見出し画像

『涼宮ハルヒの憂鬱』と、今のアニメを形作った00年代の流れと、"リアルタイム"の大切さの話

 皆様、大好きな作品との出会いって覚えていらっしゃいますか?

 アニメじゃなくても良いんです。視聴してみた瞬間に好きになってしまった歌とか、なんとなく借りてみたらハマった映画とか、人気だから読み始めたら本当に面白かった漫画とか、今ではすっかり大好きになったような作品でも最初の出会いは偶発的なものだったと思うんですよ。

 なぜ数ある作品の中で特別なものが出てくるのかはわかりませんが、自分の中でビビっと感じる作品と巡り会った瞬間の感動たるや凄まじいものがありまして、そういう瞬間の為に生きてるのかもなとすら感じさせてくれます。

 そんな偶然の中から生まれた宝物のような作品が皆様にもあるのではないでしょうか。

 僕がそんな作品と出会ったのは2003年の初夏の事。当時ライトノベルにハマりこんでいた僕は、その日も何の気なしに本屋のラノベコーナーを歩いてました。別に探していた本があったわけではないのですが、その中に一際目立つ本があったんですよね。

『第8回スニーカー大賞受賞作品』と書かれた金色の帯が付いたその作品は他のどの本よりも高く平積みされていました。表紙には気の強そうな女の子が一人描かれているのみで、しかしなんだか気になってしまい手に取りページを捲ってみると、人生に疲れたオッサンのような冗長なセリフが目に飛び込んできました。

 サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うと、これは確信をもって言えるが最初から信じてなどいなかった。

 なんだか癖の強い文章だな。

 そう思ってちょっと読んだら本を置いて帰ろうと思ってたのですが、不思議なものでその変な文章にみるみるハマっていっちゃったんですよ。

 結局少し読んだ後でその本をレジに持っていき、お買い上げをして家で続きを読み、最後まで読み終えた頃にはすっかり虜になっていたわけです。

 その作品こそ3年後にアニメ化され一大ブームを巻き起こし、00年代を代表する作品にまで上り詰めた『涼宮ハルヒの憂鬱』でありました。

涼宮ハルヒの憂鬱

 こうして見ると最早絵柄が古いですね(笑)

 まあそれはさておき、今でこそ超有名になったハルヒですがアニメ化前まではわりと知る人ぞ知る的な作品だったんですよ。

 なにせアニメ化が発表された2005年の秋にはまるで注目されていなくて、大々的に取り扱っていたのはハルヒシリーズを出版している角川文庫のラノベ雑誌『ザ・スニーカー』のみ。制作会社は『フルメタルパニック』や『AIR』で注目され始めた頃の京都アニメーションだったのでまだ知っていましたが、声優陣に関しては正直「有名な奴誰もいないじゃん」って感じだったんですよね。

 今でこそそれぞれのキャラが代表作・出世作になった五人ですが、当時の僕からしたら『AIR』の国崎をやっていた小野大輔はともかく、杉田智和や後藤邑子は正直名前も知らず、茅原実里は『天上天下』で下手な演技してた声優くらいの認識。平野綾に至ってはサルのモモくらいしか知らなかった。

 皆様サルのモモってご存知ですか?

 ていうか『おとぎストーリー 天使のしっぽ』ってアニメ知ってます?2001年に放送されたアニメでありまして、主人公が昔助けた12匹の動物達が美少女の姿で戻ってくるという鶴の恩返しの萌え版みたいな作品なのですが、そのキャラの中に当時14歳の平野綾も出演してまして。

天使のしっぽ

 この中にいるピンク髪のキャラがサルのモモなんですが、マジでこれくらいしか平野綾を知らなかったのでハルヒ役と知った時には不安の方がよほど大きかったんですよ(笑)

 ちょっと話が逸れますが、『おとぎストーリー 天使のしっぽ』の"12人の動物が恩返しにくる"という設定ってなかなか無茶があるんですけど、当時この設定って結構流行ってたんですよね。

この数年前に『シスタープリンセス』という作品が流行りまして、それが"ある日12人の妹ができてそいつらと暮らし始める"というトンデモ設定だったんですが、これが当時のオタクに受け入れられたんです。

シスタープリンセス

 数が多くて自分の好みを選べたのがウケたんでしょうね。でこれがキッカケとなって天使のしっぽとか"5人の母がわりの美人教師達と同棲する"『ハッピーレッスン』や"6組の双子姉妹が自分を好きになる"『双恋』みたいな作品も出てきて、そういう流れの中でおそらく"1クラス全員ヒロイン"の『魔法先生ネギま!』が産み出されてこれがまたオタクの間でブームとなり、ここから"大勢のヒロインの中から一人の推しを探せる"という今でいうアイマスとかに繋がったんじゃないかと思うんですよね。アイマスも当時からアーケードゲームでありましたが。

 話を戻します。

 とにかく注目度が低かったハルヒなのですが、アニメがスタートすると同時にいきなりオタク界隈の話題をさらっていき、たちまちのうちに人気になっていったわけであります。

 当時ハルヒが人気になった要因というのは主に3つありまして、1つは有名なハルヒダンス。エンディング曲の『ハレ晴レユカイ』で登場キャラクターが踊りまくるという演出が当時オタク達の度肝を抜きまして、で時を同じくしてYouTubeが流行り始めたんですよね。YouTubeにオタク達が踊ってる動画を投稿したり、オフ会で秋葉原などに集まって全員で踊ってみたりしてブームを形成していったわけです。いや~、まだオタクが秋葉原に集まる時代だったんですよね(笑)

