見出し画像

TIPS:学会大会に参加して嬉しいことって何?

はじめに

おばんです、今回はTIPSということで、少し軽めの話題について書いてみようと思います。

君は誰?

もともと、ニコニコ動画で活動していた動画製作者です。
主に、応用数学の動画を作成しています。

現在は、VRアカデミアに出会い、現在は「ふくがくちょー」として運営に関わっています。VRアカデミアについては以前公開した記事を参照ください。

また、もう一つの活動として、2019年から開催されている「バーチャル学会」という企画の運営をお手伝いしております。バーチャル学会とはVRプラットフォーム(例えばcluster、VRChat)上で全ての学会イベントを開催するという取り組みで、VRアカデミアからも多くの発表者、スタッフが参加し、VRアカデミアとしても公式に運営協力しています(バーチャル学会って何?という方は以下の記事をご覧ください)。

この学会はおおよそ20名くらい運営委員によるボランティアで成立している訳ですが、各々が運営に関わっている理由は様々です。その上で、私自身がどうしてバーチャル学会運営に関わっているのかというと、その主な理由は学術やそれに関連する活動を問い直す良いきっかけになると考えているからです。

少し説明します。

研究を始めとする学術活動には、多くの研究者間で共有される独特の文化があります。代表例が学会(大会・年会)や論文による成果発表です。少しでも研究に携わったことがある方ならば、それらを通した交流、発表、議論、査読、出版、引用といったプロセスの重要性を否定する人はいないでしょう。

さて、これらの活動は重要な訳ですが、それらは初めからいまの形をとっていたわけではなく、恐らくは研究者が自身の発見を知己に報告するという素朴な形から、発展を遂げたものであると考えられます。それ故に、そこには歴史的経緯の影響(過去の慣習が現在の様式を決定している)と目的の不明瞭性(学術活動が担う様々な機能は初めから求められていなものだけではない)があります。

以上を踏まえ、私は学術活動について以下の二つが必要であると考えています。

まず一つが「学術活動が果たしている役割を解きほぐすこと」です。例えば、今回考察する対象である「学会」であれば、以降の章で示すように、そこには様々な働きが期待されており、その多くは、初期に求められていた役割から逸脱するものも多く含まれていると考えられます。ある意味で、肥大化した(多機能化し過ぎた)学会のもつ役割を解きほぐして、それを一度、整理することが、求められているのではないでしょうか?

二点目が「学術活動を再構成し、その目的達成を最適化する姿を探求すること」です。現在の学術活動は過去の研究者たちによる試行錯誤の結果としてあるわけですが、そこには明確な指針はなく(運営者によって目指すものが異なるため)、それ故に肥大化(多機能化)を招きました。学術活動が担う役割をカスタマイズし、その目的達成に最適な形を模索することで、私達はまだ見ぬ新しい形の学術活動を実現することができるかもしれません。

「バーチャル学会」は元々、物理世界で行われていた学会をVR空間で実施することが可能であるかを検証する、というモチベーションのもと始まりました。奇しくも、この活動は、既存の学会がもつ機能のうち、本質的な部分を抜き出してバーチャル空間に実装する、という過程を踏んでいるため、学術活動のもつ役割を問い直し、再構成するという取り組みに適した取り組みだと思われます。

今はまだ、物理世界で行われる学会の模倣に近い取り組みかもしれませんが、将来的には私達がまだ見ぬ新しい形の学術活動を提示することになるかもしれないと、期待しています。

学会の役割

このNoteでは、学術活動の中でも学会(大会・年会)の役割について、考えてみたいと思います。これまでに引き続き、「VRアカデミア」と「学術系イベントコミュニティ」のdiscordサーバーにて、意見を頂きました。

学会参加者の属性について

私たちは「学会」に様々な立場で関わる可能性があります。まず、その立場を二種類の属性によって分類することにします。

  1. 学会での学術活動の度合い

    1. その他

    2. 聴講者

    3. 発表者

  2. 研究を職業とする度合い

    1. その他

    2. 学部学生

    3. 大学院生

    4. ポスドク

    5. 教員

各属性について、番号が大きくなるほど、属性の「度合い」が大きくなると考えています。

学術活動の度合いと紐づいた利益

まず、一番目の属性と紐づいた学会の利益を挙げていきます。

この属性で区別される主な学会参加者は「聴講者」と「発表者」です。そして、「発表者」は「聴講者」でもあるため、「発表者」が学会から得る利益には、「聴講者」が学会から得る利益に「発表者」特有の利益が上乗せされる形で表現される、という特徴があります。
※聴講者でも発表者でもない参加者については別途考えます

