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【二胡の運指】小指を立てずに薬指を使う方法

〜力を抜いて力を入れるための解剖学的考察〜


★私は解剖学の専門家ではありません。情報は全てインターネットで調べたものです。

1.研究の背景

天華二胡学院の教則DVDには、「五声音階」と「一個人」の弾き方が賈鵬芳師の丁寧な解説とともに収められている。映像は、師の右側から左手を拡大して捉えており、すべての指の動きが鮮明に確認できる。何度も見るうちに、不思議なことに気づいた。師が 薬指で弦を押さえるとき、ほぼ必ず、薬指の向こうに小指が掌側に向かって動いているのだった。

『おうちで楽しむ二胡講座』DVD 五声音階F調解説部分より

なぜだろうか。試しに真似をしてみた。つまり、薬指で押さえるときに、 小指を薬指よりも内側に曲げるようにしてみた。すると、薬指は、よりしっかり弦を捉えることができ、意識せずに押さえていたときとは、何か全く違う感覚であった。結果として、力を使わなくても弦を押さえられるように感じた。これはなぜだろうか。疑問に思い、指の曲げ伸ばしについて調べてみた。

2.力を抜くことと力を入れること
レッスンのときに講師から「力を抜いて」という指摘を受ける。自分の録画を見れば、力を入れているつもりがなくても入っていることは一目瞭然である。入れていないつもりでも入っている(ように見える)ということは、力を抜くことにおいて、人は自分の意識だけでは体がコントロールできない部分があるということだ。

一方、きれいな音を出すためには、弦はしっかりと押さえなければならない。そのため、講師からは「もっと力を入れてください」と言うオーダーも飛んでくる。弦をしっかり押さえるために「力を入れる」が、腕や手、体全体としては「力を抜く」。この相反するオーダーに同時に応えるために体も頭も困惑する。

薬指で弦をしっかり押さえようとするとき、意図せず、小指が外側につっぱる。この小指のつっぱりは、拳や手指に無用に力が入っていることを象徴するかのように目立つ。発表会の映像を見ると、緊張もあってか、半数以上の生徒に同じ現象が認められる。なぜ小指は突っ張ってしまうのか。意識以外に、力を抜いて弾くためのもっと具体的な方法はないものだろうか。 常々、課題を感じていた時に、『二胡講座DVD』での発見があった。

3. 指の屈筋伸筋の種類
弦を押さえる指の動きはどのような筋肉によって支えられているのか。指を曲げたり伸ばしたりする筋肉の種類を調べてみた。

指を動かす筋肉は、 手首と肘の間にある屈筋と伸筋である。屈筋は指を掌側に曲げる動きに、伸筋は曲げた指を伸ばす動きに使われる。

1)屈筋
指先の関節は深指屈筋で曲がる。第二関節は浅指屈筋で曲がる。深指屈筋の腱は各指の先端まで伸びている。例えば中指を内側に曲げた時、両隣の指に力を入れなければ、両隣の指も一緒に内側に曲がろうとする。 これは各指の腱(筋肉と骨をつないでいる部分)が完全に独立しておらず、腱同士が腱間結合でつながっているためである。

また、物をつかむ、つまむ、といった動作では、 複数の指を協働させることが多いため、1本1本の指に対して、独立して指令を出すことは脳として効率が悪い。各指が独立して動きにくい理由には、筋肉や腱の仕組みだけでなく、このように脳や神経の仕組みも深く関わっていると考えられている。

2)伸筋
指を1本だけ内側に曲げようとする場合、他の指がついていかないように、他の指には伸筋が働く。親指・人差し指・小指には独立した伸筋があり、特に小指伸筋は手首を反らせたり、手のひらをパアの形に開いたりする時にも使われ、非常に発達している。

ものをつまんで持ち上げる時、ものが落ちないように力を加えている指とバランスを取るように、小指は伸筋によって外側に反っている。これを知れば、弦を薬指で押さえたときに小指が伸筋によって外側に突っ張るのは解剖学的に極めて自然な動きであり、必ずしも手指の緊張のせいではないと言える。
 
