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【インタビュー】時速36km『狂おしいほど透明な日々に』リリース記念!Ba.オギノテツ単独インタビュー

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時速36kmが9/20(水)、『狂おしいほど透明な日々に』をリリースした。
今回はそのリリースを祝し、また、Vo.仲川とは違い、普段インタビューを受けることの少ない時速36kmもう一人のソングライター、Ba.オギノの単独インタビューを敢行。

今作はオギノ本人も語るように「オギノプロデュース」の色の強いアルバムになったという。また、普段はあまり語られることのない彼の哲学や内面の葛藤などを赤裸々に明かしてもらった。このインタビューが新作アルバムを深く聴き込む上での一助になることを願ってやまない。

Interview:カワノ
編集:Wakai
写真:春、タカギタツヒト


『曲の差は出てきてる気はするんだよね、活動初期に比べて』

ーはい…じゃあよろしくお願いしますね。

オギノ オギノで〜す。

ー何から喋ろっかな…。…あぁ、そうだ!ラッシュボール(大阪にて開催される大型夏フェス。時速36kmはメインステージに抜擢された)、お疲れ様でした。

オギノ ありがとう笑 人たくさんいたよ。面と向かって俺らを見にきてる人たちで2000人くらい…と、後ろの、屋台のゾーンから見てる人も入れたら5、6000人はいたんじゃないかなぁ。

ーハァ〜すごいね! ライブはどうだったの?

オギノ 緊張したよ笑 だから序盤は固かったかなぁ〜。ライブ前は練習をすごいしたね…俺たちにしては珍しく笑

ーそっかそっか。今回リリースした新曲はそこでも披露したの?

オギノ うん。「ブルー」をやったね。

ーあぁ、あれはライブでも映えそうだしな。

オギノ うん。すごく反応も良かったね。

ー「ブルー」はオギノ作詞作曲の曲だね。付き合いも長くなってきたからかもしれんけど、「あ〜これオギノだな」ってわかるようになってきたよ。

オギノ そっか。曲の差は出てきてる気はするんだよね、活動初期に比べて。ギャップが広がってきたっていうか。

ー元から差はあったんだろうけどね。みんなの思うざっくりした二人の違い、っていうイメージもお客さんの中にはあるだろうしさ。ざっくりしてるけど、シンノスケの曲は少し内省的で、ある事柄に相対したら自分の中に潜って詞を起こすタイプだと思うし、オギノは逆に外に発露させていくというか。

オギノ まさしくそうだね。

ー…言葉選ばんでいいんなら、お前の歌詞は「キレてる」笑

オギノ 笑

ー対象との関係とか感情に重心がある…といいますかね。まぁ、しんのすけの曲ももちろんそういう側面はあるけど。…まぁ、今回はせっかくなんで、オギノ深掘り回っつーことで。

オギノ いやぁ、よろしくお願いしますよ。


『全体通してオギノ監督アルバム』

ー今作聴いてみた印象だとさ、俺の印象だと、曲調とか、曲の雰囲気とか、ライブでコアになる曲っていうのは、意外とフロントではないオギノの曲の方が作ってきてるのかな、っていう。「ブルー」は一曲目に配置されてるけど、まさにオギノライクな作曲になってる。

オギノ うんうん。俺としんちゃんって、打算的に示し合わせて曲調を分ける、ってことは実はしてなくてさ。…まぁ、俺はしんちゃんに「こんな曲作ってよ!」って依頼することはあるんだけど、しんちゃん側からはない。シンノスケは頭に浮かんでることしか書けない…狙って曲を作れる人じゃないから。俺の役割としては、例えば、アルバムとして作品をパッケージングするにあたって、曲を並べてみたときに、その作品としての…欠けている間のピースを埋めるためにはどんな曲がいるか、って考えて作ることなんだよね。

ーうんうん。

オギノ 後出しジャンケンじゃないけどさ。今作は特にその気が強くて、全体通してオギノ監督アルバム、って側面が強いかも。

ーディレクターみたいな。

オギノ そうだね。

ーでも不思議なのがさ、例えば…シングルのA面B面の話じゃないけど、今作に関してはそう言う作り方をした上で、オギノ作品の方がA面っぽいというか。そんなイメージはある。

オギノ これはねぇ、マジであって…シンノスケの曲ってB面っぽいんだよね。いぶし銀な感じ笑 それはシンノスケのキャラクターでもあるんだけど、そうなってくると、必然的に俺がストレートなものを作らなくちゃ、って作曲に必然的になっていく、という。

ーなるほどなぁ。弾いてる楽器の違いもあると思うんだよね。A/B面ってのはちょっと極端な言い方だったけど、もうちょっと具体的に言うならシンノスケの曲はギタリストっぽい。コードワークとかフレージングとか、編曲部分で。これがある種渋さになるのかな、って。

オギノ 俺は逆にねぇ、ギター触らずに曲書くんだよね、最初は。メロディだけで作っちゃう。コードとか、テンションをつけようとか、そう言う編曲は最後にしんちゃんに当ててもらう、っていうか。だからストレートなのかもね。


ーオギノもさっき言ってたけど、今作で一気にソングライティングの質が分かれたよね。シンノスケが今作から冒険したなぁ、って。「cakewalk」とか、あれはカイが主に作曲に入ってるけど。一方オギノはよりどしっと構えたな、って。

オギノ うんうん。しんちゃんの曲が、今作…ボツった曲も含めて、あの方向性…今作のしんちゃんの曲っぽい方向性の曲ばっかりだったからこそ、かも。じゃあ俺は今回は、「時速らしさ」は俺が担保しなくちゃいけない、って。だから、結構、わざと「時速っぽく」したかもしれないね。デフォルメした、っていうか。

