高校生の時、初めて胃カメラを飲んだことを思い出したので書く
胃カメラ。
飲んだことのある人間は全世界でどれほど居るだろうか。
「人間の体にカメラを突っ込んで中の臓器覗いちゃうぞ♡」
っていうとんでもない◯癖をもった人が使うアレである。(お医者さんごめんなさいすいません許してくださいもう言いません)
僕はそれを高校生のとき、初体験をした。
それは、忘れもしない部活に行く前の土曜日の朝。
しばらく調子の悪かった胃が水も受け付けないほど暴れていた。
突然体内で胃がブレイクダンスをし始めたのかと思ったくらいだった。気持ち悪くてリビングで唸っていたら
母「ちょっと今から胃カメラしてもらおうか」
という「ちょっと今から飲みに行こうか」的なノリで、胃カメラをすぐ飲ませてくれて、しかもうまいということで有名な病院に予約の電話をし始めた。居酒屋かよ。
僕が痛くないのかと聞いたところ、ちょっと苦しいけど痛くはないと言われた。まあ痛くないなら、とりあえず部活ができるテンションでもなかったので母に言われるがままに僕は車に乗った。
謎の半透明の液体
ということで母と病院に着いた僕。
少し待って診察室に行くと、確か、先生に体の状態を聞かれお腹をポンポンされた。
「じゃあこれ。」
とおもむろにごく少量の液体の入った小さな計量カップの容器を僕の目の前に置いたのである。
これは、なんだ。
透明に近いが半透明、においもあまり無く、しかもコップとかでもなく計量カップ。消毒か何かか、そもそも計量カップって。
とか液体を目の前にして思っていた高校生の僕だが、それを察知した看護師さんが「胃を膨らませるやつだから心配しないでね」みたいなことを言ってきた気がする。
とにかくそれが何かを聞いて安心した僕は、飲もうと思い一口舐めた。
ウッ...
**オヴェェエエエエ! **
受け付けない、体が全力で拒否しているのである。
水すら食道に通すことを許さない喉の門番が
「皆のもの!!ここは絶対に通すでないぞ!!死守するのだ!!」
とかやっているのである。空気読めよ。
味に関しても、炭酸飲料のペットボトルを口に加えて振った時に口の中に充満する空気のそれに近い。それに経口補水液のオーエスワンの味を足した感じだった。胃がブレイクダンス中の僕には地獄すぎる。
「全部飲むまで始められないからねー」
という給食全部食べきるまで外で遊べませんよーくらいのテンションで言われたが、いくら飲んでも減らない。ごく少量のこの液体が無限に湧いてきているのかと思うくらい減らないのである。
ニヤニヤしながら通り過ぎていく看護師さんに見守られながらなんとか飲み切った僕は診察台に向かったのであった。
いざ鼻から胃カメラを突っ込むぞ
診察台に行くと、鼻炎の時にするみたいな鼻の中にシュッてするやつで麻酔。...麻酔?鼻の中麻酔するの??そんなに痛いの??母よ??騙したな??
という不安に襲われたが麻酔が効いてすぐ
「じゃあ入れるよー」
と心の準備もなしに鼻に、黒くて先端にカメラが付いた細ーいウナギみたいな長いものを突っ込まれた。初体験。
映像も鼻に突っ込まれながら先生と一緒に見るのである。しかもお医者さん、僕の体内を見ながら
「コレが何でコレがアレで、あーいいねー綺麗な色してるねー!」
ってやっぱ変態じゃねえか。
そうやってどんどん鼻の奥にウナギを突っ込まれる。麻酔が効いているからか、鼻の奥が擦れている感じはあるがそんなに痛くはない。
そんなことを考えていると先生が何かを言い始めた。
「ここからが鬼門だから。」
「ここをスムーズに通れるかどうかで胃カメラのしんどさが決まるから!」
そう言ってカメラが映し出していたのは、喉と食道の境界線。ん...?
門番、やっぱりお前か!!!!!!
朝から幾重の液体固体を通さんと、頑なに道を閉ざしていたやつと僕は初対面したのである。ウニョウニョしていたのである。そして先生とこの門番とのバトルが始まった。
先生「すぅーーーふぅーーー」
門番「来れるなら来てみやがれ。お前が通れる未来はない」
先生「行きますよー」
門番「あっ、ちょ、やめ、まだっ!あっ!」
先生の圧勝である。さすがは評判の良いすぐ胃カメラを飲ませてくれる病院。技術と戦闘力は確かだった。ただ、僕は一回オエッてなったけど。オエッて。人の体の中で戦うなよ。
そうしてどんどん胃カメラを体の中に突っ込まれていく。
食道を通り、胃に到達。ひだひだ。すごくひだひだしていてウニョウニョしてる。先生は、これが何でこれが何でって、まだ説明しながらやってくれていたが、自分の秘密の部分を見られている気がして少し恥ずかしくてあまり覚えていない。
そして胃の中をくまなく調べる。丁寧に。出したり入れたりするから、細長くて黒いウナギが鼻の奥で擦れている。擦れているのはなんとなく分かるが、麻酔もあってそんなに痛くはない。ああ、鼻の中に突っ込まれてからもう何分経ったか。
そう思ったとき、先生が言った。
「うん、特に異常はないから恐らくストレス性の胃炎じゃないかな?」
確かに僕はその時期、全国大会前に足の違和感を感じ、手術をしていた。しかし、足の手術後思うようにいかずイップスに近い状態になっており、ものすごいストレスを抱えていた。さすがプロフェッショナル。
そうして診察は終わり、鼻からどんどんウナギがでてくる。でも門番がいるところでまたオエってなった。空気読めよ。
胃カメラの診察後のこと
診察結果を母にも伝えられ、母もほっとしているようだった。お酒飲みに行く感じで胃カメラを誘ってきた割に心配してくれてたんだね、母よ。
待合い室で待っている間、だんだんと鼻の麻酔が取れてきているのがわかった。鼻の感覚が戻ってくる。
それと同時に襲ってきたことがあった。
鼻の奥が痛い。なんか痛い。
めちゃくちゃ痛いわけではない。個人差があると思うが僕の場合、痛い。なんか痛い。という感じだった。
例えるならば、パンツが太ももに擦れて痛いとか、Tシャツの脇のところが擦れて痛いとかそういう系統の痛みである。やっかいな痛いが襲ってきた。
それを母に伝えたとき、母は
「そのうち治るわ。」
とだけ言ってきたのを覚えている。ニヤニヤしながら言ってきたのを覚えている。痛いじゃねえか母よ。
そうして僕の胃カメラ初体験は終わった。
僕は、なにも異常がなかった安堵感と、何かを失ったのかもしれない、というよく分からない感情とともに、病院を後にしたのであった。