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認知バイアス③

今回は消費者と市場での認知バイアスをいくつか見ていきたいと思います。

時間割引

3.3億人近いアメリカの人口のうち、預貯金がある人は、わずか13.3%。2019年には、「中間層の約30%が、400ドルの急な出費すら賄えない」という報告もあります。
最大の原因は、1%の富裕層が富の4割を占める社会構造です。一方で、将来の為に貯蓄をせず、カード依存で支払いを先延ばしにする行動には、認知バイアスも影響しています。目先の物事の価値は高く、将来の価値は低く見積もる「時間割引」です。将来の満足を、現在の満足からどれだけ割り引いて考えるのかの指標は「時間割引率」といいます。
例えば同じ10万円でも、すぐにもらえる場合に比べ、10年後の受け取りでは価値が半分以下に減ります。
このように将来の価値は低く感じるバイアスが働くため、貯蓄をしない傾向が見られるようになります。
将来の価値を低く見積もり、貯蓄を先延ばしにするのが人の性。そこで最近では、行動経済学の知見のもとに作られた年金プランも提唱されています。
入社時点で、「将来の昇給時の何%を年金拠出に回すか」と尋ねる方法です。将来の価値を小さく見積もる傾向を利用したもので、年金を収める時に年金拠出額を決めるより、年金拠出額を確実に増やす効果が実証されています。

保有効果

10年来のファンであるミュージシャンのライブチケットを8000円で購入したとします。ライブは今週末。そこに突然、同じミュージシャンのファンを名乗る人から、「1万2000円でチケットを譲ってもらえませんか」と頼まれます。あなたの第一印象は「冗談じゃない。安すぎる」ではないでしょうか。
このように一度手に入れたものは、手に入れた以上に価値が上がり、損失コストが課題に見えます。これが「保有効果」です。仮に相場が変動しても、本人にとって価値は変わりません。
手にしている物品ですら所有効果が働くのですから、手をかけて大切にしてきた高額商品ではなおさらです。自分でデザインして買ったマイホーム、車などの価値はたいてい、市場価格より高く感じます。

フレーミング効果

選択肢の提示の仕方で、内容が同じでも、物事の価値や意思決定が変わるのが「フレーミング効果」です。下の例で説明します。
選択肢A この治療法では600人中400人が命を落とします。
選択肢B この治療法では600人中200人が助かります。
この場合はBの治療法が選ばれる傾向が高くなります。
別の例も見てみましょう。
選択肢A 脂肪分が5%含まれています。
選択肢B 脂肪分を95%カットしています。
この場合もBの商品が選ばれる傾向が高くなります。
 
損失を強調した文章内容ではなく、利得を強調した文章内容が常に選ばれやすいのです。
広報や広告を出す時などは上記の点を工夫すると、消費者の行動が変わるかもしれません。

極端回避性

家電製品を買う際に、同じ種類の電化製品でも価格帯がいくつか分けられている場合があります。このいくつか分けられている選択肢を選ぶ際にもバイアスが働き、上・中・下の価格帯がある際は真ん中の価格帯を選ぶ傾向があります。これを「極端回避性」と言います。
明確な評価基準がない時は、とりあえず両極端を避け、「コスパがよさそう」などと理由づけをするのです。
これを説明したものが、カメラの価格選択の実験です。
最初は、次の2台から欲しい物を選んでもらいます。
A 低品質・低価格のカメラ 166ドル
B 中品質・中価格のカメラ 239ドル
今度は同じ被験者に、次の3択から選んでももらいます。
A 低品質・低価格のカメラ 166ドル
B 中品質・中価格のカメラ 239ドル
C 高品質・高価格のカメラ 466ドル
最初の選択肢ではAとBを選んだ人が50%ずつ。
次の選択肢では、Aが22%、Bが57%、Cが21%と回答が大きく動きました。
人は真ん中を選びたいと思う気持ちが働くのです。
売りたい商品がある際には、選択肢を工夫するもの良いかもしれません。

