SBRTを語る前に、低侵襲手術の新たなエビデンスを振り返ってみよう

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38224918/

放射線腫瘍の雑誌だが
最近のトピックである末梢の2cm以下の
肺がんについてのレビュー
お勉強して、SBRTに生かしましょう、という趣旨

読みにくい感はあると思いますが、一応一ネタとして。

基本はCALGB14503とJCOG0802について
比較しつつ論じている

この二つの試験は(意見はいろいろあるものの)
2cm以下の末梢肺がんに対して
葉切と葉切以下の手術を比較して
(すくなくとも)葉切以下は非劣勢であり
この知見をどのように
「手術可能な早期非小細胞肺がん」
に対してSBRTに外挿するかということがテーマの話。

現状として5年の局所制御率(あくまでCTの)
は90%程度であり、早期非小細胞肺がんに対して
手術vs.SBRTが(海外では特に)議論の的である
近年出た25の試験のシステマティックレビューでは
QOLはSBRTは安定しており、手術はいったんは低下するが
半年から一年で回復するということが分かっている。
早期のQOLの低下は主にupstagingのあった
症例のアジュバント治療によるのかもしれない

SBRTが導入されている経験のある施設では
外科の周術期死亡率が減少している傾向がある
(おそらく、無理して手術しないでSBRTに
 そういった症例は回っている`フィルタリング効果`
 であろうと筆者らはのべている)

術前SBRTを行った研究の病理学的なpCR率は
想像以上に低く、SBRTは腫瘍を根絶できているのか?
というのに疑問符を投げかけている
二相試験の、BED10が100Gyを超えた症例の手術時の
pCRは60%であった。
これはSBRTの5年局所制御90%という事実と反する。

しかしながら他の癌(肛門管がん・子宮頸がん)
等でも知られるようにpCR率は時間とともに上がっていくものである
肛門管がんのACTII試験では直後のCR率は64%だが
26週目には85%になった。
子宮頸がんのEMBRACE-I試験では最終的な
局所制御率は98%だったが、3か月後の時点では81名
癌の遺残が疑われたが、6~9か月後にその3/4が
CRとなった。遅れてCRになったかは予後因子とはなっていなかった。

これらの知見よりpCR率と臨床的な局所制御の
差は説明できるのではないか、と筆者たちはのべている

葉切除は長い間早期肺がん治療の標準であった
(30年前のLCSG0821試験に基づく)
患者は肺がんが疑われ、リンパ節転移が疑われない
患者が葉切除と葉切除以下にランダム化されたものだった。
葉切除以下の手術は肺機能的に葉切除が難しい場合に行われていた。

日本とアメリカで
葉切と葉切除以下を非劣性試験として
比較する二試験が行われ、どちらも非劣勢が示され、
日本の試験では縮小手術のほうが、優位性まで示した。

この知見は早期の非小細胞肺がん手術可能群にSBRTか
手術を行うかの議論をする上で、これらの試験を
批判的に検討してみる。

どちらの試験も肺の末梢に腫瘍がCTで認められ
診断がついていない場合は診断をつけて
N1,もしくはN2のリンパ節がないことを確認している

大きな対象の違いとしてはCALGB14305は
pureなGGOは含まず、JCOG0802は2cm以下で
consolidation-to-tumour の比が 0.5以上のものが適応だった。
そのためJCOGの試験ではいわゆる部分的な腫瘤影のものが
含まれており、CALGB試験ではsolidな2cm以下の腫瘍で
それに加えて周囲にGGOがある症例は省かれている
可能性がある
(こういった症例は十分なマージンを取って切除するのが
 容易であっただろうと述べている)

JCOGの試験の主評価項目は全生存であった。
区域切除が94.3% 葉切除が91.1%であった
(HR0.663 P=0.0082)
一方で5年のDFSは区域切除が88%、葉切除が87.9%であった
重要なこととして、オンコロジカルなアウトカムの
局所制御は葉切除のほうが区域切除よりも良かった
(10.5% vs. 5.4% P=0.0018)
一秒量の低下は予想以上ではなかったが
区域切除のほうが少なかった(有意差あり)