検証のため、薬指に力を入れてものをつかむときの小指の動きを実験で調べた。すると、以下のことがわかった。

実験方法: やや重さのあるものを親指と薬指で挟んで持ち上げ、指の形を観察する。

① 何も意識をせずに持ち上げると、ものに触れていない小指は外側に反る
② 小指が反らないように、力を抜いて薬指の横に添えるだけにしようとすると、
  薬指には力が入りにくい。
細長いものの端を持てば、重さを支えきれずにものが傾いてしまう。

4. 隣の指の動きに影響を受けやすい薬指
 
左右の手の指先を合わせ、中指のみを折って第二関節同士をつけた時、親指、人差し指、薬指、小指を1本ずつ離すことができるだろうか。 多くの人は、他の3本の指は容易に離れるものの、薬指が離れない。原因は、親指、人差し指、小指にはそれぞれ伸筋があるが、中指と薬指には独立した伸筋がないからである。
以下のサイトの解説がわかりやすい。

5. 薬指を曲げるために小指も曲げるという発想
薬指に伸筋がないため、私の場合、掌を開いた状態から小指だけを曲げると、薬指は完全につられて曲がってしまい、薬指を起こすことができない。この独立心のない薬指の性質を逆手に取れば、薬指を曲げたいときに、小指も曲げて、薬指の「ロック状態」をつくるという発想ができる。

実験の続きで、小指を内側に曲げて親指と薬指でものをつかんでみると、薬指は想像以上にがっちりと物の重さを支えることができた。

③ものを持ち上げる時、小指を掌側に曲げると、薬指には力が入りやすい。

手指の屈筋伸筋の仕組みと実験結果の① ② ③を合わせると、二胡の左手薬指での弦の押さえ方について、以下のことが言えるのではないだろうか。

1. 薬指で弦を押さえようとすると、バランスを取るために、体の仕組みとして小指伸筋が働き小指が外側に反る。

2. 小指が反らないように薬指の横に静かに置いておこうとすれば、薬指に十分な力が入りにくい。

3. 小指を掌側に曲げれば、薬指もつられて曲がる。小指が曲がっている限り薬指は伸びることができないため、力を入れて使おうとしなくても薬指は弦を大きな力で押さえることができる。

4. 上記1の押さえ方では、薬指を曲げるための屈筋と、小指を伸ばすための伸筋を同時に強く働かせることになるのに対して、3の押さえ方では薬指も小指も屈筋を働かせることになる。 しかも深指屈筋は各指のために独立してあるのではなく、各指の間に分岐する手前は1つの筋肉である。そのため3の押さえ方は1に比べて 手指や筋肉に負担が少ないと想像される。その結果として3の押さえ方は、手指や腕が力んで見えることを軽減する。

6.結論
薬指で弦を押さえるとき、小指を内側に曲げると、少ない力でしっかりと弦を押さえることができる。また、そのように押さえることによって、見ている人に、小指が外側に突っ張って手指や腕に力が入っている印象を与えずに済む。実際に余計な筋肉を使わずに済むため、次の動作にスムーズに移行できる。

(ただし、直後に小指で弦を押さえる時や、指の動きが速い時は適用外。二胡講座』のDVDで指の指の動きを確認願います。また、指の筋肉の動きは個人差があるため、小指を曲げても薬指がついてこない人にはこの提案は効果がないかもしれません!)

おわりに
私にとってはDVDで見つけた大発見から、指の仕組みに大きな興味が湧いて調べてみました。上級者にとっては周知のことかもしれませんが、力を抜いて力を入れるという命題に悩んでいる方は試してみる価値があると思います。実感として小指を内側に曲げて薬指を使うと、とても押さえやすいと思いました。本論は素人の興味本位の考察に過ぎません。あしからず。
                (執筆 2020年6月)

参考サイト


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