見出し画像

【インタビュー】CRYAMY 1st LP 「#3」release【前編】

前書き

昨年、1stフルアルバムをリリースし全国ツアーを完走。勢いそのままに、2022年はリキッドルームでの単独公演に始まり、3rd EP「#4」のリリースとワンマンツアー、夏のいくつかのイベント出演ののち、時速36kmとのスプリットツアーも完遂し、精力的な活動を繰り広げたCRYAMYが今年の最後に仕掛けるのは、三年前リリースされた2nd EP「#3」の12インチアナログレコードのリリース。

今回、CRYAMY初のアナログ作品として、1st LPと冠して再発される当作品のリリースを前に、CRYAMYカワノにインタビューを敢行した。前編となる今回は、ある意味、CRYAMYの原点とも言える「#3」のリリース当時を振り返り、制作時の模様や創作論を通して、改めて世に放たれる「#3」という作品について掘り下げると同時に、そこのみならず、カワノが歌詞や楽曲を作り続ける上でのスタンスや、自分に課しているルール、創作の上で避けては通れなかった葛藤を率直に語ってもらった。

Talk:Kawano,Kurata
Text,Edit:U-HEY

本編

1.1st LP「#3」について

ーまずは1st LP「#3」発売おめでとうございます。初のアナログ作品になったね。

カワノ ええ、ありがとうございます…。…ふぅ…。(コーヒーを飲んで一服)

ー笑 めちゃくちゃ疲れてんじゃん笑

カワノ 昨日も夜中まで色々弄ってたからね…笑 耳くその溜まり方えぐいよ、俺。膿が汁になって固まってんじゃね?って感じ笑 歯も痛いしよ…。でもまぁ、色々ひと段落しましたよ。まだ色々あるけどさ…。で、今日は休んでたらふく寝て、昼ぐらいから町田でフラフラ遊びにいこっかなとか考えてたんだけど…ねぇ笑

ー俺が悪いみたいに言うなよ笑 LINEで「明日10時、お前んち迎えいくね!」って言ったじゃん笑 お前も、「わかりました!よろしくお願いします!」とか言ってさ笑

カワノ いやぁ、ほんとにねぇ、申し訳ないよ笑 そんな…全然意識なかった笑 …いや、でも、ウン…よかったです、無事完成して。

ーうん、俺も、ついにCRYAMYもLPリリースか、って感じ。しかも「#3」ってチョイスがいいな、って思ったよ。俺、なんだかんだあれが一番好きでさ。

カワノ そう言ってもらうこと多いんだよね。俺的には、あのCD、今聴くと「うわぁ、オボコいなぁ」って感じなんだけどさ。演奏もまとまってないし、音も良くも悪くも初のスタジオ音源!みたいな、あの、拙くって後一歩及ばない素朴さがあるし。良くも悪くもなんだろうけど。

ー当時を俺は知らないけど、リリースされたのは三年前の同じ時期なんだよね。

カワノ うん、そう。だから…まぁそりゃ、3年も経てばちょっとずつ変わっていくもんなんだろうけどさ。でも今聴くと恥ずかしいよね笑 演奏もそうだけど、声もなんか…今よりも若いっていうか…綺麗笑 まだこう、壊れてない、喉が笑 透き通ってて、少年の…いや、なんか、女の子みたいでさ…。

ー何言ってんだか…。でも、今ガラガラだもんな笑

カワノ 寝起きっていうのもあるけどね笑 …この間、「独唱」(先日リリースされたカワノの弾き語り集CD)の歌録音の時にさ…レベルを突っ込んでるわけでもないのに、マイクの音が歪むっていう笑 「高山さん(CRYAMYの作品を手がけるエンジニア)、これ、音量結構突っ込んでる?歪んじゃってるよね」って聞いたら、「いや、オーディオ的な歪みじゃなくて、お前の喉がもうすでにガラガラ鳴ってて、倍音でてディストーションしてる。ノイズみたいになって歪んでる」って言われて笑 波形とかやばくって、結構処理に苦しんだんだよね…。…まあ、喉は年々壊れていってるし、単純に年だね、年笑

ーまだ26だけどね笑 話戻ってLPについて聞きたいんだけど、これはいつ頃制作が決まったの?またお前の無茶振り?

カワノ ううん、これはね、実はマネージャー発案なんだ。会田さん(CRYAMYマネージャー)と前から出したい、って話しててさ。俺も一時期死ぬほど集めてた時期あるぐらいには好きだし、「いずれ俺たちも出してぇなぁ」って言ってて。で、時期は忘れちゃったけど…「#4」リリースツアー終わったぐらいかな。ミーディングの時に、「冬ぐらいに出すか」って話になった。…うん、そんな感じ。結構ね、スタートは、ラフだね。

ーそうだったんだ。「#3」っていうチョイスもマネージャーさん?

カワノ だったと思う。そもそも、新曲をレコードで、って感じでもなかったんだよね。今年はマジで…作曲マシーンの俺史上1番の不作の年だったから、そもそも曲がない…まぁ、ソロは出したし、友達のトラック作ったり、名前出したり人に言ったり聞かせて無いだけで、作りまくってはいたからさ、ないことはないけど、CRYAMYに持っていかなかったから。それに…音響的な話になるけど、俺たちってレコード向きのバンドではない、っていうかさ。

ーほう。っていうのは?

カワノ うーん…今の俺のモードとは違うんだけど、当時の俺たち…まぁ、「red album」ぐらいまでかな…、うん、その辺りはね、とにかく音がデカい笑 CDの限界をせめてさ…たまにピークオーバーしてオーディオ的に歪んじゃっても構わないってぐらい音を突っ込むから、これをそっくりレコードにしたとしてもあんまり良くないんだよね。下手したら針跳びする。後は、レコードって、円盤の内側に行けば行くほど音圧が下がっていっちゃうし、音質も落ちてしまうからね。アルバムの後半にかけて曲がジャンクになっていく俺らには合わないというか笑 …「シングストリート」のセリフじゃないけど、バラードでアルバム締めるとか最悪だからね笑 …とか、さまざまございますけど、まぁ、一番は…CRYAMYというバンドのスタジオアルバムはCDで聴くこと前提の作りをしてるから、どうしてもそうなっちゃう。

ーなるほどね。

カワノ だから、この1st LPの音源も、実はレコード用にリマスターしてるし。テスト音源をもらって聞いたんだけど、すごくCDとは違った感じだし、実物が届いたらそれをレコードプレイヤーで聴くことでも全然違うと思うし。面白いよね。だから、さっきは「恥ずかしい」とか言ったけど、一方ですごく新鮮に俺も楽しんでるところあるかも。

ーいつも通り音にはこだわって作った、と。

カワノ いやいや、でもね、リマスター作業は…少なくとも既に出来上がった作品だから大幅に変えたりはしないし、作業的にはほとんどカッティングエンジニアさんに任せた感じだから、俺は何もしてないけどね笑 あくまで音の調整に終始してる。まぁ出来上がって届いたらまた次、レコード作る時に向けて色々出てくるとは思うけど。…CDとレコード、フォーマットが違うだけで全然変わってくるのは面白かったかな。ミックスを考える上でも勉強になったしね。

ーなるほどね。12インチで一枚?

カワノ うん。そうだね。

ー12インチってのもクソいいな。7インチじゃなくって12インチなのは個人的にアツい。レコードってさ、デカければデカいほど、よくない?