ーなるほどねぇ。でも、世の中の思う時速らしさ…少なくとも音楽的なところにおいてはオギノが担っている側面は半分近く占めてる気がするんだよね。だから別にいやらしく感じないし、むしろ自然なことっつーか。

オギノ うんうん。

ーもちろんトータルで考えれば、メンバーの人間性やプレイの特徴は大いにあるんだけどさ。

オギノ やっぱ、リスナーの受ける印象…メロディと歌詞が一番だと思うんだよね。だから、そこの「らしさ」は俺が担保し続けないとな、とは思ってるよ。

ーそっかそっか。今作はアレンジも凝ってる…凝ってると言うか、複雑化したイメージが俺はあるんだけど、今作はどうやって作曲していったの?

オギノ やり方を少し変えたんだよね。今作から、みんなが各々家で作り込むようになった。

ーへぇ。

オギノ スタジオでどん!って作り方ってよりは、前回のフルアルバムに比べて、家に持ち帰って編曲を各パートで練るようになったんだよね。宅録、ていうか。ほぼ一人で考えてる。…やっぱ、スタジオで音を出して作るとシンプル化しがちというか。それと比べて、家でエフェクター踏みながらフレーズを練った方がもっと面白いことできるな、とか思いつくというか。アイディアは湧きやすい。そこにプラスアルファで…例えば「ブルー」とかは、俺とヒデアキが主に編曲をして、ヒデアキが言い出した変なことを俺が作る、とかね笑

ーより分業が深まったんだね。

オギノ そうそう。それが理由かな。複雑化…っていうか、変なことやろう、って笑 だし…家でシンプルな曲を作ると、「この曲おもんないな」みたいな笑 「ハロー」みたいな曲を、例えば作ろうとしたら、「もっと捻った方がいいんじゃないか?」とか、そう言うことを考えちゃう。バンドで爆音が鳴ってない分、そういう爆音の楽しさがないから、パッと作って終わり!みたいなゴールにはいかない。

ーなるほどねぇ。…今作、個人的にはドラム難しくなったなぁって思ったよ笑 「かげろう」くらいからかなぁ、トータルの手数が複雑化したなぁというか。ヒデアキはどっちかというとパワードラマーで、部分的にはバタバタしてることもあるけど、基本はどしっとした重いプレイの印象があったんだけど、今回から引き出しが変わったのかな、って。

オギノ そうねぇ、あいつは元々、上半身がテクニカルなドラマーは好きだからね、そこが出てきた、って言うのはあるのかもね。…あいつ自身、ドカドカやるドラムに飽きたのかもね。それに、あいつ自身、自分のバックグラウンドと今の俺たちの曲を結びつけて面白くしよう、ってマインドになってきたのかもね。

『自分の目の届く「良い」って言ってくれる人に対しては、親切心や誠実さは忘れないでいたい』

ーでも、トータルして今作はドラムに限らず、…音楽性が変わった!とまではいかないラインでアレンジが多彩になったのはすごく絶妙だなっていうのはあった。さっき言ってた「らしさ」を打ち出しながらも、すごくおもしろくなってる。

オギノ お前らは…、ねぇ。

ーうん、全く変わる。対して、時速は…。

オギノ うん。自分の…時速の王道とか勘所をちゃんと押さえたと思ってる。そこは俺がしっかりとやったつもり。

ーうん。そうやって要所をオギノが占めることで他で表現に幅が出せて、面白い作品になってると思うよ。

オギノ いや、もちろんお前らを否定してるわけではなくてね笑 リスナーとしては、俺はアルバムごとに雰囲気を変えるバンドって大好きで…モーサム(MO’SOME TONEBENDER)とか、本当大好きなんだけど…あっ、モーサムラッシュボール最高でした!

ー笑 最高だよね。

オギノ …そう、そうやってさ、自分のやることをガラリと変えていくって言うのは…実は自分達でやるのはすごく恐怖があるんだよね、俺は。って言うのは、なまじ…例えば歌詞とかスタンスとか、そう言うものを商売道具にしているんだと思うんだよね。…まぁインディーズバンドなんて大体そんなもんだと思うんだけど。

ーあぁ、わかるよ。

オギノ そう言うことをやって獲得したファンに対しての…なんか、責任がある、って俺は思うのよね。やっぱり、昔に比べて、音楽を聴いてくれている人がいるから成り立つようになってきているというか。そこに対して…いや、お前らがそこをガン無視してるっていいたいわけじゃないんだけど!

ーふふふ笑 全然、そんなん思ってないから大丈夫よ笑

オギノ 笑 …そう、やっぱ、俺はそこで獲得した人たちへの責任があって、あまりそこを…期待してくれてることを思うと…。

ー期待に応えたい、と。

オギノ そう。その期待に反すること…期待してくれてることと違うことはしないべきなんじゃないか、ってさ。だから曲をチューニングするし、意図的にデフォルメしたり、…親切心に近いのかなぁ、それはすごくある…。どう思う?