ここまではある程度想定通りだったが、
すべての死因(二次肺がん、呼吸疾患、脳血管疾患)
は葉切除群で多かった(15% vs. 10.5%)
これはベースラインの合併疾患に偏りがあった可能性が示唆される
再手術は区域切除群で多かったことは
再発後に手術ができるぐらい肺機能が良かった可能性もある

第二の肺がんがでてくる確率がどちらの試験でも
15~18%あったのはSBRTを手術の代わりに行う上で
重要な知見である。

CALGBでは葉切除以下の手術(楔状切除or区域切除)
は外科医の判断で、実際は59.1%が楔状切除
37.9%が区域切除であった。
この試験の主要評価項目はDFSで
腫瘍再発か、死亡がイベントであった。
観察期間中央値7年で葉切除以下の手術、葉切で
DFSは63.6% vs. 64.1%であった。
G3以上の有害事象に差はなかった
副次的エンドポイントのOSでも
80.3% vs. 78.9%で非劣勢が示された。
周術期死亡は両群ともひくかった

再発が多かったのは手術方法によらず、
この試験の群では遠隔転移が多かったことを示唆する。
二次的な肺がんや孤立再発患者が治療を受けるために
CTサーベイランスが重要であることを示唆するものと思われる

早期肺がんの治療として手術が好まれてきた理由は
1)高い局所制御
2)組織学的検査ができ、アジュバント治療が入れられる
という点にある。
しかしながら肺癌手術後の再発パターンや
他の原因による死亡に関するデータは、選択バイアスが存在する。

JCOG0803とCALGB 140503の結果は
放射線腫瘍医と他科医師が
シェアードディシジョンメイキング(SDM)する際に
外科的切除の利点とされるものが、
かつて信じられていたものとは異なる可能性があると
示唆されている(状態が良かった患者のバイアス)

CALGBにおける5年DFSは、両群とも約64%であった。
これに対応する無再発生存率は、
葉切以下の切除では70.2%(95%信頼区間、64.6-75.1)、
葉切除では71.2%(95%信頼区間、65.8-75.9)であった。
腫瘍が2cm以下であり、ランダム化前に
肺門リンパ節および縦隔リンパ節への転移を除外した後に
肺葉切除を受けるのに適した、
綿密に病期分類された患者コホートに対する驚くべき所見である。

さらにJCOGの試験では両群5年のRFSが88%であった
これらは人種差や癌の生物学的な違いを示唆している。
JCOGの試験は90%が腺癌であり、GGOの部分があるものが
48%であった。
GGOが存在することは充実部分があったとしても予後良好を示唆する。
CALGB試験はSqが倍近くあり、手術でリンパ節のupstagingが
6.4%と高かった(JCOG試験では1.4%)

CALGBの患者群は喫煙者がおおく、never-smokerは9%だけだった
一方JCOGの試験では喫煙歴を持つものは56%にとどまった。
他の試験で、切除前の喫煙状態は予後不良因子である
(早期のクローンダイバージェンス、腫瘍環境の適応)

5年のOSがCALGBとJCOGで違うのは
PS0の患者が少なく、喫煙に関連する
心血管疾患などが多かった可能性もある。

手術不能または高リスクと判断された患者は、
がん以外の死亡率がほぼ一様に高い。
いずれの治療にも適格であった早期非小細胞肺がんで
SABRと手術を比較した傾向スコア研究のメタアナリシスでは、
SABRと比較して手術後のOSは良好であったが、
肺がん特異的生存率は同程度であったと報告されている。
手術後のOSとSABR後のOSを比較した研究は、
これまでJCOGとCALGBで見てきたような適応による交絡があり、
誤解を招きやすい。

NCDBやSEERのデータセットを用いた治療成績の比較でも、
肺機能、心機能、PSに関する客観的な臨床データは欠落している
ことが多く。傾向マッチング分析を用いても、
手術とSABRのような異なる治療を受けた患者間の差を
説明することはできないことが示唆される。

<良性疾患の頻度や手術中のup Stagingについて>
両方の試験で良性疾患であったり、upstagingで試験に組み込まれなかった
患者が一定数いた。CALGBでは35.5%の患者が何らかの理由
(良性・ステージアップ・NSCLC以外だった)でランダム化されず、
JCOGの試験では6.3%が良性疾患でNでupstagingされた人が0.2%いた