カワノ 笑 いやぁでもわかるっすよ笑

ーね、そうだよね!手に持った時の重厚感があるからいいんだよなぁ。

カワノ 音もね、12インチの方がいいから。…急に思い出したけど、あの、俺さ、Nirvanaの「smells like teen spirit」の12インチシングル持ってたの。UK版の、ちょっとレアなやつ。昔、お金ない時、どうにもならんくなって売っちゃったんだけど…。儲けが出たら、絶対見つけ出してあれを買い戻そう、って、今思った。12インチ繋がりで笑 まぁ後…古本とかレコードは売らない方がいいね、買い戻すのがすげぇ大変…。見つかんねぇの。

ーそっか笑 じゃあこのタイミングでさ…実は発売を記念して、俺からプレゼントなんだけど…これ。(レコードをカワノに渡す)

カワノ うわっ! 「パブロハニー」じゃん! ヤバい。

ーよかったぁ、持ってたらどうしようとか思ってたけど笑

カワノ いやぁ、昔は持ってたけど、もう俺今、ほとんど売っちゃうか友達にあげて手元にないからさ笑 いやぁ、嬉しいなぁ。

ーカワノといえば「パブロハニー」だからね。前みんなで遊んだ時も、「CRYAMYはパブロハニーなんだよ」とか言ってたからさ笑

カワノ ふふふ笑 …いや、12インチデカいな笑 俺、出かける時鞄持たないから、どうしようこれ笑 …ちょっと、もらっといてあれだけど、預かっといて笑 いや、ちゃんともらうけどさ笑

ーお前失礼なやつだなぁ。せっかくあげたのに笑 ほら、持っといてやるから。

カワノ ああ、今預かんなくていい! ちょっと眺めるから…。…そっか、「パブロハニー」もジャケット黄色いのか。なんか、いいな。憧れのバンドの道を辿ってる感じ笑

ー「#3」も黄色いね。あのジャケット、なんなの? カワノ作成でしょ?

カワノ うん。あれはね、昔の俺んちの蛍光灯を加工したやつなんだ笑 あの黒いぶつぶつは…中で死んだ虫の死骸笑


「#3」ジャケット

ー笑

カワノ でもなんか、月面っぽいでしょ? それもあって、採用、みたいな笑

ー一気にジャケットがでかい12インチで受け取るのが嫌になってくるな笑

2.「#3」の作曲と歌詞の制作

ー「#3」のさ、制作当時のことって語ったりしてるの? みんなの目につくところで。

カワノ あー…どうだったかな…確か、「音楽と人」でインタビューはしてもらった覚えがある。でもそれぐらいかも。そこでも詳しくは話をしなかった気がするし。…昔書いてた日記では色々書いてたかもしれない。

ーそっか。じゃあその辺聞いてみようかな。前お前がリリースに際して書いた文言から察するにしんどそうな感じではあったけど、どんな具合だったわけ?

カワノ いやぁ、忘れちゃてることも多いけど…あんまり思い出したくないくらいしんどかったね笑 俺は曲を歌詞から作るんだけど…まずそこが一番しんどかったかな。…実はあのCDの曲の中で最初に完成したのは「sonic pop」と「easily」なんだけどさ、そこら辺はまだマシだった。「#2」や「crybaby」となんとなく地続きなイメージで作れたから。…「月面旅行」と「世界」じゃないかな、キツかったのは。

ーそれは、どうして?

カワノ 歌詞がさ…なんつうかねぇ、初めてぐらいに、自分の意志とか魂っぽい領域に踏み込んだものになったからかなぁ。すげぇ漠然としてるけど…なんとなくわかる? 偉そうな言い方しないなら…適当じゃなくなった…ヤケクソではないんだよね、ちゃんとしてる。…真面目になり出した、なりすぎた?かな?

ーまぁなんとなくわかるな。確かに、それ以前の2作品と比べると、少しずつお前の観念とか哲学に触れるような言い回しが出てきたイメージが俺にはある。「月面旅行」は、俺の中で、「ディスタンス」みたいな吐き捨てるように率直でもなく、「物臭」みたいに一人称の、生活に根ざした視点でもなく、どっか客観性も持ちながら長い時間苦悩した結晶、って印象かな。

カワノ 大層に分析しすぎな感じもあるけど、まぁそんな感じ笑 なんとなく、俺がこれまで書いてきた歌詞とは方向性が、この作品をもって枝分かれした、って俺は思ってるかな。…枝分かれの仕方が、広がった、ってよりは、これまで漠然と、漫然と書いていたものを廃し始めた。かも。

ーあとね、これ多分、お客さんとか、お間の友達とか、同じようなことを言ってる人も多いとは思うんだけど、明らかに表現の仕方が…歌詞の言い回しが良くも悪くも「歌詞」らしく無くなったのかな、って。

カワノ はいはい。

ー歌詞らしくないっていうか、詩的じゃない。「#2」と「crybaby」はまだギリギリ詩っぽかったんだよ。でも、なんというか…この作品は、っていうか、この作品以降、かな、すごく、話し言葉や喋り口調に近い。お前とこうやって喋ってる地平でいることにすごく近いんだよね、音楽なのに。だから受け入れられなかったり、鼻で笑う奴はいると思うけど、刺さるやつにはすごく深く刺さる。し、それでも理解できないこともあるんだけどさ、俺は笑

カワノ ああ、そうかも。それは、この時から、実はものすごーく意識して作った。今もなんだけどさ、…この作品のテーマがあったとしたら、それは…決して誰かを否定するわけではないけど、作品作り…「作詞」になったらおしまいだ、って強烈に意識していた。うまいこと書いたり、詩的で文学的な表現したり、みたいな、そういう、テクニックとか知性でやっちゃうと、俺のメッセージっていうか、誰かに言いたいことや主張したいことが…他人をコントロールするような…「説得」や「啓蒙」の類、なんなら感動させよう、熱狂させようみたいな…「ポルノ」みたいになっちゃうし…嘘っぽくなる。

ーへぇ…そんなこと考えてたんだ。…そもそも、…言い方が難しいけど、たとえばそれは、意識的に使うワードのレベルを下げたり、ちょっと言い回しを低俗にしたり、飾らないで率直であることをわざと心がけてる、っていうのは逆に難しかったの?

カワノ いや!レベルを下げたとか、そういう話でもないんだよね。それはやってない。もしレベルが低いと感じるなら、それは俺の歌詞が下手なだけ笑 いい歌詞に対する追求心は常に持ってるつもりだしさ。及んでないだけじゃないかな。で、逆に難しい、っていうか、むしろ難しいんだよ。ある種、自分の理想実現を図ってる、って段階に差し掛かってる訳だからそりゃあむずかしかろう!って。

ーああ、なるほど。俺の言い方が良くなかったね。すまんすまん。

カワノ でもね、…そもそも、「作詞にしない」っていうあえて課してる選択がそもそも、俺の嫌ってるテクニック的な話じゃん。だから、矛盾!って俺も思っちゃう時あるし、悩んでたしね笑 だから、結構ナンセンスな領域の不毛なテーマな気もしてるんだけどさ笑

ーああ、確かに。

カワノ うん。だから、そもそも結構な矛盾を孕んではいる…けどまぁ、「だからなんだよ」ってやったし、今もやってる感じかな。…いや、矛盾でもねぇのか…、ん…?(長考する)

ーははは笑 じゃあ、そもそもさ、なんでその…アンチテクニックな方向に歌詞を作るようになっていったの? この作品を作る前後できっかけがあったわけ?

カワノ …いや、ないんじゃない?笑 …ないと思う、俺が「そーしよっかな」ってなった、に尽きるんでは?

ー笑

カワノ いや、さぁ、人間の変化とか、そういうのにね、いつも劇的な出来事やきっかけ…何かがつきまとうわけではないじゃん、みんな。気がついたら考え方が変わっていったり、人となりの重心が移っていたり…。年とか、環境とか、経験とか、体調とか、ホルモンバランスとか、腸のコンディションとか笑 それに、…なんかあったとしても忘れちゃってるよ笑 だいぶ前のことだし。

ー適当だなぁ。さっき「歌詞の適当さを無くそうとした!」とか豪語してた癖に、いきなりバリバリ適当じゃん!笑

カワノ うるさいねぇ笑 久々にちょっとかっこいいこと言うけど、ロックバンドが責任感なんか持ったら終わりっしょ!笑 ほら、ノエルギャラガーもさ、「ロックバンドに人生を委ねるな!あいつらなんでも投げ出すから」(OASIS/Don’t look back in anger より)って歌ってますしね…。いざとなりゃ投げ出すぜ、俺も笑

ー…それでもそこに意味や理由を求めるのが君じゃないのか?