決定麻痺

人は、選好への欲求を持っています。1つの商品やサービスだけ進められると、心理的リアクタンスが生じ、「ほかにないの?」と感じるもの。しかし、選択肢が多すぎると、今度は決められなくなります。これを決定麻痺といいます。
この現象を証明した実験があります。スーパーマーケットで、買い物客に1ドルの割引券を渡し、陳列テーブルに並べたジャムを試食してもらいます。テーブルのジャムは1時間ごとに並べ替え、6種類の場合、24種類の場合の2パターン用意しました。
集客力が高かったのは、24種類を陳列した時、通路を通った客の60%が商品の前に足を運びました。しかし、その後の購入率はたったの3%。一方、6種類の陳列時は、客の40%しか来なかったものの、そのうち30%がジャムを購入しました。
情報が多すぎると、人は把握しきれません。最初に見たものを基準にしようとしても、どれがどうだったか分からなくなりがち。その結果、間違った選択で後悔しそうという心理が働き、選択自体をためらってしまうのです。
いっぱい種類がある方が見栄えも良く、お客様の満足度が高いと考えがちですが、選択肢が多すぎるとかえって、選べなくなるので注意も必要です。

バンドワゴン効果

人は社会的な生き物です。自分の趣味傾向と価値観だけで意思決定をする事は出来ません。大勢の人に無意識に影響されています。みんなが「これはいい」「面白い」となれば、自分もやってみたい、買って使ってみたいと思います。このように、多数派の選択に無意識に同調するのが「バドンワゴン効果」です。
現代の消費社会で、大勢の行動に影響を与える存在と言えば、「インフルエンサー」。消費行動の研究では、「並外れた数の知人に影響を与える、影響力分布のトップ10%程度」と説明されています。私たちも、普段意識はしてませんが、インフルエンサーの影響を受けて消費活動をしていることが多いかもしれません。しかし、我々の資産は限られたものですし、無駄なものを買って無駄にしない為にバドンワゴン効果に流されず本当に自分に必要なものを購入する意識を持つ事も時には大切になるかもしれません。

バーダーマインホフ現象

30代の国民的女優が乳がんで死亡。こんなニュースを目にしたとします。その日から、乳がん関連の報道、親族の乳がんの知らせ、ピンクリボン運動のポスターなどがやたら目につくように。このように、新たな情報や知識を認識した後で、それに選択的注意が向く事を「バーダーマインホフ現象」といいます。バーダーマインホフとは実在したドイツ赤軍の名称。「バーダーマインホフの話を友人としていたら、翌日の報道でも目にしたと友人から連絡があった」という新聞投稿を機に命名されました。偶然知った情報でも、感情が動いたり、記憶に残れば、次回以降は選択的に注意が向きます。そして「最近多い出来事」「流行のもの」と頻度を錯覚するのです。
この効果はマーケティングにも応用できます。新製品や新機能をCMや広告で知らせる事で、日々の生活でやたらその情報に目が行くようになり、流行っているのかと錯覚し、購買が促進されるのです。

再認ヒューリスティック

ここで問題です。グアテマラとシエラレオネ共和国、人口が多いのはどちらでしょうか?2020年の時点で、前者は約1680万人、後者は798万人。多いのは圧倒的にグアテマラです。正解した人の中には、「シエラレオネ共和国は分からないけど、グアテマラはコーヒーで有名だし、知っている。グアテマラかな」と考えた人もいるのではないでしょうか。
このように片方だけ知っている場合に、そちらが有名で影響力も大きい、評価が高いと迅速に判断する情報処理法で、「再認ヒューリスティック」と呼ばれています。
かなり大雑把な判断ですが、正解にたどりつく確率が高いと分かっています。
人にはこのように物事を判断する癖があるので、商品を広告して認知させることは、購買行動促進に繋がるのです。
 
次回は偏見と差別の認知バイアスについて、いくつか書いていきたいと思います。

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