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【食|酒】バーの楽しみ方6 シングルモルトの沼

シングルモルトウイスキーの味は、水、大麦麦芽、それを燻し乾燥させるための燃料、熟成樽で決まる。

水や原材料は言うに及ばず。麦はしばし水につけて麦芽となった後、乾燥の工程に入るのだが、この麦芽を乾燥させるために燻す燃料がとても大事なのである。

燻製を作る際のチップの重要性を思えばわかりやすいだろうか。

一般的に燃料は石油や石炭やピート(コケや海藻などが堆積してできた泥炭)が使用され、石炭で燻すと麦芽に香りがあまり付かず、アッサリとした香りに仕上がる。対してピートで燻すとピート香(煙臭さ)がしっかりとつき、そのうえ海岸沿いなどピート採取の地域によりピートに含まれる海藻に由来するヨード臭たっぷりの、うがい薬や正露丸のような、とにかく薬品臭い一品に仕上がるわけである。

初めての方は大概嫌な顔をなされるが、癖の強いモノほどハマると中毒性が高いのである。


なかでもボクの愛飲する〈アードベッグ〉は、スコットランド西側、ピートのふんだんに採れるアイラ島の蒸留所で製造され、しっかりと乾燥工程の最初から最後までピート乾燥のみで育てられた一品である。バーテンダーに「煙くてクスリ臭いの」とオーダーすれば、ほぼこの銘柄を薦められたりする。

ちなみに〈アードベッグ〉は、ブレンデッドウイスキーの最初の一杯でお勧めした〈バランタイン〉のキーモルトであり、まさに「原酒」として楽しめるのである。


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ボクの持論として、シングルモルトは蒸留所ごとの特徴を楽しむモノだから、穏やかで繊細な味のモノから入って「ふーん……」なんて言う中途半端な印象を持たれるより、まずは強烈なインパクトのあるモノから入って、驚きを持っていただきたい。

とはいえ〈アードベッグ〉はその香りと、高いアルコール度数からくる辛味で、初対面の印象はおそらく最悪だから、それでシングルモルトを敬遠されても大きな機会損失である。よって少しだけ態度を軟化させてキミに歩み寄ってみよう。〈アードベッグ〉は次の機会でもいい。


まずはアイラモルトの女王と称される〈ボウモア〉あたりを飲んでみようか。彼女もやはりアイラ島出身という出自通り、しっかりとピート香をまといながら、後から柑橘系のような爽やかな香りのする、それでいて甘さのない芯のしっかりした熟女、じゃないな。妙齢のアレなんである。


男は幼なじみとお医者さんごっこをして性に目覚めるが。いつまでも幼なじみや同級生のような付き合いやすい層のお世話になってばかりいてはイケナイ。ちゃんとした男は、妙齢の女性からしっかり性の手ほどきを受けて、立派な大人になって行くモノである。

それでもダメならアイラ島をいったん離れてみよう。後は草食系の汚名を背負ったままアイラから逃げるようにひっそり生きて行くもよし。豪を称するほど修行を積んで再びアイラと相まみえてもよし。人生の先輩としては後者をオススメするが。それもまた人それぞれである。

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