カワノ あー、あー、ダルい笑 最近いろんなことだるいから笑 そう言うのマジでだるくなってる。…もうここらでふざけとこうかなって笑

ーははは…。

カワノ …まぁ、真面目に言うとね、そうね…強いて言うなら、…当時も語ったことではあるけど、「#3」のね、リリース直前ぐらいにデイジーバーで初めてのワンマンやってさ。…言語化むずいけど、あの、あの場と人たちが持ってきた変化、に尽きるかな。…そのフロアを裏切りたくなかったし、あの人たちをどうにかするのが大事だ、って思った。あの場にはいなくても、…当日これなかった奴らだったり、その当時出会っていなかった未来で出会った人たちだったりも含めて、あの人たちのような人たちのために歌が歌いたいと、当時強く、そう思ったんですよね。

ーうん。

カワノ あんなフロアには滅多に巡り合わない…ってぐらいだったわけよ。それはそれから時間をかけてきた今もそう。…これ以降の人生であんなものが後何回観れるか、わからないけど、でも少なくとも、俺の中の一個、スジではあるね、あそこに義理立てることが。…その義理の通し方があって…もちろん、歌詞や歌の内容はさ、さまざま、歌によって違っていたり、歌詞によって呼びかける言葉も違うけど、ただ、芯の部分はあって、…話散らかってきたな…ユウヘイ(筆者。文字起こし担当)、ファイトーっ!笑

ーははは笑 笑いに逃げるなよ笑 ユウヘイはここにはおらんぞ笑

カワノ 照れちゃってねぇ笑 …まぁ、歌詞の面で言うとその芯の部分と言うもののうちの一つがね…そこに対して歌っていくと決心をして、そこにいる人たちに対して歌うのであれば、さっきからずっと喋ってるように、俺の歌詞は「作詞」ではいけないのよね。…作詞じゃないならなんなんだろう、なんか名前あるか?ってのはないけど笑 …おしゃべり?日記?みたいな。

ーなるほどねぇ。じゃあさ、その、お前が歌っていこう!って言う人たちは、一体どんな人たち?

カワノ まぁそれも人それぞれだから、さ。フロアの人間を一言でまとめるのなんか最悪だよ。別に、めちゃくちゃ元気な奴もいれば、おしゃれで大人っぽい奴もいるし、器用でずるいやつもいる。逆にうつ病のやつとか、金なくてぎりぎりのやつとか、不器用で損するようなやつとか…ひょっとしたら俺のこと嫌いな奴も、逆に俺が好きじゃない奴もね。…何て言うんだろうね、特定の「どんな人」へ、って感じでもないのかなぁ。強いて言えば、そこに、目の前にいさえすれば「どんな人にも」だね。…あれですよ、あれ…。(長考する)…俺がみんなにとってどうありたいか、だわ。うん、これだ!俺がそこにいるみんなにとってどうあるか、歌うか、が大事なんだね、きっと。そう思うようになりました、そうなれるように頑張ります、って話。

ー…ちょっと待ってね、…わかるよ、わかるから…(長考)…わかりやすく言うと、「あの人たちに歌う!」っていう決心がまずあって、その決心に基づいての創作論があり、変化があり、…そしてそこで大事なのは、どんな人に向けて、って言うベクトルの話ではなく、あくまでお前自身がその人たちに向かってどうあるか、どう居続けるか、が大事だし、核心である、と。

カワノ 左様でございます! この時期から考え出したのはそういうこと! いやぁ、まとまったね笑

ーははは笑 では少しだけ話が前進したところで…。

カワノ 笑 いやぁ、行ったり来たり…すんませんね。

ーお前がもう少し器用に話ができればなぁ…。

カワノ いや、無理無理。俺、ライブ感重視だから笑

ーユウヘイがかわいそうだよ笑 …じゃあ、さ、その、お前がどう居続けたいのか、って言うのを聞かしてよ。

カワノ …あぁ、話ずれちゃうかもしれないけどさ、(長考する)…なんて言ったらいいか、今までわかんなかったことを…今思ったんだけどね、俺、ステージ上では、…俺この表現がずっと一番適切だと思ってるんだけど、「天使」でいたいんだよね。

ーでた、カワノの「天使論」。

カワノ ははは笑 でもマジでそうでさ。ステージに立つからには、フロアのすべての人間に対して、いろんなものをもたらさなくちゃいけない。癒しなのか、解放なのか、救いなのか…その求めてるものに全て答えるんだけど…それをするのは「スター」でもなく、「カリスマ」でもなく、「ヒーロー」でもなく、俺の中の世界で一番近いの、「天使」なんだよね。だから、「天使」。

ーわかる気がするよ。ニュアンスが難しいけど、お前がなりたい、果たしたい役割って、圧倒的にすごい何か、じゃなくて、そいつだけの絶対的な味方、なんじゃないか、って俺は思う。

カワノ うん、近い、近い…。で、そうであるために、そうするためには…逆に、力強くて、すごいものにはなっちゃいけない…無力でいたいんだろうね。うん…きっとそうだと思う。何も持たずに、よわっちくて、最後には負けてしまうような…そういうものへの憧れとか、そうでなくちゃ、っていう。

ー負けの美学?

カワノ というか、負けの側にあえて立ち続ける、的な? 「負ける」ていう結果に重きがあるような次元ではなくってですね…。そもそも、負ければ、死ねばなんでも上手くまとまるって話でもないし、…まぁぶっちゃけて言えばさ、CRYAMYなんてそもそも、負けてすらいねぇと思うのよ。恵まれてるさ。だって、ある程度は想像していた夢を叶えてきたと思ってるし…逆に、世話になった友達や先輩を見てもさ、…変な話だけど、望んだような成果をあげられなかった連中だってたくさんいて、さ。その意味では俺たちは…勝ち、とは言わないけど、ただ負けてもいない。

ーうん。

カワノ だから、そう言うのじゃなくって、なんだろう…わかるかな、2パターン、俺の中であって…1つは明らかに巨大で勝ち目のない戦に特攻する、って言うパンクっぽい思考と、もう1つが、…むずいなぁ、他者に何も振りかざさないし自分を守らない…無抵抗な感じ…裸で、傷を負い続ける…鍵が永遠にぶっ壊れて開いてる家、っていう…パンクの逆?…難しいけど、そんなん。それを、それが混在しているのを無力でいたい、って表現してる感じかな。歌詞の話に通じるとすれば、「作詞しない」なんてとてつもなく無力だし。うん…。

ーなるほど。無力である、ってよりは、無力になりにいってる、と。

カワノ うん。いまだにそうだけど、俺は魂の解放とか苦しみからの解脱…ちょっと大袈裟かなぁ笑 まぁ、そういうものに対して、「技術」とか「知性」とか、俺がやっちゃうの最悪だと思ってるんだ。獲得して、持っている力を振りかざして、導いてやってるようで。動物的、本能的であれ、とまではいかないけどさ。少なくとも俺の作品においては、の話ね。…角が立たないように補足しとくけど笑 少なくとも、俺はうまく使えないし、使いたくないからさ、そういうの…。だから、やんない。下手なことをわざわざ好き好んでやる必要ある?勉強も、一輪車も、鉄棒も、知り合いのいない飲み会もさ笑

ーははは笑

カワノ 最高のライブとか、最高のクラブとか、昔のレイヴの映像とか、あそこに映ってる人たち、突き詰めていくと、誰の意思も介在してない。人一人のただの「忘我」の境地で剥き出しで音楽に溺れてるじゃん。俺も好きだけど、ライブハウスでギターの音やリズムが気持ちよかったり、クラブのとにかくバスドラムやベースのローが効いて腹が揺れてるみたいな快感がある本能的な音楽はもちろん、fugaziやrage against the machineみたいな精神性やメッセージが強烈な音楽でもそうで。確かに、何か人の思いを汲む、っていうのはどこかで頭や神経を使う作業だけど、その集中の中でそれを受け取ったらあとは結局そのメッセージや主張に身を委ねたり噛み砕いて、我を忘れるほど没頭するっていう。…ああ、そう言えばさ、そういう状態も、一種の無力だよね。だって、その状態にある人は身を守ることや誰かを攻撃することをしないってことだから。個人で独立しきっている。

