有する巨大サイクロトロン(粒子加速機)は、新素粒子マルーダの抽出に成功した。某国政府の意向に従いサンサーラではマルーダ粒子の軍事利用が検討され、粒子部門の責任者、ガルンはマルーダ粒子を使った素粒子ビームの開発に携わった。
 やがて素粒子ビームは完成し、人工衛星から地上に向けての発射実験が行われる。目標は廃棄された軍艦である。その実験を水中からカメラに記録するため、二人の青年が海中探査船に乗り込んで実験に参加していた。ハルカとタクヤである。
 実験は開始され、マルーダ粒子ビームは見事な性能を見せた。ところがその時異変が生じる。ビームが通った空間に忽然と暗黒の空間が出現したのだ。そしてその空間から転がり出るようにして一個の物体が出現、海に沈んでいく。それは表面に刻印が為された「モニュメント」のような物体だった。危険を感じたタクヤはその海域から逃げ出そうとするが、ガルンは許さずサンプルの採取を命ずる。タクヤとハルカは何とかその任を果たしたものの、すさまじい水流に巻き込まれ死の一歩手前まで翻弄された。
 ガルンが研究員の命よりもサンプル採取を優先したことに怒ったタクヤは、親友だったハルカや恋人とも別れて、島を去ったのだった。
 物語は3年後、タクヤがヤクシニー島のサンサーラ研究所に帰ってくるところから始まる。彼はハルカから、切実に助けを乞う手紙を貰い、その為にやってきたのだ。だが昔つきあっていた少女リーズは今はハルカの恋人であり、ガルンは所長となっている。サンサーラはタクヤにとって、居心地の悪い場所となっていた。
 今はガルンの右腕となっているハルカに会うタクヤ。だがハルカは、自分はそんな手紙は出していない、と言う。それ以上追求はしないタクヤだが、ハルカへの疑惑が高まっていくのを押さえることは出来なかった。リーズによれば最近のハルカは人が変わったような時があると言う……。
 その夜島全体に異常な磁場が発生し、裏山に巨大な物体が出現する。沖に駐留している空母から直ちにスクランブルがかけられるが、発進した偵察機は全て、見えざる力によって撃墜されてしまった。巨大な物体はその正体を見せぬまま消えていった。
 翌朝、偵察機の墜落現場に赴いたタクヤは、そこで3年前の実験で生じた破壊痕と同じものを発見する。疑問に思ったタクヤは、3年前のビーム実験を調べ出すが、何故か先回りをするようにそれらのデータは消去されてしまっている。やがてタクヤは、今ハルカが秘かに実験している「何か」に秘密が隠されていることに気付く。
 しかし時既に遅く、ハルカは別の次元からあるおそるべきものを呼び出してしまい、それに自分の体を支配されつつあった。それは巨大な戦闘兵器なのだ。タクヤは悪魔のような機械に心を乗っ取られたハルカを救うため、奔走するがついにハルカを助けるためには自らも同等の力を得て、彼を倒すしか無いと悟る。
 全ての謎の答えは、3年前実験が行われた海に眠っている。タクヤは友のため、自らも「鋼の鬼」と化す覚悟をする。
 大地を突き破ってハルカが合体した巨大な魔神が出現する。果してタクヤは、そして二人の男に明日はあるのか!?


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