ーうん、俺はむしろ、それは時速の良さだと思うよ。そうすることっていうのは…陳腐な言い方だからあんまりいいたくない表現だけど、すっごくわかりやすく言うなら、聴いてる人にちゃんと寄り添ってる。聴いてる人に寄り添って、…なんかね、俺たちと違うのは、時速の方がよりお客さんに対して当事者的な存在だと思うんだよね。

オギノ あぁ、うんうん。

ーなんか…お客さんが求めてるものに応えてあげたり、応える努力をするのって、より人間的な関わりに近いと言いますかね。っていうか、音楽のフィールドを抜ければ、人同士の関わりはそういう、相手のために何かをする、っていうのが当たり前に行われてる訳で。そういう意味では、ちゃんと人間同士の関わりが自然とできてるということだし、素晴らしいことだと思うよ。…だし、そこはさ、今に始まったことじゃなくて、君らは昔から変わらんでしょ。

オギノ そうだねぇ。…逆にいうと、置き去りにする…アルバムで曲調をつどつど変えていく、っていうのが、俺はなんで好きか、っていうと、…俺を置いていってくれるから好きなの。新しい音楽性とかを、俺に提示してくれる、っていうかさ。「すげえことになっちゃった…」っていうのを楽しむ、っていうか。俺たちはそうはなれないから、こういうスタンスを取ってる、っていうのもあるかな。

ーうんうん。でも、そのスタンスは時速のいいところだと思うけどな。…「見捨てない」、みたいな。

オギノ うん、そうなってるとおもう。

ー世の為、人の為、が昔からぶれてないっつーか。そこは感じるよ。変わってる部分もあるだろうけどね。

オギノ …まぁそんなにいい人間じゃないんだけどね笑 いい人間じゃないからこそ、だと思ってる笑

ー笑 …というのは?

オギノ お前らもそうだろうけど、俺たち四人はさ、人間的にできた奴らが集まってるわけじゃない…当たり前だけどさ。悪い所やひどいところも残酷なところも多くあるしね。…誕生日とか、知らないし笑

ー俺もしらねぇよ笑

オギノ 笑 メンバーのことを…あんまり友達と思ってないし。

ーわかるわぁ〜…。メンバーは「メンバー」じゃない?

オギノ そうそう笑 だし、街ゆく人とか、一緒に仕事をしてる人…全員他人だと思ってて…。そういう冷徹さは、俺だけじゃなく四人とも持ってると思ってるのね。でも、だからこそ、曲をやって、それがいい、って集まってくれて、小さなデイジーバーみたいなライブハウスに集まって、いいじゃん!って金と時間をかけてくれてる人には、その手は差し伸べて行きたいって気持ちはあってさ。

ーうんうん。お客さんも、スタッフもね。

オギノ 自分の目の届く「良い」って言ってくれる人に対しては、親切心や誠実さは忘れないでいたいな、って。…これ以外の誠実さがないから笑


『ひねくれてるからこそ、その鎧を突き破って届いてくる何か、っていうのをすごく信じていて』

ー…最初に会ったのが、2018年のTOKYO CALLINGかな? それは、あの当時から変わってないよ。曲にも、人間性にもそれは出てる。

オギノ そう言ってもらえると嬉しいなぁ。

ー…ぶっちゃけトークになるけど、あそこに同世代のバンドがガッと集まって出てたけど、30分尺であの時時速を見た時の印象が、単純に「ストレートなバンドだな」だったんだよね。

オギノ うんうん。

ーそこに尽きるというか。人間性も…当時は俺ら、ステージで喋ったりしなかったじゃない? だからわからなかったところもあり。ただみんながむしゃらにやる、っていう。

オギノ カワノは輪をかけて態度悪かったしね笑

ーふふ笑 だから、まぁ、ストレートだなぁ、って印象だったのが、共演を重ねて、会って喋ってってのを繰り返していって、四人の人間性も見えてきたり曲も増えていったり…だんだん尺の長いライブを見ることが増えたりさ。…で、ここまで喋ったところで悪いけどさ、俺、別にストレートなバンド、好きじゃないのよ笑

オギノ …すごくよくわかる!

ーまぁ…所謂…日本語のパンクみたいな、ああいうのとか…全然好きじゃない…。なんか…カノンコードで、軽快なビートで、元気のいい人たち…ダメでねぇ…。でも、時速は、ストレートではあるんだけど、当時、なんか妙に沁みたんだよね。だから、最初から好きだったんだけど、すごく…。

オギノ カワノの中ではレアだった。

ーそう。でねぇ、俺の中で根本的にぐさっときたライブが、コロナ禍になる前にやったクアトロでの対バン…あの、大きい箱で初めて時速を見たときに、…「なんて素晴らしいんだ…」って。その時に、なんで感動したのかな、って考えたら、オギノがいうその、誠実さというか親切さというか、それが伝わってきたからなんだよね。

オギノ あぁ〜覚えてるわぁ〜。あの日も言ってくれたもんね。

ーうん。なんか、あの日を境に…俺なりに時速の真髄を見たというか。届く範囲の人を見捨てないとか、誰かの期待に答えるとか、ね。で、それがいまだにぶれずにできてると思うし、一緒に回ったツーマンツアーとかもそうだけど、ライブ見るたびに感動するんだよね。…そういうバンドは、周りにほとんどいない。そりゃ、友達のバンド見て、かっこいいライブだなぁ、とか思ったりはするけど…感動させてくれるのは君らだけというか…。これ別に、インタビューだからおべっか使ってるわけではなくね。

オギノ へぇ〜。

ー今回のアルバムも、同様にすごく感動したし。…私のようなねぇ、人間のクズも胸を熱くさせるような笑

オギノ ありがたいよ、すごく

ー…クズ…クズは言い過ぎか笑 まぁ、捻くれてるというか…時速のメンバーの中では、俺とオギノが一番性質は近いと思ってるんだけど。

オギノ そうだねぇ。ブチギレ続けてるのは今や俺とカワノだけ笑

ーふふふ笑 でも、こうやって話すと意外と思考回路が真逆だったりもするし…俺がいつもお前に感心するのは、ひねくれてはいるんだけど、純粋性を諦めない強さがあるよなぁ、オギノは、っていうのがある。