ーなるほどね。捉え方、独特だけど、確かに、そもそも何もかもを忘れて没頭するっていう行為が自分だけで完結するもので、他人は登場しないし…誰からも攻撃を受けないからこそたどり着ける…一種の安心だもんな。

カワノ そうそう! 音楽って人を癒したり安心させるものでもあるわけだからさ。だから、果たして…少なくとも歌詞において、自然にそうなるのではなくて、そう仕向けよう、仕組もうってして、見せかけの感じ…作為的に人を誘導したり、一体化させたり感動させたりうなづかせたり、みたいな、そういうことするような要素は排したいな、って。力を使って、…恣意的に誰かを無力にしてしまう…。そうしないためには、俺の側がまず無力にならなくちゃ、って。うん…俺自身、当時も、そして時間を経て今も、まだまだ思考が甘くて浅く表面で捉えてる感じあるんだけどさ。でもそう思ってる。

ー…今の一連の話を踏まえてなんだけど、カワノは結構さ、今の話とかもそうだけど、わざと自分の立ち位置を、ライブなり曲なり、…すごくわかりやすい場で言うとこういうところだったりで、過剰に…明確にすることで、人のことを躊躇なく突っぱねるし、明確に自分の正義に反するものは線引きして拒絶するし、そういうのがあるから浅く捉えると「尖ってる」「喧嘩っ早い」「とっつきにくい」って言われること多いと思うんだけど。

カワノ うん笑 俺すげぇ嫌なんだけどね笑 そう言われたり、思われるの笑 結構俺さ、優しいじゃん?おしゃべりも好きだし、人当たりもすげえいいし、茶目っ気もあるし。

ーまぁ…お前がどれだけ自己弁護をしようが…笑

カワノ ははは笑 冗談ですよ。

ー口も悪いし態度も最悪だし笑 そうとは言い切れない部分が多すぎるし、それはどっちでもいいけど笑 …でもその実は…上手にできているかはさておいて笑 無力っていうか…シンプルに、ある一方の側に傾くっていうのを極端に嫌がってるだけなんだろうね、なんかにはむかってるっていうか。

カワノ うん、何かに食ってかかるとかはしてないつもりだけどね。こう見えて言いたいこと結構我慢してる方だしさ笑 …でも色々はっきりさせたらそりゃあ、対立とまではいかずとも、相容れない人は出てくるし、むしろ増えていくもんでしょうからね。それでいいと思ってますし。

ーうん。で、さ、俺が思うのがさ、お前、シンプルに全体主義が嫌いなんじゃないの?っていう。今の話を踏まえて、その、そう言う感じの自分にも他人にも向ける厳しさは。

カワノ ああ。…全体主義って、例えば、ヒトラーみたいなことでしょ?

ーそうそう。この場合、ヒトラーっていうか、利するための共同体はお前ら…バンドってことになるんだけど。なんか、わかりやすい一体感を拒んでるんじゃなくて、ある一個の絶対的なものにだけ利益とか得が生じるのを許せないんじゃない?カワノは、って俺はたまに感じる時があるね。

カワノ ああ、難しいねぇ。確かに俺は「みんなで一つになろうや!」とか宗教臭くって嫌だし、「俺に賛同しろ!チヤホヤしろ!」的なアイドルとかマッチョ文化みたいな扱いも嫌だし、「手を上げろ!」とか寒いし…悪いけど、「推し」みたいな、あの感じも好かん笑 なんか、人間同士の交流における過程とか面倒くさいあれこれをすっ飛ばした上で成り立ってる感じが嫌なんだよね。…もう、なんか、お互い近道しあってる感じ。煩わしいところをうまくサボってない?そういうの、って。漠然とした言い回しになるけど、互いに美味しい部分だけとって、それをよしとする空気もあるしさ。…話出たからあれだけど、たとえば、ヒトラーの演説なんかは…まぁ俺、チャップリンの映画…「独裁者」か、それでしかよく知らないんだけど…、そう言うものの最たるものの一例だと思うしね。あの人の演説の、自分の都合よく、人間を扇動したり一体化させるためのあの、システマティックな演説テクニック。

ーうんうん。

カワノ こう、信じてもらえないかもだけどねぇ、俺ライブでもここでも話とっ散らかるでしょ? これね、わざと。わざとやってますから。わざとなんですよ、ええ。

ー嘘つけ! 普通に話下手くそなだけだろ!

カワノ 笑 いや、でも半分マジだよ。さっきの作詞の…いったらルールを自分に課してるのと同じでさ、こう、何も言うこととか、具体的に考えないようにしてんの。一切。ステージ上でもギリギリまで悩んでることも、多いし。

ーああ、なるほどね。

カワノ いや、言いたいことはちゃんとあるんだよ、だけど、作文みたいにその文言を考えたくないわけよ。起承転結整えて、人が聞いたら何思うか想像して、って…。もう、さっきの話と同じでね…うまいことやろうってすると途端にダメなわけよね、そういうの。そりゃあ理路整然としてわかりやすく、何もかもがしっかり伝達するのがいいことなのかもしれないし、…少なくとも選挙とか、音楽で言うとさ、感動的で泣かせにきてるMCとか、ね、…否定はしないし、そういうのの演説とは本来そうであるべきだけど…。

ーお前のやってることはそうじゃないし、そうであるべきではない、と。

カワノ そうそう。まぁ、俺が思うに、俺らがやってるのは票や数集めではなくて、その逆…個人間で一対一で向き合うことですから。もっと言えば音楽が主体で、それに付随する形で俺のソウルがある、と。おまけだよ、おまけ。…で、俺の思うに、そういう場で行われる演説のようなものがあるとすれば、俺の演説はそのソウルをいかに深いところまで嘘なく出そうと努力できるか…という。

ー努力。

カワノ そう。努力。努力っていうのが大事。最後の結果はどうあれ、そこにいくまでの時間とか道のりの中では、感情や空気を仕組んだり、操ってはいけないんだよね。そして、結果として一人一人違う感じを抱いてしかるべしだし。だもんで、するべきは、その…あくまでその場ででっちあげる、っていう。…演説っていうか、もっと適当、おしゃべり…会話だよ、会話。交流、対話…その類。人間の面倒なこと。だから、そりゃあ意味不明化してもいいし、ワタワタしてもいいし、むしろして何が悪いんだ、と言う、ね。でもそうなるからこそ本物だと思うし…わけわからんくなってきたからもう終わっていい?

ーはっはっはっ!笑 いや、でもうっすらとはね、伝わってきたから笑

カワノ ああ、もう、それでいいよ笑 何もかも全てわかってもらいたいなんて、音楽も歌詞も言葉も、何事においても思ってないから笑 その、薄く伝わった何かでね、少しでも意味があればいいし…。あと、まぁ、そういう感じでやってるけど、…打率低いけど、たまにすげぇ、フロアと俺がはまる瞬間があってさ、そういう時は嬉しいんだよね、素直に笑 …もう、そういう、偶然の奇跡にかけていきたいと思っている次第であります笑

ーははは笑

カワノ …で、話戻しますけど…なんだっけ?

ー全体主義。

カワノ ああ、そうそう。…あの、ただ、難しいのがねぇ、俺がどれだけそう思っていようが、そうしないようにしようが、絶対その…全体主義っぽい感じっていうのは出るぜ、バンド。もうこれはしょうがないんだなぁって思ってる。もうこれは、言い切ってしまっていい、絶対に無理!

ーまぁたすぐに身も蓋もないことを笑

カワノ いや、でも本当にそうよ。例えば何か苦しみから逃れるためにライブハウスに来てる奴らでも、それぞれどうやって逃れようとしてるのか、違うと思うわけよ。単純にでかい音で踊りたいやつ、イケメンやかわい子ちゃんを見ていやされたいやつ、みんなで盛り上がりたいやつ、アーティストの主義主張を受け取って糧にするやつ…って。俺も日によってもアーティストによっても楽しみ方違うし。でも、演者…私といたしましてはね、どんな人でも自分の音楽が好きならそこにはラブで返したいし。でも…そうなってくると、それぞれにチューニングが合うっていうのは、曲ごとであったり演奏ごとであったり、努力して瞬間瞬間ではできるだろうけど全員一斉に合致することは無理でさ。となると、その、確実に無理な瞬間では、ある人とはその、交流って側面ではインスタントにならざるを得ないから…ライトな方に陥ってる。逆も然りで…逆パターンの言い回しむずいな、なんていえばいいんだろう?

