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岡の上の最強を見た

 散歩をした。そこはいつも通りなのだが、土曜の昼に起きて、夜まで予定が無いときて、本屋or映画館→喫茶店→銭湯orサウナ→家系ラーメンの貴族コースの1つも経ずにただ歩いた。外出自粛ムードは徒歩プレーヤーにはちとキツい。

 家の周りは特に何も無い。街に対して「何も無い」は思考停止ワードなため使用を避けているのだが、こと我が自宅付近の川崎市北部に関しては「何も無い街」のモデル地区であり続けるプライドがあるかの如く何も無い。これはマ。

 そこで、多摩川が形成した沖積平野の中流右岸、川崎北部から相模湾にまで連なる丘陵の入り口、多摩丘陵の北の際を歩くことにした。軽登山だ。装備は特にないから危険かもしれない。熊に襲われても文句は言えない。だがここなら人と会うことも無いので、見えない世間のバッシングには遭うまい。でも狼煙とモールス信号ぐらいは覚えておいた方が良かったかな。

この地域の動物注意標識はタヌキである

 府中街道を越え、住所登録の無い地名「土渕」に差し掛かると、1つ目の山を登るパワー系の階段が現れた。中学時代に部活のトレーニングで何度か登ったことがあるが、整備されて綺麗になりよりパワーアップした様相を見せていた。

 10年前よりも有機物の含有量が増えたであろう息を切らしてなんとか頂上まで登った。まだ装備の軽快さを反省する事件は起きていない。それを凌駕する程に景色は綺麗だし、空気も美味い。そこへ、小学校高学年から中学生ぐらいの少年3人組も登ってきた。彼らの足取りは軽快で、後ろから来ていることに気付かなかった。ミスディレクションでも使っていたのだろうか。

 彼らは頂上に着いて一息つくでもなく、
「うわー、すげー超綺麗!旅してるみたい!東京タワー見えるかな?」
と無邪気に言い放った。令和のこの時代に高い物のシンボルがまだ東京タワーで良かった。

 ズッコケ三人組や乱太郎きり丸しんべヱ的要素は特に備えていない、背格好の似通った3人組であった。てかしんべヱってそう書くのか。彼らの装備もまた軽快であったが、そのうち1人がケルメの化繊ピステを着ていたので心配ないだろう。ところで小中学生の私服として好まれるスポーツブランドと言えば、アディダス、プーマ 、ナイキの3強だったはずだ。時代を感じる。あとピステって言葉を20代になってから初めて使った。この先使うことはあるのだろうか。

 彼らはある程度景色を一瞥して堪能したのか、1人がiPhoneで写真を何枚か撮るとすぐに、「段数数えようぜ!」と言って登ってきた階段を下って行った。横一線に肩を並べて、1段ずつ、歩調を合わせて下って行った。右、左、右、左、時にカウントが狂って戻ったりしてもまた、右、左、右、左。新品ながらも重厚な手すりに隔てられた階段の片側に、大人3人が並んで歩くのは難しい。彼らは最強の歩を進めてゆく。成金にはならないでくれよ。香車に憧れるぐらいならまだ良い。

 あの瞬間の彼らは間違いなく世界最強であった

 この話を小田急線の経堂〜新宿間ぐらいで書き終えようと思っていたが、快速急行の登戸停車により格下げされた急行列車でも爆速で新宿に着き、イラン=アルメニア国境ぐらい歩かされる大江戸線乗り換えを経て、ちゃんと人の少ない六本木に着いてしまった。この街の民はまあまあ偉いかもしれない。起承転結もクソも無い文章を書いている僕は、この珍しく健全な六本木の中では悪い寄りの人間になってしまうだろう。

 腹が減ったので、テイクアウトのみの営業のマクドナルドに並び、ダブルチーズバーガーセットを注文した。近頃のダブルチーズバーガーを馬鹿にする気運に対して、強めの反論ができないのは少々悔しい。でもそういうの全部わかった上で食ってんだよこっちは。「好きな食べ物は寿司!」って言うよりマシだろ?

 と、ここまで先に書いておいたのだが、マクドナルド六本木ヒルズ店は臨時休業であった。お恥ずかしい。やはり六本木民は偉いのかもしれない。

マクドナルド六本木ヒルズ店は直営店である

 土曜の夜の地下通路にいつも居る南アジア系の言語で電話越しに喧嘩するおっさんが今日は居なかったこと、コンビニ飯はたまに食うと美味いが2日続くと病むことなど、書きたい話はもう少しあったが、この辺にしておく。

 花を散らした昼間の風は多摩川を越え、ここ六本木に海の陽気を運ぶ便りとなった。1日中暖かい日が来るにはまだ時を要しそうだ。

ハッピーニューライフトーキョー🇯🇵

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