電車での出来事
息子のピアノレッスンは、土曜日だ。
先日のレッスン日、いつもの時間に教室へ到着し、インターホンを鳴らすが応答がない。
二回三回と鳴らしても、やっぱり先生は出ない。
自閉症によく見られる特性で、急な予定変更や突発的な出来事に、柔軟に対応できず、とまどったり不安になったり、パニックになることもある。
息子もみるみるうちに、顔つきが変わり落ち着きがなくなっていく。(イヤな予感…)
スマホを家に置いてきてしまった私は、先生に電話をかけることもできず、いったん家に戻ろうかと困っていると、先生が慌てた様子で走って来られた。
急用で少しの間、教室を離れたそうだ。
何度も息子に謝って下さったのだが、一度情緒が不安定になると、すぐにはなおらない。
それでもなんとか立ち直って、レッスンは最後までやり遂げた。
胸を撫で下ろしたのも、つかの間、そのあと電車に乗るため駅に着くと、息子の抑え込んでいたイライラが噴出。(もう、イヤな予感しかない…)
車内での挙動不審な様子で、まわりの乗客から白い目でジロジロ見られ、私は針のむしろ状態。
同じような思いは、しょっちゅうしているのだが、この日は特にキツく感じられ、電車を降りた瞬間、涙がポロポロ出てきた。
大きな駅の人波の中で、涙を止めることができず、(しかも私は花粉症)涙と鼻水でぐしょぐしょになった。
なんで、落ち着いて、じっと静かに電車に乗られへんの?
なんで、こんな肩身の狭い思いをしょっちゅうせなアカンの?
もう、イヤや…あんたと一緒に電車乗るんイヤや!!
気がつくと、私はいっきに、そう息子に言い放っていた。
息子は、私のぐしょぐしょの顔に驚き、我にかえったようで「ごめんなさい、ごめんなさい」と言った。
あーー、なんてこと言ってしまったんだろ。
すぐさま後悔したけれど、「覆水 盆に返らず」だ。
ほんと、ごめん。あやまらねばならないのは、私の方だ。
一体、何十年、母親してるんだか。
未熟者の母を許してちょうだい。
私は、鼻をすすりながら息子に向って頭(こうべ)をたれた。
すると、息子が一言。
「ママ、笑って」
顔を上げると、息子が自分のズボンのポケットからクシャクシャのハンカチを私に差し出していた。
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