オギノ おぉ〜。これはね…俺、話そうと思ってました!笑

ーおっ笑

オギノ なんか…伝えるのが難しいけど、屈折した部分も鬱屈も抱えてはいるんだけど…自分の中で引いた線引きをちゃんと守ろう、って、頑張ってるんだよね。

ーひねくれてはいるけど、線引きの中のピュアなものを保とうとする努力。

オギノ そうそう。…俺はもう、最早カワノ以外には話したくないんだけど…自分が10代にどう過ごしたか、とか、そういうものが影響してひねくれてしまうもんだと思うんだけど、…普段生活していてムカつくこととか、物事を斜に見てしまうところとか、あるのよ。…でも、そういう生きづらい中で、ことエンタメとか、音楽とか、そういうコンテンツに延命されてきた実感がすごくあって。で、自分がそれを提供する側に回ったときに考えるのが…その、ひねくれの鎧を下ろした状態で…いや、鎧を纏ってはいるんだけど、それを突き破って、ひっくり返してでも突き刺さってきてくれるものを、そういう、延命させるコンテンツとして探してたなぁ、って。そういうことを考えることがあって。

ーうんうん。

オギノ で、それは…ひねくれてるからこそ、鎧を下ろしたり、鎧を突き破ってほしかったのよ。

ーバンドって、ある意味では自己の理想の追求だし、そこに自分を持っていくための研鑽でもございますからなぁ。

オギノ そうそう。だから、俺の理想…線引きの中の純粋性はそこにあるというか。ひねくれてるからこそ、その鎧を突き破って届いてくる何か、っていうのをすごく信じていて。それが俺の中の純粋な部分。…そして、これを人にはあまり言いたくない笑

ーふふふ笑

オギノ ひねくれてるから笑

ーでも、…そうはいうけど、俺は、そこを具体的に言葉にせずとも、オギノの鋭さの内側にある柔らかいものっていうのを人にちゃんと見せられる強さもあると思ってるよ。それは曲から感じる部分だけど。…俺は「素晴らしい日々」が大好きなんだけど、あの曲…柔らかい部分もそうだけど、自分の鎧の部分も人に隠さず届けてると思うんだよね。それが、さっき言ってたように、誰かの鎧を解く一発になってると思うし、オギノの才能だと思うよ。

オギノ うんうん。

ー世の中にはいっぱいいるじゃん。「僕はピュアなんです!」「僕は本心なんです!」みたいな…よくわからない人たち。ああいう嘘って、わかるじゃん。お客さんも、俺らも

オギノ そうだね。間違いない。

ーあれは、自分の柔らかさを見せてるんじゃなくて、…柔らかい風のものを作って見せてるんだよね。俺はそういうものを否定はせんが…いやらしいと思ってしまう。

オギノ あぁ、そうそう! …俺は、むかつくよ!そういうの聴くと笑 だし、そういうのって、お客さんもわかるじゃん。

ーうん。…で、オギノはその点においては偽りがない、ていうか。…で、これ、奇跡的なのが、しんのすけとのコントラストがあって、これがアルバムの中で映える! 音楽を聴いた時にね。


オギノ あぁ〜。シンノスケはひたすら柔らかいからね。ナチュラルボーンで、マジだから。…あれもあれで珍しい笑 ただただひたすら柔らかくて暖かい笑

ーそうだね。対するオギノは二面性があって、あるんだけど、それを隠さないし、その中で純粋性を守ろうとしてる…うん…二人とも純粋って点では互いにつきつめようとしている…。もうとっくに俺はやってないことだから、羨ましくはあるねぇ

オギノ カワノにはないの? そういうの。

ーうーん…。

オギノ …まぁ、でもさ、音楽…ことバンドにおいては、みんな純粋…とまではいかないけど…。そうね、例えば…難しいけど、金商売で考えた時にバンドってクソ効率悪いじゃん。

ーまぁね。

オギノ 遠征するだけで利益の何割かはその代金で飛ぶし、機材費もスタッフのギャラも、すごい額になる。おまけに利益はメンバーで分けなくちゃいけないし、人が増えたら面倒臭いことも増えるし…。だから、ある意味、そういうのをあえてやってる、っていうことが既に純粋なことなのでは?って気がしないでもないんだよね、俺は。

ー…優しいね。

オギノ 俺はそういう意味で…全員愛おしいな、って思う時もあるよ。…まぁむかつくもんはムカつくけど笑 …そうだねぇ、でも、この話はすごくしたいことだったんだよね、純粋性ってやつ。これを、例えば雑誌のインタビュアーさんに聞かれても…答えられなかったと思うし笑 そもそも、そこまで音楽を聴き込んで、こういうことを聞いてくれる人っていないだろうしね。…わかる人とわからない人で、一切別れることだから。

ーそうだねぇ…。

オギノ うん…だから、やってよかったなぁ、って笑

『リアルタイムでのコンテンツ化は非常に難しい』

ー歌詞の話になるけど、今作に限らず、時速の曲は伝えたいこと…主張とか、そういうものがあった上でそこに向かって進んでいく、っていう歌詞ではないじゃない?

