セルフにぎりっぺ

1.セルフにぎりっぺ

私は、家で屁をこくときに、自分ににぎりっぺをする。
その悪臭をつかんで、鼻元で開放するのだ。
その臭いは、いかなるときも、糞便の臭いを空気で中和したもので、決して良いものではない。
しかし、やってしまう。
なぜやってしまうのか。この不可解な行動の理由について考えたい。

2.快感回路

もしかしたら、快感回路のせいかもしれない。

動物の脳には、快感を司ると言ってよいような部位が存在する。
これは、食事、セックス、ギャンブルだけでなく、礼拝、運動、社会的評価によって活性化する。
つまり、私は自分の屁を嗅ぐことによって、この回路が活性化しているのかもしれない。
もちろん、これが正しいかは実際に調べてみる他ないが、そんなバカげたことを調べることは、時間的にも、金銭的にもできないので、もしそうだったらどうなるかの話をしたい。

快感回路がどれだけ強力かを示す実験が、上掲した本に載っている。

ラットがレバーを押すときに、快感回路への刺激が得られるようにすると、1時間に7000回のペースで、ラットはレバーを押し続けた。
近くに発情期のメスがいても、レバーまでの道のりに電気ショックをうけるような道があってもお構いなし。
子供を生んだメスのラットに実験すると、このレバーのために育児を放棄し、放っておくと餓死寸前の状態となった。

『快感回路』リンデン,デイヴィッド・J

この実験からわかるように、快感回路はとても強力である。
私もいつかは、1時間に7000回のペースで屁をこき、それらをにぎりっぺするようになるかもしれない。
もしそうなったら、肛門と鼻とを直接つなげた方が効率が良いので、今のうちに長めのチューブを買っておいた方が良いだろう。

3.屁の危険性

なぜにぎりっぺをするのかは、とりあえず上述した通りである。
では、屁はどれほど危険なのか。
これも上掲した本に書かれている。

19世紀のイギリスで、酒に対する高額の輸入税がかけられるようになり、アイルランドでは密造酒作りが広まっていった。
この反動で禁酒運動が拡大し、成人の約半数が完全禁酒を誓った。
せっかく禁酒を誓ったのに、快感に対する欲求はとどまることを知らないので、代用品が研究される。
そこで白羽の矢が立ったのが、ジエチルエーテルである。

私は、この記述を見たときに目を疑った。
あのジエチルエーテルだよな?
本文を2,3度見直しても、そこにはたしかにジエチルエーテルと書かれている。
私は、何か思い違いをしているのかもしれないと、科学の参考書を開くと、ジエチルエーテルは揮発性が高く、危険物質であるとしっかり書かれていた。

ジエチルエーテルは、麻酔としても使われ、多幸感が得られ、知覚がマヒしたり、意識を失ったりするため、アルコールの代用品として重宝されたらしい。
そして、その揮発性があだとなり、たき火におならをして肛門をやけどするのは、当時のありふれた災難であったらしい。

つまり、私はいつか1時間に7000発の屁をジエチルエーテルとして排出するようになるかもしれない。そうなればどこからかきたジエチルエーテルで、エネルギー問題が解決されるかもしれない。私が地球の未来を担う存在になるのもそう遠くない。

4.快感に抗うためににぎりっぺする

ラットが快感を得るために、バカげた行為をすることは、人間にも同様に当てはまる。
これに抗う理性は、快感回路に比べて、あまりにも虚弱である。まるで人間に対するラットのようだ。
それでも快楽に耽溺していては、何も始まらない。
私がセルフにぎりっぺをするたびに、理性の虚弱さが悪臭とともに反芻するであろう。
もしかしたら、私はこの自戒を膨張させるために、セルフにぎりっぺをしているのかもしれない。


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