2024/05/26 すべてを覚えてはおけない(最近の映画・本レビュー)

考えの行き止まりが必ず来て、悲し/切なくなること

①地球上に貧しく、虐げられている人が多く存在すること
②わたしが私以外になれないこと
③すべてを覚えておくことはできないこと

③はほんとうに、よく思ってたけど、最近はすべて細かく正しく(?)覚えておくことなんてどだい無理なのだから、もっとたくさんのものを見て聴いて、全部綯い交ぜになってもっと分からなくなりたい、と思う。
いまもよく記憶を撫で回して満足する読書体験が、二年前に一度きり読んだ本のことだったりして、再読したらもうその良さは分からなくなってるのかなあと思うとわくわくする。


最近観たもの読んだもの。

◯ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』
天才外科医に胎児の脳を移植されて蘇った女性「ベラ」が、身体は大人、脳は子どもの状態で世界を生き直す物語。ベラにとってすべてはバイアスの限りなくない瞳に映り、セックスは「気持ちいいこと」以上でも以下でもなく、性産業は「合理的」と当初とらえる。ベラの瑞々しさが、全ての「正しさ(とされるもの)」を薙ぎ倒してゆくので、フェミニズム映画と捉えられることもあるようだが、私はそうは思わない。根本的には何も逆転しないし、ひっくり返すというよりは、世界は「丸い」(どこから視るか、ということ)ことを示す映画のように思える。※冒頭の①も触れられる
特に「哀れ」とされる者が綺麗に一周するところ、監督らしい魚眼レンズのカットとか。
「結局逆転しないんかい。やっぱ父なるものから逃れることってないんだナ」と当初イマイチに思ったけれど、1週間経ってみて、今の方が全然この映画のこと好きだ(再見はしたくないけど)安易な逆転も解決もいらない、私は多分、いつだって刺し貫いてくるまぶしいものが好き。

◯若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』
最近、自分のために生き続けるのしんどいな、という気持ちもあって、ぼんやり子どもを産んで必死に生き続ける自分を想像するんだけど、「結局他人のために生きるのは苦しい」ということが描かれていてかなり心に来る。言葉に運ばれていくのに自分は何に流されているのかその正体が掴めない(桃子さんは「向こう側」にいる)久しぶりに上手く言語化できなくて、モヤモヤモヤモヤしていたら、栗原康が完璧に解説をしてくれていて涙が出そうに。そう、私はそう思ったんだ。ほんとかな。栗原先生の言葉に全部委ねちゃってないかな。だから自分の言葉が出てくるまで待たなきゃダメなんだ。。これからも待とうと思う。


◯大田ステファニー勧人『みどりいせき』
何ページ読んでも誰が何してるのか分からなかった。(後半急にわかり始めて止まらなくなる)私は主体と客体が入れ替わる文章が好きなんだけど、これは徹底的に自分を「モノ」化していて、それがしつこいのにあんまりわざとらしくないのがすごい。未映子先生が言うように「バイブス」を主人公に据えているからなのかなあ。本当によく分からなかったけど読んでよかった。


最近フィルマークス始めた友達がめっちゃ仰々しい長文でレビュー書くので「すごいね」といったら、「おれは一言感想とかだと後から読んだ時全部を思い出せないから」と言ってた。全部を覚えておくことなんてできないから、なるべく嘘のない、そのとき感じた本当のこと(こう思ったらかっこいいだろう、おしゃれだろう、通だろう、とか関係なく)を覚えておくことの方がずっとずっと大事だと思う。そう思って普段は一言感想とか、殴り書きしかしないけど、今日ふいに書き留めてみたら鑑賞直後よりもたーーくさん書けてしまった。きっと前後に見聞きしたものと混ざって、私の中でどんどん形を変えているんだろうな。たのしみ。また書きます


セブンでフィナンシェを買います