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人生はスピードを出した方が楽しい
あんたは石橋を叩きすぎて壊すタイプだよねぇ、と幼い頃から親に言われてきた。慎重になりすぎて失敗するのである。その慎重さが仇となって時には生活に支障が出るほど、歩みを緩めてしまう。
教習所の所内を走っていて、教官に注意される。
「ここ、もっとスピード出してください」
車のスピードが恐ろしく、20キロ以上出せない。
教官がブレーキを踏んでくれるとわかっていても、所内の塀に激突する図が思い浮かび、急ブレーキを出してしまう。
「スピード出さないとカーブ、うまく曲がれないですよ」
と言われたので仕方なくアクセルを踏み、加速する。
個人的な感覚では理解できないのだが、スピードを出した後に減速した方がうまく曲がれるのだと気づく。
思ったより運転、できるじゃん、と安心する。
わたしの人生もそんなものだったかもしれない。
慎重すぎることはかえって失敗を招いてしまう。
2020年春以降、訳の分からないウイルスに生活が蝕まれ、あらゆるものと隔てられてしまった。友人、先生、家族。外出へのリスクが高まったので、慎重派の私は、すべての動きを止めることになった。
留学を取りやめて、友人との会合も控えた。当時所属していたブラック学生団体からも解放され、友人との飲み会を楽しみつつ、留学の準備を進めると思っていた矢先のことだったから、失望が大きかった。
1ヶ月以上、友人と会わないこともザラにあった。とりあえずアルバイトには行っていたものの、それ以外は家に引きこもる毎日。そんな生活をしていたら、思考回路も消極的になってしまった。できる理由より、できない理由を探すようになった。(自己啓発系のアカウントではない…)
こんな暮らしを2年続けていたが、この春大学院に進学し、生活は大きく変わった。学部3,4年の頃はまったく動きがなかったので、新たな出会いが眩しい。
どこ出身?好きなアーティストは?学部1年の頃にたくさん交わした質問を久しぶりに聞く。
社会人になった友人は見知らぬ街で生活をしていて寂しいけれど、こちらも新たな出会いと共に研究生活を進める。
たまにそのスピードについていけなくなりそうになるが、やはり人生はちょっとスピードが出たほうが楽しいのかもしれない。ちょっとだけ、見知らぬ世界に足を踏み入れ、スピードを上げる。
意外とできないことはできなくないのである。
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