オギノ そうだね、まさに。

ーっていうのは、もっとこう、自然な、というか、何かメッセージがあるにしても、生きている上で芽生える気持ちの素朴な発露が近いと俺は思ってて。だから、今作…特に今作においてキーになったこと…思ったこと、感じたこととか、そういうことについて具体的に話をするのがいいんじゃないかな、って思うんだけど。聴く人の大きなキーになると思ってて。あんまりオギノの内面とか、そういう話ってする機会ない、っていうのが今回のインタビューの始まりだし。

オギノ そうだね。…カワノはどうおもう?今作。

ーあえてこういう言い方するけど、怒りとかやるせなさとか、そういう凸凹した感情が減ったな、と思った。…実際に減ったのか、あえて減らしたのか、それともその他の側面が強まったのかはさておき、ね。まぁ完全になくなったわけではないだろうし、単純に俺がそういう感情に敏感だし、フォーカスしちゃうところはあるんだけど。…まぁ、ちょっと雑な言い回しだったから、もうちょい具体的にいうと、いい意味で今作で歌詞の心情の波がフラットになった印象を受けた。極端な出っ張りではなくなったというか。より自然な中で芽生えた感情で歌われてるのかな?って。

オギノ うんうん。…なんでそうなったかっていうとね、実は背景はテレコになってて、前回フルアルバムを作った時は別に、何か暗いことがあったとか、怒ってるとか、って、実はそんなになかったんだよね、逆に。

ーへぇ。

オギノ むしろすごく楽しかったしね笑 でも、今作は…むしろきついことが多くて。メンバーそれぞれいろんなことがあったし、俺は実際、半鬱気味まで落ち込んだ時もあって。メンバーも…ヒデアキは仕事をやめたり、カイくんは逆に仕事が忙しくなったり。ただ、往々にしてそういうことって、コンテンツ化…これをリアルタイムで曲にすることって俺はできなくて。若干のタイムラグがあるというか。

ーなるほどね。

オギノ カワノがよく言ってるけどさ、「本当に悲しいことって歌にできない」って、まさにそういうことでさ。

ーそうだねぇ。頑張ったり時間がたったりして、悲しいゾーンを抜けないと、振り返ってそれを歌詞にできないんだよね。ある意味自分の中で決着をつけて初めて曲にできる…できるじゃなくて、俺の場合は、なっていくだけど。

オギノ そうそう。リアルタイムでのコンテンツ化は非常に難しい…難しいことだったからこそ、むしろ今作は、フルアルバムを作っていたあの時期…バンドに没頭して楽しかった時期の感情とか出来事を体験として踏まえて作られたものだと思ってるんだよね。だから、次出す物に関しては、怒りとか悲しみとか、そういうものがはっきり出たものになるんじゃないか、って思ってる。

ーなるほどなぁ。

オギノ リアルタイムでの作曲もできりゃいいんだけどね。

ーいや、しんどいよ笑

オギノ そこの話だと逆に、CRYAMYはそこがよりストイックになっていってる印象はすごく受けるけどね。…しんどいだろうけど。

ーうーん、次のフルアルバムはまさにそこがコンセプトにあるかもしれない。ある意味時速とは逆というか…。

オギノ よりリアルタイムの感情を追っていくようなものになるの?

ー現状で自分の中にある強いモノ…とか、もっと言えばこれから起こりうる、感じうる少しだけ先のこともキャッチしようとしてるかも。でも…しんどいねぇ、これは。歌いながら結論を探らなくてはいけない…。

オギノ …客観性を持てなくない?そういうのって。

ー持てない。持てないけど…そういうのもういらねぇ、持たなくていい、って。…オギノがいう、目線として誰かを見て、誰かを思うっていうのが、俺はもう…それを一切無視してる…し、そうも見えるだろうな、と。

オギノ たしかに。…カワノには合ってるようには思うんだけどね。

ーで、まぁ…そうすることでよかったか、って言われると、別に良くなかったからね笑 しんどいし、苦しい…。

オギノ もっと落ち着いて、噛み砕いて言葉にしたほうがよかったんじゃないか、ってこと?

ーそうだねぇ。俺、全部の曲、歌詞から先に書いて、他を追っつけていくんだけど、…次作はもう、そもそも作曲段階で歌詞書いてない曲も多くって。フリースタイルに近いというか、…ちょっとダサい言い方になるけど、思ったことをただベラベラ喋ったことを曲に起こしただけ、っていう。だから、紙に起こしていない。

オギノ なるほどなぁ。それはよりリアルタイム性はあるよなぁ。

ー歌詞って書くと考えちゃわない? ちょっとカッコつけちゃうじゃないけど、美化しちゃう。

オギノ …今聞いて思ったのが、歌詞を考えて書く、っていう行為がそもそも歌詞を歌詞然としかさせない方法だよな、って。

ーうんうん。

オギノ カワノがやったやり方って、今現在日本で跳梁跋扈している邦楽ロックの手法からは大いに逸脱してて…ヒップホップに近い。ビーフとかって、喧嘩売られたら一晩で歌詞書いてラップして、って世界じゃん。…それをバンドでやるのも、アリだよね。

ー俺の場合はトラックすらない状態だから…メロディもリズムももちろんなくて、あるのは文字だけ…みたいな、そこから構築していく…ペラペラ喋った言葉に後から要素を掛け合わせていく、って感じかな。…熟慮の末に出る言葉の良さもあるし、そこも捨てずにそれもやりながらアルバムは作っていってるんだけどね。