まず、学術活動の度合いが低い参加者でも(聴講者、発表者両方が)得ることができる利益としては

  • 関係者と交流できる

    • 久しぶりに知り合いと会える

    • 情報収集できる

    • 研究アイディアに対するコメントをもらう

    • 気になってた論文著者に直接質問できる

    • 顔が広がる

    • 就職活動につながる

  • 発表を聞ける

    • 最新の知見を知ることができる

    • 新たな研究アイディアのインスピレーションを受ける

    • 専門分野外の知見(問題意識、トピック)を勉強できる

    • 分野の流行や、これから重要になりそうなトピックについて勉強できる

    • 知的好奇心が満たされる

  • 学会が提供するサービスを享受できる

    • ランチョンセミナーで弁当をもらう事ができる

    • 出展物を見るたり購入できる

    • 企業ブースで色々もらえる(ドリンク、ペン、メモ帳等)

    • エクスカーションに参加できる

  • 参加すること自体の楽しみ

    • 旅行

    • 移動

    • 宿泊

が挙げられます。それに対して、学術活動の度合いが高い参加者ほど多く得られる(発表者特有の)利益としては

  • 研究のマイルストーンになる

  • 自身の研究について意見をもらえる

  • 研究業績が増える

  • 自分の能力やプロダクトを宣伝できる

  • 自己顕示欲が満たされる

が挙げられます。

研究を職業とする度合いと紐づいた利益

次に、二番目の属性と紐づいた学会の利益を挙げていきます。
「発表者」が「聴講者」を兼ねる、という特徴を持っていた一番目の属性に対して、二番目の属性は「大学院生」や「教員」といった立場特有の利益が多く存在しています。ここでは、先程述べた「発表者」や「聴講者」としての利益では触れなかった、様々な立場と紐づいた利益について挙げていきたいと思います。

まず、研究を職業とする度合いが低い参加者(学部生など)特有の利益としては、以下が考えられます。

  • 学部生以下は参加費が無料の事がある

  • 大学院の進学先に関する情報収集ができる

次は研究を職業とする度合いが中くらいである参加者(大学院生など)特有の利益です。

  • 将来の同業者との顔合わせ

  • 就職先を見つけられる可能性がある

研究を職業とする度合いが高い参加者(教員など)特有の利益としては

  • 全国の教員が集まる機会であり総会などを通して学会運営や意思決定などを行う機会である

  • 研究室の宣伝ができる

  • プロジェクトに適したポスドクを探すことができる

  • シンポジウムの企画などを通して分野が進む方向性に介入できる

が考えられます。

その他の利益

ここまでは「聴講者/発表者」や、「学部生/大学院生/教員」といった学術研究活動を主な目的とする対象が受ける利益についてのみ注目してきました。しかし、学会には他にも関わり方があります。

まず最初に、直接的には学術活動を行わない「企業関係者」が存在します。これに属する人たちは、企業ブースの出展や書籍の販売といった形で学会に関わっています。そこにおける利益を挙げると以下が考えられます。

  • 学会運営を委託されることで利益がある

  • 企業ブースで自社製品の展示や販売を行うことができる

  • 要旨集などの発行物に宣伝を挿入することができる

  • 求人情報を発信することで雇用が期待できる

他の関係者としては、学会運営委員や学生バイト、座長、ポスター賞の審査委員といった「スタッフ」の存在が挙げられます。その利益としては

  • 有償で行っている場合は金銭的利益がある

  • 運営を通して学会の運営方針や分野が進む方向性に介入できる

  • 満足感がある

などが考えられます。

おわりに

ここまで、いわゆる学会(大会・年会)に参加する人たちがどのような利益を受けているのか、ということを抽出してきました。この行為の根幹には、学会の本質を、多様な参加者に対して「(ある種短期的な)利益」を与えるシステム、という視点から捉えられるという考えがあります。ですが、必ずしも「短期的な利益」だけでは学会の本質を語ることはできないかもしれません。その代表例が「お互い様」という考え方です。学会は多くのボランティアにより成り立ちます。そして、ボランティアをするスタッフの多くは過去(学生時)に学会から得たメリットに対してお返しをする、という考えで損失を引き受けている面があるかもしれません。あるいは、今回、スタッフを引き受ける代わりに、次回以降のスタッフを別人が引き受けてくれる、ということを期待して、ボランティアを引き受けているのかもしれません。こういった「互恵性」に基づく運営については、今回考えたような短期的な利益だけでは理解できない可能性があります。いずれにせよ、今回考えた短期的な利益を網羅的に書き出すことは、学会というシステムを解きほぐし、再構成するにあたって、まず必要な第一歩になるでしょう。

謝辞

この文章を書くにあたり、「VRアカデミアdiscordキャンパス」と「学術系イベントコミュニティ」の参加者より頂いたご意見を参考にしました。以下の方々に感謝申し上げます。

敬称略:T.Kameoka(ふぁるこ)、固体量子、片柳英樹、yona、translation

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?