ただ歩いていた

川沿いの歩道を歩いていた。
ただひたすらに歩いていた。
冬にしては晴れていて暑かったような気がする。
何か話した方が良い気もしたし、何か話さなくても良い気もした。
ただ話が全く思いつかず、車道を通るバスのエンジン音だけが響く時間が幾度もあった。
バスに乗れば目的地に早く辿り着くけれど、その目的地でやることが終わると何の目的地も無くなってしまうから歩いている。

いつからか会話を埋めることができない人間になっていた。何を喋ろうと考える前に言葉が出てくる人間だったのに、だ。言葉に責任を伴う機会が多くなってからテキトウな言葉を言う適当なタイミングがわからなくなった。ただこのタイミングは多くの人と関わり続ければ取り戻せる勘だったはずだ。

だがそれを怠ってきたツケがここにきて回ってきたのである。いっそ川を泳ごうと思った。もはや頭の中では溺れていた。それでもまだ目的地には辿り着かない。私は何でもいいから話をするべきだった。もうこんなにゆっくりと話せる時間はないのだから。偶に何処かでバッタリと会って会釈するだけになるのだから。昔恥ずかしかったこととか、ふとした日常の疑問とか、何だって話せたのだから話すべきだった。

目的地に着いてしまった。何となくその場所についての感想を言って、気づけば帰る時間になっている。

帰路においても特に話はしなかった。ただそれは目的地まで徒歩で行ったことによる疲れのせいということにしている。

これ以降飲み会へ参加する機会をほんの少しだけ増やした。

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