ボボボーボ・ボーボボはアウシュビッツか?

ナチスによるヨーロッパのユダヤ人虐殺は、服従の名の下に何千人もの人々が実行した、言語道断の非道徳的行動として最も極端な例かもしれない。
だが程度こそ違え、この種の出来事は絶えず繰り返されている。

『服従の心理』(スタンレー・ミルグラム)

1.非現実性

この本を読み、私はどこか遠い世界のことのように感じていた。
ミルグラムの実験も、ドイツで起きたあの惨劇も、テレビで見るウクライナに対する爆撃も、セミが鳴く音だけが耳の中を支配する閑寂な田舎にいるとどうも現実のことと思うことができない。

しかしその夜、ある漫画を思い返し、それがこの本に書かれていたことと十分なアナロジーをもって論じられることを理解し、湯冷めとは違う寒気を感じた。

2.ボボボーボ・ボーボボとはどのような漫画か?

その漫画とは、ボボボーボ・ボーボボ(以下:ボーボボ)である。

ボーボボ未読の方に簡単な説明をする。
この作品は毛狩り隊という敵を倒すために主人公であるボボボーボ・ボーボボ(キャラクターのボボボーボ・ボーボボも以下、ボーボボと省略)が奔走するギャグマンガである。

割り箸を栽培していると、毛狩り隊の基地が出土したり、毛狩り隊の基地を制圧するために塔を登っていると、そこがレンタルビデオ店になっていたりする。
ここでおさえておきたい事実として、ボーボボや首領パッチ(ボーボボの仲間?)らは、ギャグを繰り返しながら物語が進行するという点である。

我々読者は、仲間を守ると言っておきながら仲間を盾にしたり、
「ピラフくいてぇ!」と走りながら水を狂ったように飲む現実では考えられない異常性に可笑しさを覚えるのである。


3.ボーボボらは精神異常者か?

なぜ彼らはその異常な行為を繰り返すのか。
未読の方は、彼らが精神異常者だからではないかと考えるかもしれないが、それは正しくない。
彼らは一つの敵を打倒し、社会正義を目指す正義の集団であり、その点に関しては一貫して理性を保っている。
これは精神異常者にはできないであろう。
彼らが異常行為を繰り返し、十分に内省せず、異常だと感じることがないのは、まさしくあのミルグラムの実験と同様の状況に彼らが置かれているからである。

4.ボーボボらはハジケることを強制されている。

彼らは、ハジケることを強制されているのだ。
これを示す重要なエピソードが澤井啓夫短編集の「ボーボボと首領パッチ」に記載されている。

彼らはハジケ王国に入国するため、どれだけハジケているかを試される。
首領パッチは手を前に出し、渾身の声で「トマト!トマト!」と叫ぶが不合格となる。
ボーボボは、アフロを上下に二分させ、そこから豚を見せ、「アジア。アジア。」と躍らせることで合格をもぎ取る。

この話で分かることは、ボーボボたちのいる環境は、ハジケることを強要し、それがあたかも正しいことであるかのように誰もが振舞っている。
こうした環境の中で育った彼らは、我々が異常だと考える行為を嬉々として実行に移すのだ。

5.ボーボボを笑うな

ハジケることを強要された彼らを嘲笑することは、誰に対する、何に対するものであろうか。
社会が指定した目的に拘泥し、その発現を笑っている。
これは、自らが陥る可能性のある(もしくは陥っているかもしれない)状態ではないか。
一体誰が彼らを笑うことができるだろうか。
恐らく彼らを笑ってきた者たちが、あの虐殺を行ってきたのであろう。


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