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今日はニットの日

リリアン:リリアンの妖精

その他すべて妖精

写真:ピアスさん

シュンメルブッシュさん、亡くなられたんです。ミール管理室のリーダーから聞きました。なんでも外に行けると騙されたとか。そんなにボケていたんだとは思いもしませんでした。シュンメルさんは緊急避難施設者と聞いていますので、だいぶお年ですね。

お年寄りの方は生きているモノの姿と合成されて送られてくる3D映像の違いが分からなかったのかもしれません。お気の毒です。とは言え、私も体を動かして働いていた記憶がありますから、かなりの年齢ですけど。

シュンメルさん、時々、ミール部品の乾燥を忘れて帰ってしまうことはありました。
その辺はお互い様なんで気が付いたときは私が乾燥させていました。でも、自分の体を動かしている時代とは違って、機械を操っているので無駄な動きがすぐに関連部署にまで伝わってしまいます。

それで機械管理者の方からこれはどう言うことですかと聞かれたりします。
私はそのお蔭でミール部品洗浄から人体管理の方に移動になったからシュンメルさんには感謝しないといけません。彼女のミスをカバーしたことが認められたのですから、晴れての栄転です。

ミール部品の洗浄は一日三交代の重労働。いくら体を動かさないと言ったって機械に意識を集中させて動かすのは神経を使いますし、力仕事に意識を集中すると筋肉痛にもなります。動作は単調なので意識の途切れることもありました。それに私ら、肝心の機械に問題があっても理屈も何も分からないのでさぼっているなんて、言われるトラブルもありました。

機械との相性みたいなこともあるんですかね、そんなことが続いて目を付けられちゃうモノもいました。前時代と変わらず、運のないモノは運がないのかもしれません。しかもこの時代はだれが見ているのか分からないのですから怖い世の中です。

その点、生体管理装置の清掃はここだけの話、楽です。装置といってもモノの命に関する管理だから間違いがあっては大変です。なので、チェックは多いし、意識が途切れたりしないように休憩時間も多く、何より、三交代ではなく日勤なので体が楽です。

それにまだ対象者も少ないので水槽の?エッと、正式には違う言い方があると思いますけれど、私たちは水槽と呼んでいます。の、掃除も一日に1個か2個くらい。しかも私は新人なので、生体交換用じゃなくって、亡くなられた方の水槽清掃です。

生死に関係しないのでこのままずっと亡くなられた方の水槽専門でいたいです。考えが甘いでしょうけど…生体用の水槽は厳重に管理されていてめったに見られません。私も一度見ただけです。

水槽の中でモノは生きていると聞いてますけど、その水槽は両手で抱えられるくらいの大きさなので、入っているのはモノの一部分でしょう。と言っても詳しい事は分からないのでそうだとは言い切れませんけど。

ドームの中で人が暮らしているのでドームの環境を整えるのに光熱費がとにかく係るらしいのです。そこでモノたちは体をコンパクトにしているんですけど、体の一部だけって、想像もつきません。

もう、自分の手足を使うことはないのだからと言う話で手を切断するのがトレンドらしいのですけど、私はお断り。私は編み物が好きなんです。だから自分の手を動かしていたい。

脳内埋め込み式映像機を手芸モードにすれば、編み物を楽しめて達成感も十分にありますけれど、物は形で残らないので私は編みたいです。それに手芸モードファンは少ないので新作の映像が少ないのも不満です。

私、ケチなんですかね。その物自体は何の役にも立たないのは知っています。でも現物が欲しい。可笑しいですか?そう、手触りを楽しみたいだけかもしれません。今では獣毛や植物繊維は手に入りませんけれど触ってみたいです。自分の物にしたいです。

だから情報は常にチェックしています。先日、秋葉ドームで足を買てくれるモノがいると聞きました。今更、足なんて何に使うのか?本当に売れるのかは分かりませんけれど、話だけでも聞いて、お金に換えられるのならお金にして、天然素材の毛糸を手に入れる資金にしたいのです。あればの話、どんな値が付いているのか恐ろしい。

捜査官:これは自殺とみて間違いはありませんか?

捜査官B:はい、自殺ではありますが、蔭に犯罪者がいるようです。亡くなられたリリアンさんは秋葉ドームへ行けば足が金に代わり、その金で、毛糸が買えると信じ込まされていたようです。実際は足を売るためには補償金が必要だと言い、その補償金をせしめる詐欺に遭っての自殺です。

捜査官:フン、物に囚われているモノたちの悲劇ですか、体など、今やどれほどの意味があるのでしょうね。君、私たちは意識の中に生きるより他に良い未来が想像できますか?

捜査官Bは姿なきその声を聞いた。捜査官の体の一部はすでに水槽の中にあり、意識だけが送られてくるようになっていた。捜査官Bは捜査官と話すたびに背筋が寒くなる自分は遅れている意識の持ち主なのかと自問した。

大変貧乏しております。よろしかったらいくらか下さい。新しい物語の主人公を購入します。最後まで美味しく頂きます!!