オギノ …歌詞って難しいよな。でも、この話で難しいのがさ、タイムラグがあった上で作った歌…これを引っ提げてツアーをする、ってなると、どうしても曲と、今ツアーをする自分達との心情と乖離してしまう、っていうのはすごく悩ましいな、と思う。…別物になっちゃうんだよね。

ーわかるよ。

オギノ いい意味でも悪い意味でも、ライブはライブ!CDはCD!って。まぁ、ライブはエンタメ…ショウではあるから、それぞれ意義は違うのは当たり前なんだけどさ。作品のタイムラグもそうだけど、そこのもどかしさも、すごくある。

ーまぁ、しかし、俺思うのが、…音楽を感情とか、思想の表現とする、とさ…速度がそもそも遅い。

オギノ ほぉ。

ー曲を作ります。スタジオで練習します。デモを作ります。スタジオ抑えてレコーディングします。ミックスします。デザイン決めます。プレスします。流通業者と店舗決めます。…なんなら発売前に宣伝します、って、めちゃくちゃ遅い。

オギノ そうだね笑

ー極端な話、「I LOVE YOU」が本旨であるなら、…そりゃ奥ゆかしさ、深み、作品にするまでの血と汗…いろんなこと付与できるだろうけど…これは別に、本質には影響しないと、俺は思うというか。…だし、過剰に重視されてる空気もある。…やだなぁ、って。なんて遅い愛情表現なんだ!って。

オギノ そんなことやってる間に別の手段は取れるし、そもそもその感情って時間がかかればかかるほど持続できなくなって、別のこと考えちゃうもんね…人間だし。

ー…言いたかったら本人にさっと言えよ!じゃないけど、そういうジレンマは俺はすごくある。…そこのラグを無くしたいからなのか…作った曲聴いて思うけど、そういう、強烈な感情とか絶対に伝えたいことがこもってる曲は、速いね。

オギノ へぇ。

ーパンキッシュになる。…日本人はバラードが好きだし、言葉もテンポが遅い方が届きやすいとかいうけど…俺の大事な曲はBPMが速い。ライブだともっとつんのめらせたくなるし…それは少しでも、オギノの言うタイムラグみたいなものを極限まで無くしたいからなのかもなぁ、と今思ったね。

オギノ 面白いなぁ。…意外と俺はそういうのないかも。でも、俺は作曲者ではあるけど、加えて歌歌いはどうしてもそこに向き合わなくちゃいけないよね、とは思うなぁ。だし、俺もスタジオミュージシャン的に静かに黙って曲をなぞるタイプではないからさ。自分の気持ちも乗っけて、全身で爆発させるのが好きなタイプだから…こんなこと今は思ってねぇよ!って歌詞が絶対にあるけど、今それがショウとして求められてる以上は、折り合いをつけて、表現にする努力は惜しまないのは、すごくあるね。

ー…で、俺が悩んだ末に思いついたのが2個あって、一個は、歌詞を書く段階で既に未来のことまで想像して書いてしまう、っていう。

オギノ ああ、獲物が動くより先に、ってやつか。照準を先に…未来に合わせるってよりは、リアルタイムを拡張する..あらかじめ広げておく。

ーそうそう。「OK Computer」(radiohead)とかはすごいわかりやすいというか。

オギノ あぁ、そうだね。当時は思いつきもしなかったであろう出来事を…予言してるとまではいかないけど、先に歌っちゃってる。

ー…ただ、俺はそういう、時代のアイコンみたいになるほどの曲を造れるほど才能に恵まれてるわけではないから、…もう一個、さっき話したけど、リアルタイムのことを歌にする…って言うのにかかってくるけど…その、曲を書いた当時の気持ちでも感情でもなんでもいいけど、それを強引に…停滞させる、自分の中に。ずっと。

オギノ うんうん、…ヤバいね、しんどくねぇか? …例えば、怒ってることに対して永遠に怒り続ける、ってことじゃん。それってクソしんどくねぇ? 悲しみ続けることも…。うん…でも、それは、わかるところがあるなぁ、俺も。

ーうん。…でも、オギノもあると思うけど、自分の中に一生解消できない気持ちとか、消えない傷みたいなものって絶対にあるじゃない。時間が経っても、時代が進んでも消えないというか。

オギノ あるね。

ーそう言うものをキャッチするのが作詞ではあるけど…でもそれも、放っておくと、時間と共にどうしてもすり抜けてしまう。だから、それを手放さないように…曲を作り終わってしまって、あとはレコーディングをするだけ…さらに言えばこれを披露するワンマンがある….だから、それを100%の状態で迎えるために力強く握っておくこと…っすよね。…バンドやる以上、歌う以上はこれは俺にとっては大事なんだよね。

『生きづらさを抱えてる人が、俺の曲を聴いてくれてるんだとしたら、俺と一緒に考えていこうよ、って思ってるかな』

オギノ …でも、それってさ…思考や責任の果たし方は俺たちで全く違うけど、俺にもすごくあることで…そういうしんどい状況にずっと身を置くって、一生幸せになれねぇな、って、そう言う感情…あるでしょう? 俺も、ずっとあって。

ーそうだね。

オギノ 多分それって…しんちゃんは、バンドは状況が良くなっていって、いろんな曲が作れる引き出しがあって、楽しめて、ってのがあるけど…その、作曲者二人でバンドをやり続ける以上は…俺は幸せになってはいけないんじゃないか…って、思うこともあって…。…なれないし、なっちゃいけない。俺は。…すごい、俺はそれがあって。

