備忘録 の 1


そう遠くないところからかぜに乗って聞いた話を。


「ゆみ(仮名)がチョコザップを始めたらしいよ」

ーそうか、痩せたいとか、そういう系?


「いや、るみ(仮名)ちゃんの彼氏と戦うらしい」


ーつまり、格闘技ってこと?体格に差がありすぎじゃない?

「いや、格闘技とかじゃないんだけど、ひとまず体重を揃えるために75kgになるらしい。」

ーへ?

「そうして、シャトルランで戦うらしいよ。」



東大の学費が上がるらしい。立て看が立ったりとー日本にしてはー騒々しい。

そうすると安田講堂の前にテントが建てられたらしい。特に用があったわけではないので、詳しくは知らなかった。

「散歩しに行こう」

少し飽きが来て、気分を変えようと東大のキャンパスに来た。家から数分だからいつでも来ることができる。

正門っぽい門を、自転車を降りて入ると、その目の前が安田講堂だ。夏の銀杏が仰々しい葉を連ねて、その道の闇を深くしている。

安田講堂の横のローソンにいきたかったので、そこを抜けると街灯で少し明るい安田講堂の前の芝生についた。

ああ、あれが例のテントか。

テントは横長で、横は180cmほど、縦はおそらく50cmほどしかない。その正面にはハンスト実施中と書かれていた。ハンストといえば、パンクハーストとかを思い出しながら。競艇馬との衝突を試みた女性の姿も脳裏に掠めた。

そうして、ふと、その姿は僕らの世代の安保闘争なんだと思った。実は昔も学費をめぐって戦ったらしい。しかし、その姿はー比べることはできないとしてもー少し物寂しげだった。

これが僕らの安保闘争か

そう思ったと同時に、そのテントの裏で仰向けに寝転がった男性の上に足をそろえて座る女性がいた。アクティビストたちだろう。

これが俺たちの東京ラブストーリーか。

考えを改めて、ローソンへと安田講堂の坂を降りた。

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買い物を終えると、その前をもう一回通るかどうか、っていうことになった。やはりそのあとが見てみたいということになって、横を通った。

男性の方は、平衡感覚が失われたトンボのように円を描きまわっていた。そして女性はそれを中心から眺めていた。



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