ーああ、結局、それぞれに合わせるというか、お前がそれぞれと「合ってしまう」っていうことが、瞬間瞬間での全ての人との交流がうまくいってないことに近くって…それによってある意味もうすでに全体主義である、と?

カワノ あー、そうそう…うん…まぁ、そういうことなのかなぁ。…結局、無意識のうちにステージで、自分に容易に利する瞬間が作れてしまうのが良くないんだよな、っていうさ…。…すごい難しい話だからわかんなくなっちゃってるけど笑 少なくとも言えるのは、広く何もかもを扱った時、俺もいろんなものに対して嫌悪感や不正義を感じるけど、自分に当てはめたときに完璧な人間ではないな、ってこと。だから、努力してるよ。

ー…気づけば難しい話になっちゃってたね、すまんすまん。

カワノ いっつもこんな話してるしね笑 まぁ、ここまでの話を浅くライトに簡潔にまとめてさ、乱暴に結論出すなら、卑しい手段で自分の気持ちを伝えたくなかったし、虚飾なく率直に人と交流がしたかった…さらに踏み込めば、…全体主義とはまた違うけど、オーディエンスと演者の関係が…ロックとかパンクなんて、ペテンのシノギだ、っていうのも実際そうだし。騙すことで人の背中を押す、熱狂させる、っていう。でもね、間違ってはないけど、そのペテンが美しければ美しいほどいいから…うん…歌詞ねぇ、難しいけど、それを目指したって感じ。だからしんどかった。俺は結構、質や多様性はもちろん担保した上で、少なくとも曲を産む「量」や作業の「スピード」とか、そういうものに関しては俺はマジで天才だと思うし、曲を作るのに苦労したことないけど、作詞は、少なくとも作品レベルに持っていく気がないし、それ以前に俺は超凡人だからね…、楽じゃなかったね笑

ーははは笑 …面倒臭い話たくさんしたけど、色々わかったことも多かったよ。こういうの、知れるだけでも単純に嬉しい人いると思うし。

カワノ いやぁ、でも、別に知られなくてもいいんだよ笑 まずこんな長い文章読んでるやつなんてマジでごく一部だと思うし、音楽やってるやつのキャラや主張、内面なんて、はっきり言って大勢や大局においてはどうでもいいんだからさ。いい意味で期待してないの、その辺は。大事なのは、もっと単純な話で、曲で何を感じるか、ライブでどう感じるか、っすよ。…まぁ、強いて俺がこういうのを通じて望んでるとしたら、もうちょっと限定的な人たちへの…そうだね、ある人が俺たちとより深い交流を望んだ時のアンサーになればいいかな、って。こういうのは。…歌詞の話長くなっちゃったね笑 はい、どんどん次行こう!

3.「#3」制作当時のエピソード

ーお前が仕切るなよ笑 …バンドの演奏とか、アレンジとか、その辺りの思い出は?

カワノ うーん、その辺りもすでに朧げな記憶だけど、逆にいうと、この時期の制作ぐらいからかな…俺たちの空気やノリが、今のスタジオやライブ、練習の空気にちかくなっていったんじゃないかな。ある意味転換期、っていうか。だからこそ印象薄いっていうか。スタジオで俺が怒号を飛ばしまくったり途中で出ていったり、緊張感も日に日に増して行って、だんだんとメンバーとの関係が「友達」じゃなくなっていったのが「#3」製作中からかも。…まぁ元々そんなに仲良くなかったけどね笑 レイとも…大体壮絶にやりあう時って俺とレイなんだけど、ギターアレンジで揉めて、やった記憶がある。

ーへぇ。すげぇな、なんか初期って感じだ笑

カワノ 当時はなんとなく、俺もそうだし、周りも含めだけど、バンドやる以上一心同体!みたいな、そういう考えではあったのかもね。互いに無理に同じ方向を向こう、向かせようとして、挫折して、失敗して、開き直ったのか…不貞腐れたのか、ねぇ笑 でも、やっぱり四人それぞれ考えも向いてる方向も違うし…そこを統一するとさ、それこそさっきの話じゃねぇけどさ、作曲者のための…俺のための全体主義になるから。…今はね、俺たちは一個の肉体なんだ、って思ってるよ、うん。生物の肉体って、筋肉も内臓も脳みそも、それぞれ役割も動きも違うけど、摩訶不思議なバランスで人間って生きてるし。うん、そんな感じ。

ーなるほどねぇ。具体的には、レイくんとは何で揉めたの?

カワノ いやぁ、それがあんまり覚えてなくて笑 なんだったかなぁ…ギターアレンジで意見が食い違ったのは確かなんだけどさ…「そのフレーズダサいからやめて」とか、「そのエフェクト踏むなよ!」とか、言ったのかも。でもたまにあるんだよね。年に一回ぐらい。リズム隊二人は怒鳴られると不服そうに黙ってることが多いけど、彼は結構ガンガンやりあう笑

ーうわぁ、なんか、想像に難くないのがなぁ。お前、言い方きついんだよ。マジで態度と口が悪い。

カワノ いや、俺もさ、言いすぎたなぁって毎回反省するけど笑 だし、不思議なのが、それぐらいの感じだけど、俺がたまにヤケクソに走ったり、「もういいわ、はいはい!終了終了!」みたいな笑 そういう破滅的になった時に「お前、それは違うぞ」「一生後悔するぞ」って止めてくるのもレイなんだよね。俺を沈めたり、暴走を諌めるというか。

ーへぇ、意外。

カワノ 彼は結構周りに気を使うタイプだからね。バンドのメンバーの中間管理職っぽい感じ笑 だからストレス溜まってある瞬間に爆発する笑 多分バンドメンバーで脱退したり、失踪したり、やめたり、誰が一番早く死ぬか、ってなったら俺かあいつじゃない?

ー笑

カワノ まぁ、そういう感じで、色々ありながら紆余曲折を経て完成させたよ。確かに、当時の技術や知識の不足とかもあって、演奏は甘いし、アレンジも今思うと拙かったり騙し騙しでやってる感じはあるけど、うん…みんなよく頑張りました!って思うな。

ーそっか。俺は演奏の巧拙、って言うのはよくわからないから、単純に「いい曲だなぁ」って聴いちゃうんだけどね。

カワノ ああ、聴いてくれる人はそれでいいと思うし、素直に嬉しいですよ。演奏の上手い下手って、すごく重要だけど、すごく表面的にはわかりにくいものでもあるしさ。努力目標として、俺らの中には基準がシビアにはあるけど、まぁ…曲がよかったらいいんじゃない?ってね。それに、CDの作品って、あくまでその当時の記録、って意味合いも強いしさ。あくまで、当時鳴らされていた音の再現になれば、って。それに、演奏も年々、上手くなっていってるよ。…まあ、最初が酷すぎたから伸び代が人よりあったのはあるけどね笑

ーなるほどね笑 …この六曲の中で気に入ってる曲はあるの?強いて挙げるなら。

カワノ あー、俺は「easily」かな。昔たくさんやってた分、最近のライブではやんなくなっちゃったけど。なんか、アレンジやクオリティ、歌詞に納得!ってよりは、あれ確か、5分ぐらいで歌詞書き終えて、曲も二時間ぐらいでツルッとできたから、そういう意味で好き笑 俺を苦しめなかったから、あいつは笑

ー笑

カワノ いや、でも音楽的にもね、あれは俺らの曲の中でも数少ない、アコギ一本で成立する曲だと思ってんのよ。フォークっぽいメロディでさ。

ーへぇ、俺はお前の曲、全体的に歌だけでも聴けるぐらい強度が高いと覆ってるんだけど、本人的にはそんなことないんだ。

カワノ うん。あんまり歌を主軸に作ってるつもりは…昔の曲は特に、ないしね。結果的に他の三人のうち誰かが歌に寄り添ったアレンジをしてそういう完成系になった、って場合の曲もあるけど。だから、うん…結果論でどうなったか、ってよりは、俺が曲を作り出した原風景でどう思ってるか、ってのが大事なのかも。アコギで歌ってもストレス感じない、的な。