ーうんうん。

オギノ う〜ん…。

ーでも、俺が思うのが、オギノが幸せにはなれない、って戦っている一方で、しんのすけはまた、別の軸で戦いがある、っていうか…。しんのすけは、幸せになっていく過程でまた壁が立ち塞がっている苦しみを乗り越えなくてはいけないんじゃないか、って思うこともあるし。

オギノ あぁ、なるほど。

ーそれは俺…かなり不謹慎な言い方だし、もちろん二人とも幸せにいてもらうのが最高だけど…そういう、それぞれ違う苦悩を抱えて音楽をやってる二人が共存しているのが時速36kmの素晴らしさだと思うんだよ。…どちらの立場にいる人間にも歌が届く素晴らしさがある。

オギノ うんうん。

ーオギノのさっきの話じゃないけど、「誰かの期待に応える」って言うのを大事にしているバンドだからこそ、その誰かを広く、一人も見捨てないって言うことができる証拠、って言うかねぇ。…俺は昔から金子さんに言ってるけど、時速が一番俺らの世代で…売れるとか、そう言う下世話な話って意味ではなく、多くの人の大事な一曲を作れるバンドだと思ってんの。

オギノ よく言ってくれてるよね。

ー極端な話、しんちゃんの曲はわかるけどオギノの曲はわからんとか、その逆とか、あると思うんだけど、二人ともとても純度の高い作品を作ってるからこそ、それぞれの立場にいる人たちにとって大事な曲を届けられる可能性を秘めてるんだと思うんだよね。

オギノ …たまにしんのすけに愚痴りたくなるけどね笑 「お前だけ幸せになりやがって」って笑

ー笑

オギノ あいつにはあいつで、「もっと幸せじゃない瞬間にも向き合ってくれ!」って言うのは、すごく言ってる。って言うのは、もっと引き出しを増やして、見せてくれ!って意味だけど。彼はいろんなものを、いろんな時に出せる人だってわかってるからこそ、それを臨機応変に出せる人間になってほしいな、って、思ってるからこそなんだけどね。…逆に俺は、一個しかできないから、そこは任せたぞ!って笑

ーうんうん。

オギノ …そうだね、一個しかできないからこそ、その一個…カワノの言う停滞させる、に近いけど…そう言う意味で俺は幸せになってはいけない、っていう。…だから、ステータス…肩書きとしては俺は、結婚して、家もあり、飯も食えて、仕事もあって、普通に考えたら幸せだ、って思われるんだけどね。だけど…あんまり幸せって実感がなくて…一生何かに怒ってるし…。

ー…感受性って言ったら安っぽいけど、それはいろんなものを敏感に感じ取ってるってことだよ。あまり悲観的に自分を見る必要もないし。…だし、一口に幸せ、って言っても難しいじゃない。…オギノがこの間Twitterに書いてたけど…あの、スパイダーマンの…。

オギノ あぁ、あれね笑

ーそう笑 あれもさ、オギノがいう「幸せ」って言うのは、あのTwitterみたいなことを、鈍感に受け入れることかもしれん訳でさ。そう考えたら、その、不幸せみたいなものも少しは認めてやれるんちゃう?って俺は思ったりもするかなぁ。まぁこれは自分への慰め半分な論でもあり…そう言う他人をすげぇ馬鹿にしたような言い方だけど…。…まぁ、馬鹿にしてるけど笑

オギノ …なんかさぁ、バカを見ると…。

ーふっ笑

オギノ いや笑 バカを見ると…いやぁ、本当に最低な言い草ですけど…、でもね、先に保険をかけとくけど、俺はひねくれてるので…笑

ーそうね笑

オギノ バカを見ると、シンプルに羨ましいと思うんだよね、俺。…学力の話ではなくてね。…そっちの方がいいよね、って。心底羨ましいね…羨ましいから…心の底からバカにしてる…。「よかった、お前らみたいな奴らと一緒じゃなくて!」って笑 …一方では、やはり、すごい羨ましい。

ー…難しい。

オギノ …まぁ、そう言うことを思ってる俺も浅はかなんだろうな、って反省したりもするよ。もっと歳重ねて経験を積んだ人間からしたら「何言ってんだお前ら」っていう意見もあるんだろうし…まぁ、そういう歳に俺もなって、今してる経験とかも踏まえた上で振り返ったらそう思うのかもなぁ、って、変に冷静になってしまうところもあり。ただまぁ、…現実生きづらいし、生きづらいと…思わせてくれよ、って。大人になると…どうしてもそう言うバカにしてる人たちと足並みを揃えなくちゃいけない瞬間が来るんだよね。

ーあぁ、はいはい。

オギノ それにどう向き合うか…って、すごいキツイんだけど…もしも俺みたいな感情…生きづらさを抱えてる人が、俺の曲を聴いてくれてるんだとしたら、俺と一緒に考えていこうよ、って思ってるかな。

ーあぁ、いいこと言うな…。

オギノ 俺もさ、別にそう言うものに回答があるわけではないけど…死ぬまで思うんだろうけど、そう言う回答を求め続けるって言うのが、俺の回答なのかな、って。その回答を求めている以上は幸せにはなれないんだろうし…まぁバンドやめた時はその限りではないけどね。

ー俺は、そう言うところがオギノの素晴らしさだと思うな。…俺とかはさ、「足並み揃えるのが嫌だからこうやっとるんじゃ!」って…すごく自分自分な人だから。さっきの話にも繋がっていくけど、オギノはそうやってヤケクソにならない。だからこそ、多くの人にとって大事なものが生み出せると思ってるよ。