 で2つ目が構成です。これも有名だとは思いますが、06年当時ハルヒは時系列バラバラで放送されてました。

 ただ知ってはいても当時観てなかった人には実感しにくいと思うんですよね。原作1巻の『涼宮ハルヒの憂鬱』と短編+オリジナル回で14話だったのですが、1話でいきなり原作2巻『涼宮ハルヒの溜息』作中作である『恋のミクル伝説』を放送。変な歌とともに流れる明らかに素人っぽい映像とキャラクター達の棒読みセリフに(これはわざとですが)やはり度肝を抜かれたわけです。

 個人的にはハルヒブームにおいてこの2つ目の要素が大きかったと思っていて、何せアニメが終わるまで次にどのエピソードが来るのかわからなかった。例えば『孤島症候群』という前後編構成のエピソードなんかも容赦なく切り離すわけです。それでいて毎話面白く観れる。毎週ワクワクしながら放送を待てる稀有なアニメだったんですよね。

 これって話数が整えられた09年版では楽しめないんですよ。当然作品自体が面白いのでそれでもいいんですが、当時の異様な盛り上がりはアニメの面白さだけでは作れなかったと思うんです。

 リアルタイムで経験したあの衝撃というのは一生忘れられないですし、アニメがハルヒ以前・ハルヒ以後でまったく違うものになってしまったのも当時の影響力のなせる技だったんですよね。

 影響力といえば3つ目の『ライブアライブ』がそうでして、文化祭のエピソードなのですが、この回でその後のアニメ業界にめちゃくちゃな影響を与えてしまった。文化祭でハルヒが怪我した軽音楽部員の代役として体育館で歌うシーンがあるのですが、それがもう凄いのなんの(笑)

 どれくらい凄かったかと言いますと、ハルヒが放送された翌年から「キャラクターにライブさせる」アニメがマジで増えたんですよ(笑)今アニメキャラクターがライブ形式で歌うアニメって普通になったと思うんですが、源流はハルヒの『ライブアライブ』で間違いないんですよね。

『ライブアライブ』でハルヒが『God knows...』を数分間歌うだけのシーンが平野綾の歌唱力や京アニの作画力でとにかく観るものを圧倒し、一夜にしてオタク達の心を奪っていった。リアルタイムで観れたのは凄く幸運だったと思います。1つの作品がアニメ業界を変える瞬間をこの目で見れたわけですから。

 まあその後ハルヒブームの火付け役となった演出のあの方や主演声優の平野綾がいろんな意味で有名になってしまい、ちょっとモヤモヤした気分にもさせられたんですが(笑)とにかくあの当時の事は良い思い出として残ってますね。

 あとアニメ版ハルヒはクオリティが高すぎてちょくちょく原作を超えたエピソードもありました。例えば原作2巻に『涼宮ハルヒの溜息』という作品があるのですが、これ本当に面白くないんですよ(笑)自主映画『恋のミクル伝説』を撮影するというお話なんですが、本当にそれだけなので話が動かず、途中「ハルヒが反省する」というシリーズ全体において重要なシーンもあるんですが、正直読むのが苦痛な作品でして。

 ただこれをアニメでは「シーン途中でぶつ切りにする」という方法で上手く構成してます。原作に山場がないのを逆手に取ってあえてアニメでも各話ごとにクライマックスを設けず、会話の途中とかで終わらせる事によってまるで小説を読んでる途中で栞を挟んで読むのを止めるような感覚を味わせてくれるんですよね。これによってなんとか観れるクオリティまで持っていってるんですよ。

 京アニって本当凄いんですよね(笑)

 あとは映画で公開した『涼宮ハルヒの消失』。こちらは原作も面白いのですが、映画版ではそれに輪をかけて面白く仕上げてる。キョンが自分と会話するシーンなんかもう圧巻ですよ。

 dアニメストアや他の配信でも全エピソード観れると思うので、良ければこれを機会に探して観てみてください。

 以上で今回の話を終えさせていただきます。今回リアルタイムの感動を強調したのは、今のコロナ騒動が確実に歴史の教科書に乗るからです。最悪な事態にしろ、僕らは今おそらく歴史に残る瞬間に立ち会ってるんですよね。これって数十年後には「なんか大変な年があったみたいね」くらいで終わらせられちゃうんですが、当時を知ってる限りいくらでも語り継いでいけるんですよ。

 どんな嫌な事を体験しても、人はそれをネタにできるわけです。

 リアルタイムで今を体験できてる僕達は、コロナ前後の価値観の変化も見る事ができますし、コロナによって世界がどう変わってしまうかも追う事ができる。まあできれば体験したくありませんでしたが(笑)巻き込まれてしまった以上は少しでも元を取らないとなあと、僕はそう思うわけです。

 皆様、今経験している事を忘れないようにして生きていきましょう。

 …とハルヒとは全然違う話題で落としてしまいましたが(笑)これで本当に終わらせていただきます。最後まで読んでいただきありがとうございました。それではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?