2010~2015年にアメリカのNCDBでStageI/IIでSBRTを行った
患者の83%しか組織診断がついていなかった。
アメリカの胸部専門医学会のガイドラインでは
「特に禁忌でない限り、非外科的生検および/または外科的切除に進む前に、
 Mayo のリスクスコアを用いた検査前の悪性の可能性が
 65%であることを推奨していた」

https://www.mdcalc.com/calc/4057/solitary-pulmonary-nodule-spn-malignancy-risk-score-mayo-clinic-model

一方でESMOのガイドラインでは病理診断なしにSABRするのであれば
悪性の可能性が85%以上であることを基準としている。

なんらかのこういった閾値の設定を設けるのは
患者を回避可能な害にさらさないようにするためである。
ある研究では上のアメリカの胸部専門医学会のガイドラインを
用いた場合、65%の閾値設定で、12~13%の良性結節の切除が
不適切であったと。
肺がん検診で見つかった腫瘍の62%がいわゆる肺の末梢(外側1/3)
にあったらしく、CT検診で見つかった腫瘍はJCOGやCALGBの
適応となる可能性が高いことが分かっている。
SABRするのか、手術するのかにせよ
本当に悪性なのか?という観点については
多職種検討が必要である

<リンパ節の扱いについて>
SABRが手術に対して手落ちである、といわれるのは
リンパ節転移の評価に関してである。

「教科書的な治療」としては
・切除断端陰性
・10個以上のリンパ節廓清
・手術による入院期間延長なし
・30日間手術関連死亡なし
・予定外の再入院がない
・必要な場合はアジュバントをする

ということになっている。
一番この基準で満たされていないものはリンパ節廓清
であり、実際にアメリカの臨床ではこの基準は
26.3%しか満たされていない。
オランダでも似たような結果が示されている。
ちなみに解析では「教科書的な治療」
を受けることで5年生存は9.6%上昇することが言われている

一方でSEERのデータベースでは葉切以下の切除の場合
47%でしかリンパ節はサンプリングされていない。
(JCOGの試験でもCALGBの試験でも必要とされている)

筆者らはリンパ節廓清が
「腫瘍学的な根治」というよりは「腫瘍の生物学的特徴」
をリンパ節を切除することによって得て、
アジュバントをするべき対象かどうか、という目的の
ものではないか、したがってこれらの試験において
リンパ節廓清でDFSにはそこまで影響しないのでは、と言っている

<まとめ>
JCOGやCALGBの試験によって早期の2cm以下の腫瘍では
葉切、場合によっては区切さえも必要ない可能性も出てきた。
2cm以下の末梢の早期肺がんに対して肺門リンパ節廓清を加えた
葉切以下の手術が「new standard」となってきている。

胸郭内の再発や二次がんの発生は増えるが
これらの試験の長期生存は肺機能の温存、それによる
追加局所治療で保たれている。

葉切除以下の治療でリンパ節廓清を行わないSABRに比べて
手術が勝るかどうかは分からないが、
今後の手術とSABRの比較試験で
正確なリンパ節転移診断によるアジュバントを行う意義や
SABR後の画像サーベイランスの重要性を意味づけることが重要である

<まとめ>
質の高い手術データにより、2cm以下の末梢
早期非小細胞肺がんに対する標準治療として
葉切以下の切除が確立された。

2cm以下の末梢早期非小細胞がんの手術を受けた欧米の集団では、
無病生存率はわずか60%であった。

両試験とも、ガイドラインで推奨される結節病期分類が必要であったが、
これは現実の外科診療を反映しておらず、
報告された所見の一般化可能性を制限する可能性がある。

両試験集団間の全生存率の差は、
喫煙歴や合併症などの交絡因子の影響を強調している
(日本の手術のうまさもあると思うけど…)

二次悪性腫瘍は生存者の15~18%に発生し、
実質温存術は、患者が根治的治療を追加で
受けられるようにすることで生存率を改善できる可能性がある

SABRと手術を比較する現在進行中の試験の結果が待たれる
(海外ではランダム化比較試験も進んでいます!)

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