浅草、それぞれ

浅草の思い出というと、高校時代の春休みに友達と遊びに来て、鳩がめっさいて怖かったからすぐ退散したとか、電車の乗り換えに迷ったとか、そういうのしかなかったのだが、やっぱり浅草って存在感が強すぎて、なんかデカくて赤くて、否応がなく全部思い出になってしまう感じが怖かった。


彼氏ができるか、別れるか迷っているか、別れた後にだけ連絡が来る女友達がいる。学生時代はけっこう一緒にいたが少しずつ疎遠になり、わたしは今「男関係」の話専門の枠なんだろうと推察する。彼女の周りはなんというか、俗っぽい話を好まなそうな、多分彼女自身もそう思っているからこそ、わたしにばかり相談してくるんだろうと思う。


先週、案の定「彼氏と別れた」と報告があり、浅草の喫茶店で待ち合わせて話を聞きに行った。ありえないぐらい混んでいて、音がする。路上にめっさ低く飛ぶ鳩もいて最悪。「駅近」を謳う店が多かったけど駅が多すぎてもうわかんない。


話を聞いているあいだ、私は相変わらず、重力に負けない繊細なまつげやら、いつの間に私よりも細くなった気がする手首や、少し変な形をしているのに似合ってる気がするアイラインや、男の子みたいなカリカリの足や、それら全てを合計した結果やはりぱーんと光っている彼女について観察せざるを得ない。半ズボンを履いている彼女に対し、ひらっとしたワンピースを着ている(一番のお気に入り)私の方が、ずっとずっと子供に見える。

女友達に対するコンプレックスって、私はこの子に対してぐらいしか持ったことがない気がする。もう克服したけど、彼女に「ださい」とか「頭が悪い」と思われるのがすごく怖い時期があった。そして、彼女の方が私より、いつもちょっとだけ幸せでいるような、そんな気がずっとしていた。


一通り話を聞き、彼女の別れた彼氏がひでーやつということが分かった後、促されて自分の恋愛の話をぽつぽつする。

何を話したか、本当に取り留めのないことだったと思うけど、「そんなの宝物じゃん!」「宝物だよ、その人との日々」と言われて呆然とする。


そうか、宝物か。。宝物って、「大切」とか「好き」とかよりも、なんだか「私にとってあなたはとてもキラキラしているのです」って感じがして、素敵な言葉だ。


いろんなことを昔から日々考えるけど、結局私は、彼女に比べて自分が凡庸で、日常が平坦であることを、少しうしろめたく思ってしまう。ものすごく馬鹿馬鹿しいけど、なんだかその感覚が、「宝物」という言葉で、本当にさっぱり払拭された感じがしたんだった。


彼女と別れたあと、喫茶店まで迎えに来てくれた彼氏と合流しながら、うれしくなって「宝物だよ」と伝える。普通は逆だと思うけど、あなた自身がじゃなくて、「私にとってのあなた」が。

通り道、桜なのかわからない花の間から浅草寺が見える。めちゃくちゃ観光地っぽいのに、あたりは薄暗くなってきていて、自分が東京に住んでいることを思い出す。こんなところでデートしてるのが途方もない気分になってくる。


浅草寺には行かなかったし、食べたかったベビーカステラは食べなかった。お土産も買わなかった。でもやっぱり、この日浅草に行ったこと、話したこと、強く光る思い出になってしまっただろう。いまはそれでよくて、忘れたくないなとニヨニヨしています。


↓帰り道嬉しかった
・「宝物」といったことをあとから「かわいかった」と言われた
・帰り道にキスをせがんだら、こっそりエスカレーターでしてくれた(わーい)



セブンでフィナンシェを買います