ーなるほどね。

カワノ まぁはっきり言ってあの曲、ピクシーズだよね笑 ベースのルート弾きで始まって笑

ー笑

カワノ ピクシーズで明るいパワーポップをやる、みたいな笑 うん、でも俺は「easily」かなぁ。変に俺の情念とか主張が強すぎない感じも、ストレスなく聴けるし歌える。

ーなるほどね笑

カワノ …ああ、あと、演奏的な意味で言うと、「プラネタリウム」も早かったな。スタジオで合わせて一回で演奏かたまった記憶がある。たかしこのベース以外。そこだけあいつが家で詰めてきたのかな、でも時間かけなかったイメージがあるよ。

ー意外だな。3拍子の曲ってあれが初めてだよね?難しそうだけど。

カワノ うん。ってかあれ以降ないし。「世界」をパンクオペラにしよう!ってなって、3拍子のパートを突っ込んだんだけど、そことリンクさせたくて、ね。あの歌詞はエイトビートでストレートに行きすぎるとよくなかったんだけど、3拍のリズムだったら…俺のイメージだけど、ちょっと言葉の距離が取れて…言葉の押し付けがましさがでないし、メロディつけてみたら、なんかちょっと可愛かったからさ笑 うまくまとまった感じあるなぁ。

ーあれが一番ポップだけどね、アルバムの中で。

カワノ ラストナンバーにしてはちとパンチにかけるな、って思うけどね笑 今の俺だったら最後に重いビートの曲ぶち込みたくなるけど笑 でもあの軽さがいいのかもね。頭でっかちなアルバムだからさ、「#3」は。

ーそうだね。それと、「#3」の曲はいまだにライブでもやってる曲が多いから、これがきっかけに聴き始める人がいるなら、ひとまずライブに足を運んでみてほしいなぁ、って俺は思うかな。

カワノ そうかもね。なんのかんの三枚目だけど、サウンドもアレンジ的にはシンプルすぎず、かといって過剰に変化球を投げている訳でもないから、ある意味一番王道だし、それもあってこのアルバムの曲はライブでは頻繁にやってるのかも。歌詞の意味でも、このアルバムは結構、別のどのアルバムの曲にもリンクする歌詞が揃ってるし。

ーうん。…後、なんかね、サブスクをやってないお前らの活動方針ならではだと思うんだけど、どのアルバムからお前らを聴き始めたか、でCRYAMYの印象、人それぞれバラバラなんじゃないかなって俺は思うんだよね。

カワノ というと?

ー大体その時の最新のアルバムを買うわけじゃん、新しく君達を聴き始めた人って。サブスクで一発当たってる、よく回ってる曲をまず聴きます!とかじゃなくて。

カワノ ああ、なるほど。はいはい。

ーまぁ、例えばさ、「YOUR SONG」から入った人たちからしたら「#3」はすごく直線的で王道に映るだろうし、「#4」から入った人たちはもっとお前らに比較的ポップな印象を抱いてる人が多いだろうから、「#3」は曲の尺が長くてコンパクトなポップソングが少ないなぁって思うかもしれない、とかさ。

カワノ ああ、そうかもねぇ。人によってはすんなり聴けないものもあったり、逆に遡ってハマるものもある。

ーうん。良くも悪くも一定の印象がない。みんなそれぞれのCRYAMY像があると思う。で、その中でも、どのアルバムにも通じる、今でも核にあるものが反映されてる6曲なんじゃないかな、って。「#3」は。

カワノ 俺としちゃあ少し複雑だけどな笑 やっぱりこう…繰り返しになるけどさ、これは当時の全力ではあったけど、今聞き返すと「カァーッ!惜しいぜ…」みたいな笑 こう、忸怩たる思いありますよ笑 10代の頃のさ、えぐい剃り込みと腰パンの自分の写真見た時のあの気持ちだよね。…違うか。

ーまぁ、なんとなく言わんとしてることは伝わるけど笑

カワノ 後、そうね、こういうのかも。昔の写真見せて、彼女に「可愛い〜!」って言われて絶妙に屈辱的な気持ちになる、あれよ、うん笑

ーわかったわかった笑

カワノ 笑 でも不思議なもんで、やっぱいまだに「#3が一番好きです!」ってお客さんも多かったりするんだよね。

ーそうなんだ。

カワノ うん。だからその…あの当時、すごく苦しかったけど、これを作ったことでつながっていられている人間も多くいるし、そういう意味では作った意味があったと思うし…何より、そうなったのはきっと、俺自身の念が目に見えるレベルで深く残せたからこそなのかな、って。そういう意味だと、作家としての俺は冥利に尽きると言いますか、ね。

ーそっか。

カワノ だからこそいまだに演奏してライブで育てていって、ブラッシュアップを重ねて、最新の曲たちとも並び立てるように、鍛えていってるとこもあるしね。うん…まぁ、決して過去が美化されるわけではないがね笑 今を更新するしかない。


4.雑談、そして、このタイミングでレコードを出す意味や今後のCRYAMYの音楽

ー…喋ったら体調戻ってきた?

カワノ うん笑 やっぱ頭回し出すとシャキッとするね。

ーははは笑 …まぁ頭も冴えてきたところで休憩するか。まだ30分ぐらいしか経ってないし、この調子で喋ってても疲れるだろ。

カワノ そうねぇ。…最近どう?

ー俺に聞くのかよ! どっちかといえば俺がお前に聞く方だろ! …で、そういうお前はどうなの?

カワノ いやぁ、地味に多忙だね。レコードやら曲作りやら何やら、毎週細かくライブや制作が入ってきてる。でも最近体力が落ちてきてる気がするから…徹夜とかはやめて、しっかり寝るようにしてるよ。無理矢理でも。最近、ジジイみたいになってきてさ…ほら、今日もコーヒー、ホットでしょ? 温かいものがいいのよね、僕。

ーははは笑 まだ早いけどなぁ…。本とか最近読んでる?

カワノ いや、活字は体力使うから最近はめっきり…。積んでるやつは、色々片付いたら一気に読もうかな、って感じ。いつになるやらですが…。漫画とかも読んでないなぁ。…映画は見てる、休憩がてらに。「Laundry」よかった…。後は「SILENCE」。実は、すごく影響受けてるんだ、俺。遠藤周作。

ー二つとも窪塚洋介出てるじゃん笑

カワノ 笑 …ああ、そうそう、レコードつながりでね、自分のも出すし、って、最近ようやく家でレコード聞けるようにしたんだよ。いやぁ、数年ぶりだよ、家にプレイヤーあるの。

ーあ、そうなんだ! いつもは店(カワノらの友人がやっている飲み屋)で聴くだけって言ってたけど、ついにか。

カワノ そうなのよね。だからこの、「パブロハニー」もありがたく、きかせていただきますよ笑

ーそれはよかったよ笑

カワノ それもあるから、最近家で色々聴いてるなぁ。でも、久々に家でレコード聞くなんて、結構贅沢な感じするよ。内容どうこうって言うより、もう、「聴く」という行為がね笑 レコードって、スマホにデータ落として再生ボタン押して、って感じでもなくさ、自分で円盤出して、針落として、頭からずーっと聴いて、さ。こう、すごい久々だからなのか童心に帰らされる笑

ージジイだなぁ笑

カワノ うふふ笑 ありきたりなこと言うみたいだけど、いいよねぇ。…なんか、音楽ってもちろん中身は大事なんだけどさ、こういう、聴き方でもすごくこう、想起させられる感覚って全然違うからさ…。すげぇこう、そう言う意味でも俺にとってはいいリースになったなぁって…。…ビビるぐらいめっちゃ普通のこと言ってるけど大丈夫?