オギノ うん。良くも悪くもそういうのを…諦めないというか。…それに、そう言う風に開き直れる人って多くないと思うんだよね、世の中には。みんな良くも悪くも空気が読めてしまうし、足並みを揃えることを選んでしまうというか…だからこその憂鬱とか生きづらさとか…そう言う目線には立ち続けてバンドをやりたんだよね。…市井の人であり続ける、っていうか。…俺が仕事をしながらバンドをやる、って言うのもさ、市井の人であり続けることの一個の理由でさ。

ーうんうん。

オギノ リアルな天才がさ、…例えば桑田佳祐とかさ、あんなに金持って、大人気の人なのに、あの人の歌って市井の人の目線があるじゃん。あれってすごいことだと思ってて。…ただ俺は天才ではないから、そう言う曲を作るのであれば、俺自身が本当に市井の人でいなくちゃいけないんだよね。普通の人でいなくてはいけない…だから普通の人になった、って感じ。お客さんが感動してくれてるのも、多分、そう言う目線を持ちながら歌を作っているからだと思ってて。

ーなるほど。

オギノ …結構ね、これは俺個人っていうよりは、バンドとして、みんなに伝えていることではあるんだよね。共通の認識として持ってるところではあるんだよ。

ー確かに、それはオギノの良さでもあり、時速の良さだね。生活がありながらバンドとして人に向き合う、っていう。

オギノ …まぁ、俺は活動も、サポートに入ってもらったりしながら動くことをバンドにお願いすることもあるし、…何かを犠牲にしながらやらなくちゃいけないのもあるけど…。よくみんな俺のこと見捨てねぇな、って思うよ…。

ーでもまぁ、これで両立し切ったらかっこいいけどね。…だし、みんな応援してるじゃない。スタッフ然り、メンバー然り。だし、そういう、働きながらやってる姿に励まされてる人も多いんじゃないかな。お客さんとかも。

オギノ …だといいな。

ーその分、いいライブ、いい表現を見せるってことですな。

オギノ うん、それは最近強く思うな。俺は自分のことをよく思えない…よく思ってないんだけど、そういうことを言うとファンの子たちに怒られちゃうから言わないようにしてるんだけどさ。例えば、俺自身プレイヤーとして優れてるわけではないと思ってたりするけど…。だけど、そうは思うけど、逆に、こうやって人に迷惑をかけている分、あまり他の人がしていない経験をしている分、他人には出せないもの…この状況に陥らないと書けないよね、っていう歌詞を書くこと…これが他のバンドに勝てる、優位性を持ってるところだと思ってて。

ー嘘のない歌詞。

オギノ うん。それは、全力で出して、メンバーに還元したい、って…すごく思ってる。それに胸を打たれる人もいると思ってるから。…結構ね、どこまで行っても、作詞家として才能がないと、自分の身の回りで起こったことしか書けないとは思ってるからこそね。

『このアルバムは、俺が死んだ後とか…そういうものをすごく考えて作ったものなので』

ー…それじゃあ、最後に、今後の野望とか…。まずは次回のツアーは、どうっすか。フェスのメインステージも経験して、次のファイナルはZeppで。WWW Xでのライブでも宣言した通りになったね。

オギノ そうだなぁ…。Zeppワンマンはやっぱり、一個の目標だったからねぇ。…でも、あくまでZeppはツアーファイナルがそこ、ってだけで、ツアーの意味合いとしては各地に行く、っていうことだからね。そこに注目は行きがちだけど、そこにとらわれず、各所ワンマンで、長い時間の演奏で魅せられるものっていうのもあるからそれをちゃんと届ける、っていうことかな。…あとは、修行かな。

ー修行。

オギノ まぁお客さんからしたら各地回ってるってだけだし、それ以上感じてほしいとかでは全然ないんだけど、やってる身としては、どんどんライブをやることで歯車が噛み合っていく感覚があるっていうか。そのハマり続ける感じっていうのを大切にしたくて。それがあることで演奏が仕上がっていくし。そこを意識しながら各所、ライブはしたいね。

ー楽しみだね。ファイナルは見にいくんで!

オギノ いやぁ、頑張りますよ! この先の、例えば セカンドアルバムとかもね、そういうのを見据えて頑張りたいし。

ーその先の目標とかはございますか?

オギノ そうだねぇ…武道館かなぁ。武道館はずっと…目標にしてたのはあるな。でも、短期的にイケイケドンドンでそこまで!って感じでもないかも。ずっと続けていって、最終的に…節目のタイミングでお祭りみたいな感じであったらいいよね、っていう。…あと、武道館でやったらおばあちゃんがわかるから笑


ーそうだね笑

オギノ この間のラッシュボールとかもだけどさ、一個一個、目標とか、もらったチャンスとか、そういうものにこたえていって…まずは、今回の新譜とツアーに向けて頑張ります、って、そういう感じかな。

…最後に、これは俺個人のインタビューだから言えることなんだけど、このアルバムは…メンバーにも金子にも伝えてるんだけど、俺監督のアルバムだと思ってます。で、これはライブでは言わないし、あくまで時速のボーカルはしんのすけで、彼がいる、っていう前提での作品ではあるんだけど、…このアルバムは、俺が死んだ後とか…そういうものをすごく考えて作ったものなので…もしこのインタビューを最後まで読んだ人がいるなら、そういう視点で聞いてもらえると…特に今回話したことも踏まえた上で聴いてもらえたら嬉しいし、そういう作り方でいいよ、って、ベットしてくれたのはカイとヒデアキとしんのすけで…だから、今までのアルバムとは違った聴き方ができると思うので。…ツアーも含めてよろしくお願いします!


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