ーたまにはいいんじゃない? いっつも小難しいこと捏ねてるんだしさ笑

カワノ じゃあいいや笑

ーでも最近は色々便利になって、俺も出先とかだとスマホで音楽聞いちゃうことが多いな。実際、昔よりこだわらなくなってきたかもしれない。

カワノ ああ、それは確かにそうだ。俺も、家で聴くときはともかく、外だとスマホでぱぱっと選んで済ませちゃうこと多いな。…なんなら家でCD聴く時もさ、プレステ2でテレビで笑 怒られそうだな笑

ー笑 自分のバンドは色々こだわって作ってるくせに…。

カワノ そこに関してはあんまりそこをサボりたくないんだよね。サボるっていうか、無意味に作業したくなくってさ…。ある部分で、そこは適当です!ってなんか嫌じゃないですか。いくらストレートな曲だって、考えればいくらでもやることが見えてくるものだし。それでも及ばず、リリースのたびに反省するし。誰かの手元に届いたら好きに聴けばいいけど、作り手側はなるべく納得したクオリティまで俺たちは近づけて、聴く側が少しでも感動してくれれば…ってね。まぁ当たり前に、作る側はみんなやってるんだけどさ。で、聴く側はプレイステーションにCD突っ込んで聴くもよし…そこは適当でいいのよ笑

ー音質って部分だとそれぞれの作り手で違ったこだわりがみんなあるよなぁ。ビートルズとか、やっぱり今聴いても…。

カワノ すごい。ものすごくこだわってる。俺がやってることなんて全然、序の口なんだな、って。ポップな曲もあるけど、実験的なこともやってるし…かっこいいよね。

ー…こだわり、っていうと、カワノはやっぱり、フィジカル…音源をもので出すことにこれまでずっとこだわってきてるじゃん。それこそ結成当初からずっと。

カワノ そうですね。

ー色々理由があるのは知ってるけど、今回はCDじゃなくってレコードっていう、また別の形に残る形態でのリリースになるけど、レコードっていうフォーマットで出すのは正直意外だったんだよね。

カワノ まぁそうだよね。俺も、いずれは、って思ってたけど、意外と早かったな、って思ったし。後…俺のイメージ、レコードで音源を出すバンド、って感じでもないかなっていうのは、自分で思ってた。

ーへぇ、なんで?

カワノ 日本に限定した話かもしれないけど、最近のレコードブームで取り沙汰される音楽って、シティポップとか、そう言うおしゃれな…乱暴に括ったら暖かくてふわふわした音楽…って言うイメージがあったんだよね。レコードの温かい音質も相まって、なのかもしれないけど。で、俺たちは…そんなこともないじゃん。

ーまぁね。

カワノ うん。俺たち以外にもたとえば…そうね、じゃあ、ドオルタナとか、メロコアとか、バキバキのスクリーモみたいなバンドとかもね、正直レコードで聴くって言うイメージはない。…俺だけかもしれないけどね。まぁそれは、なんか、そのジャンルや世代のバンドを聴くときに俺がCDを行く使ってたから、って言うのもあるんだけどさ。

ーなるほど。自分の価値観と照らし合わせた時にCRYAMYはレコード的なバンドじゃないんじゃない?って思ったってことね。

カワノ そうそう。…え、そう言う意味で意外って思ったのかな、って感じてたんだけど、違う?

ーいや、俺はむしろCRYAMYのレコードもありだと思ってるよ。お前ら、お前が思ってるほど現代的じゃないから笑 ちょっと前時代的な、オーセンティックな音楽やってるよ、実は。だし、まぁシンプルにさ、好きなバンドって、CDでも聴くけど、レコードが出たらかっちゃうじゃん。お前もニルヴァーナのシングル買ってたり、俺も毛皮のマリーズのアナログは当時、限定で発売された時に買ったんだよね。うん、そんな感じ、だから、「バンドがレコードっぽくないなぁ」とかはなかったわ。

カワノ あら、そっか、失礼しました笑

ー俺が意外だったのは、どっちかっていうと、CDっていうフォーマットへの強いこだわりがあるのかな、って感じてたから、だったんだよね。「あっ、CD以外の方法でも出すんだ!」っていうさ。そう言う以外さ。

カワノ なぁるほどね〜。…いや、でもね、こう、微妙な違いだけどさ、「CDのみ」って形に強く固執してるわけではないんだよね。あくまで「モノでだす」っていう、そこには意義や理由っていうか、そういうのはあるけど…別に「CDでしか音源出しません!」みたいな感じではないね、うん…乱暴に言い切ってしまえば、モノとして存在してればいい、かな。それぞれ、フィジカルのCDもレコードも、カセットも、もしかしたらこれから未来的なフォーマット出てくるかもしれないけど、ものとして存在するものだったら、それぞれ良さや特徴があるし。

ーなるほど。

カワノ CDで出してきたのもさ、一枚目…一番最初に「#2」を作った頃って、俺、サブスクというものがあること自体知らなかったし、世の中的にも多分今ほど生活に関わるレベルで普及してなかったと思うんだけど…、ミュージックFMとか、違法視聴がすげぇ問題になってたぐらいだったからね。…で、当時、音楽を聴く手段として一番ポピュラーで王道で、みんなやってる誰にでも手軽な手段がCDだったんだよね。楽曲を作る上でも、レコードほど音響的な側面で制約もないし。

ーあぁ、確かに! ミュージックFM、懐かしいなぁ笑 最近見たり聴いたりしないけど、今はもうみんな、大体どの曲もサブスクで出ちゃうから廃れたんだろうね。

カワノ か、我々がおじさんになっただけで、若い子はまた新たな別のアプリを使ってるか、ね笑 後、プレスして実物を作るコストも単純に全然、レコードよりも安いし。まぁ、当時はよく考えずに、「CD出すっしょ!」ぐらいの感じだったけどね笑 けど、今となっては…制作する側の、だけど、たとえば、CDの音響的利点とかも分かってたりするしさ。ある意味俺たちの制作において考えること…音響、コスト、人に渡る時のあれこれ…そういうことの基準にはなってるかな。CDリリースって形が。

ーふーん。…これ、意地悪な質問だけどさ、仮にお前が5年遅く生まれてたら、多分同世代のバンドは、お前の言うその王道な手段っていうのがCDじゃなくてサブスク、っていうのが普通になってたと思うんだよね。もし5年遅く生まれてたら…ぶっちゃけサブスクやってた?

カワノ あぁ〜こいつは難しいねぇ! 「いや!フィジカルだけっす!」ってやってると思う、っていうのも、言い切れないかもね。…だって、その、俺のいうフィジカルの良さ、モノで音源を持つこだわり、っていう価値観もさ、自分で見出した、っていうよりも、周りにいた音楽好きな人たち…たとえば先輩がCDかしてくれたり、オーディオオタクが友達にいたり、彼女が部屋にレコード飾ってたり、親父がレコード大量に持ってたり、とかそう言うのが形成した物だからね。それに時代的にも、違法視聴とか、問題になってたけど、CD買うのってまだ当たり前だったから。結局環境とか大きな流行には左右されてんのよね、なんだかんだと。

ーうん。

カワノ だから生まれる時代がずれてたら、周りがサブスクで音楽を聴くことが当たり前の感じだったら、別に突っ張ってないでやってたんじゃない?すんなりと。逆におっさん連中に話聞くとさ、「CDが出た当時はあのキラキラ光るのが未来っぽくてアガったんだよね〜」とか言ってたし笑 「光るのなんか当たり前だろ!」って俺らはなるんだけどさ笑 そもそも、周りに音楽好きな人いなかったら、俺は多分湘南乃風とかGReeeeNばっか聴いてたと思うしな笑 まぁ、そんなもんだと思うよ。それぞれ、世代とか、環境とか、いろんな要因があって、その上でそれぞれやり方や美学がある、と。だから答えは…どちらとも言えない、かな笑 半端で悪いけどさ。

ーよくわかりました笑 あえて意地悪しようと思って聞いたし、挑発に乗って意地悪なこと言うかと思ってたんだけど、その辺はお前、やっぱりフラットに捉えてるのね。

カワノ うん、あくまで俺が好きにやらしてもらうぜ、ってやってること、こだわってるところがそこ、ってだけで。…説明や理由求められて、いちいち面倒臭い時もあるんだけどね笑 だから最近は「いや、やってない方がハードコアっぽくてカッコ良くない?」って言ってる笑 そしたら「あ、そうなんだ…」って…。

ー雑だなぁ笑

カワノ でも最近は、色々…音楽の聴かれ方、っていうのかな、そういうの、考えるねぇ。…ここ数年で音楽のメインストリームはサブスクに急激に移って行った訳だけど…今年入ってからかな、バンドマンとかレコード会社の人とはまた違うんだけどさ、音楽系の…スピーカーとか光学ドライブ(CDやDVDを再生する機器)とか、そういうの作ってる人たちと会話する機会があったんだけど…近いうちにCDやDVDを再生する機械がそもそも、なくなるかもしれねぇ、って言ってたんだよね。

ーえっ! そうなの!

カワノ こればっかりは俺らにはどうにもできんところだからさ、俺も「マジかよ!」って笑 そもそもさ、最近のパソコン、確かにCDドライブもう内蔵してないんだよね。

ー確かに…全部外付けだねぇ。俺のもついてないや。…俺、マックなんだけど、アップルだからついてないのかなぁ、とか呑気に考えてたんだけど笑

カワノ ははは笑 俺、使ってるパソコン古いから、知らなくってさ笑 で、車にも、もう最近のやつにはついてない、って。車も乗らないもんだからそれも知らなかったんだけど…すごいことになってるな、って。

ー車はねぇ、俺のも実はないんだよね。だから車ではサブスクからBluetoothで全部流しちゃってるよ。だからCRYAMYが車でかかることはないし…かけても…ねぇ。

カワノ ははは笑 前さ、有線で俺らの曲が流れてさ…。

ー「こんな辛気臭い曲、酒が不味くなる!流すな!」ってお前の友達、居酒屋で怒ってたもんね笑

カワノ マジでひどいよな笑 笑っちゃったけど笑 …でさぁ、極め付けは、CDをプレスする機械、あるんだけど…いつも使ってる工場の人が言ってたらしいんだけどね、もう、その、プレス機、今新しく生産されてないんだってさ。

ーああ、そこももうやばいことになってるんだ。

カワノ だから、CDプレスも、その機械完全にぶっ壊れたら終わり笑 …怖いよね。シンプルに作る数や人も減ってるみたいだしねぇ。

ーなんというか…マジで急激に変わっていってるんだな…。…なんかやだなぁ、どんどんいろんなものが置き換わっていくのを見るの…。

カワノ ちょっと俺も嫌だけどさ…日を置いて冷静に考えてみたら、まぁ、俺らが知らないだけで消えていったものってきっとたくさんあるし、仕方ないのかなぁ、ってのも思うんだよね…。

ーあぁ、でも、そうか。MDとか、8cmシングルとか、昔はあったけど気がつかないうちにないことになってたものって多いしなぁ。

カワノ 8cmシングル懐かしいな笑 俺、四歳の時、買ってもらったなぁ、仮面ライダークウガのオープニングテーマ笑 あれ、確か8cmシングルだった。…今も持ってるんだよね、ブルーハーツの古いシングル。カードリッジ入れないと聴けないやつね笑

ーそうそう笑 まぁ俺もリアルタイムではない…MDがギリギリかな。だから、まぁ、そういう風に音楽の聞かれ方も変わっていくんだろうね。本当に面倒な時代に始めちゃったな、バンド…笑

カワノ そりゃあまあ、しょうがないでしょうな。だって、逆を言えばリバイバルブーム…それこそレコードブームとかも、そもそも俺知らんかったし、そんなのやってくるとも思わなかったからさ笑 だから逆に、CDブームとか…来ないだろうな笑

ー笑

カワノ まぁ、CDって身もふたもないこと言うと、制約や制限がない分、データだからね。アナログと、いわゆるCDみたいなデータとしての音源との絶対的な差だよな。もちろん、物として面白いし、価値はあるけど…データで済んじゃうならそれこそネットでもいいじゃん、ってなってくるのも仕方ないのかな、って思うし…。

ーただ聴くことを目的とするなら、重視はされてないのかもな。

カワノ うん。…でもまぁ、本来音楽だから、聴くこと、聴かれることに本質的な意味があるもんだからね。別にそれは、ある一面では間違ってない意見だとも思うからさ。悪いことだとは思わないけどね。手段の違いってだけで。

ーそういう時代というか、音楽の聴かれ方の移り変わりはやっぱり、考える?

カワノ うん。俺たち、結構保守的なやつだと思われてるだろうしさ、振る舞いとかもこんな感じだから、何にも気にしてないようで、実は色々考えてるよ。

ーそっか。

カワノ 例えば、CDだけでずっとリリースしてると、シンプルに昔から、やっぱ言われるわけよ。「サブスクやらないの?」とか「やったほうがいいよ」とか。けど、色々理由があってやらずにここまできてさ。「面倒だなぁ説明」とか思うこともあるから色々はぐらかしてきてるけど笑 まぁでも、周りの人たちからしたら、理由とか俺のこだわりとか、そんなもんは知ったこっちゃないだろうし、俺は俺で押し付ける気もないからそれもよしとしてきたけど…どうなんだろう、ちょっとあり得そうで怖いんだけど笑 世の中的に、例えばね、数年後、「CDはもう再生できません!」的な、そういう事態に直面したら、普通に困るね笑

ー笑 それはもう、お前ら、終わりだからね笑

カワノ ねぇ笑 でもあり得ない話じゃないでしょ。そういう場合は流石に考えなくちゃ…とか、ね。だからそこは、のほほんと構えてるように見えるかもしれないけど、都度都度、もし何かが起こった時にすぐ動けるように、先のことを想像して、しっかり考えていかなくちゃね、って思ってるよ。…1番に悲しむのはきっとお客さんですから。急に聴けなくなっちゃった時に。

ーそうだね。それは音楽作る人だから…やはり一番に考えててほしい。俺も、お前の友達もさ、いろんな商売やってるけど、…まぁお前はちょっと違うけどさ、でも、広い意味で捉えるとみんな客商売じゃん。相手がいてこそ、っていうか。そこに対する気持ちは…やっぱ大事にしないとなぁ、って俺も思いました笑

カワノ なんで俺が説教垂れたみたいになってんだよ笑

ーははは笑 でも、そういう気持ちを忘れなければきっと何が起こっても大丈夫だよ。

カワノ うん。でも、ずっと言ってきた話だけど、便利なものはそれはそれとして素晴らしいけど、モノとして音楽が残る、っていうこともまた素晴らしいことだから。だからそこはずっと、どんなことになったとしても大事にしたいかな。だから、今回LPをリリースできるのも、最近のレコードブームで音楽を保有するっていう楽しみ方が開かれてきてることを考えると、そこにはちゃんと俺たちみたいな奴らの活路があるし、素直に仲間入りを果たしてリリースできることが嬉しい、って思う。…興味も湧いてるしね、もし俺たちがCDではなくてレコードを主体に据えた制作をやったらどうなるかな?とかさ。

ーへぇ!面白そうじゃん。

カワノ 変な話だけど、「#4」以降さ、これまでみたいにただデカくてジャンクな方向で攻めるんじゃなくて、めちゃくちゃ音のいい音源作ってやろう!みたいなマインドにもなってきてるし笑

ーようやくね笑

カワノ そう、ようやく笑 うん…だから、今作限り、とかじゃなくって、レコードっていうものはこれからも作っていこうと思ってる。俺たちのもう一個の道として、って意味でも、新しい体験をする、って意味でも、音楽的に向上する、って意味でも、ね。

…後編へ続く。



INFORMATION

CRYAMY 1st LP 「#3」 NPE-009 (12inch/3,000円)
収録曲
A1.世界
A2.sonic pop
A3.easily
B1.正常位
B2.月面旅行
B3.プラネタリウム


1st LP Release party at Shinjuku LOFT
チケット受付:オフィシャル2次先行 1/16(水)20:00 〜 11/20(日)23:59
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2238947


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?