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あの子と私〈フリー朗読台本〉



規約(必ずお読みください)

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情報

〈概要〉
女子の一人称。モノローグメインでセリフは少し。
〈読み手の性別〉
不問
〈本文の文字数〉
1659文字 
〈時間の目安〉
5分

本文

小学校までは仲の良かった子がいた。
その子と私はマンションの部屋が隣同士。
同い年の子供を持つ母親同士はすぐに仲良くなり、自然と私達も仲良くなったいった。
そうしていつも二人で楽しく過ごしていた。そのはずだった。

だけど・・・・・

中学からは私立と公立で別れた事もあり、自然と私達は疎遠になっていった。けれど母親達は今も仲が良く、あの子の母親とはよく顔をあわせる。そんな時には軽く挨拶をするが、あの子自身とは滅多に会う事がない。
ここから距離のある私立と近くの公立で家を出る時間が違うし、塾と部活で互いに帰宅する時間も違う。
学校で過ごす周りの環境もそれぞれ違う事もあり、互いに自分達の違いがくっきり表れるようになっていった。だからわざわざ、休日に一緒に遊ぶ事も無くなった。

(あっ・・・・・)

久しぶりに、本当に久しぶりにあの子と会った。
不意打ちのような形でビックリしてしまい、一瞬動きが止まってしまった。
彼女も同じように動きを止める。
そしてお互いにそれとなく視線を外して、何も言葉を交わす事なくすれ違った。
それが今の私達。
喧嘩別れしたのでは無い。嫌いあってるのでもない。
ただただ、冷えていた。
お互いに関心を向けず、お互いに干渉してほしく無い。
昔と今では全く違うあの子と私。
一緒にいても、気まずい空気が漂うだけだった。
お互いに何の気兼ねもなかったあの頃は、自分達の違いに何も思う事なく過ごしていたはずなのに。

でも思い返せば、そこに水を差す言葉をずっと聞かされていた気もする。

「おたくの娘さんは明るいし、いつも元気で良いわよね。うちの子は愛嬌とか全然無いから将来心配」
「あら、あなたの所のお嬢さんはしっかり勉強してて偉いじゃない。この子なんて私が何度言っても宿題に取り組もうとしないから嫌になっちゃう。今度あなたのお嬢さんに勉強見てもらおうかしら」

悪気のない無邪気な母親同士のよくあるやり取り。
聞こえてくる自分達の欠点を面白おかしく雑談のネタにされ、その言葉は小さな胸に少しずつ少しずつ降り積もっていった。
そしてそれが聞こえた後は、いつも私達の間に気まずい空気がしばらく流れていた。
もちろんそんな言葉が無くても今の私達の関係は一緒だったかもしれない。
でも、少しは違っていたかもしれない。
そう思ってしまうのは、あの子も私も互いに比較されるのにどこか疲れていたからだろう。
だから私立と公立で離れると知った時はホッとした。

あの子と離れられると・・・

でも母親達のやり取りまでが無くなるわけでは無いから、余計な情報は嫌でも耳に入ってきた。
楽しそうな様子の母に、あの子について聞かされる。
そうして、あの子との距離はますます離れていった。

帰宅すると、マンションの扉付近であの子と私の母親達が楽しそうに雑談をしている。
私達の関係とは違い、母親同士は当時からまるで時が止まっているかのように変わらず仲が良かった。
不意にあの子の母親が私に気づくと釣られるように、私の母もこちらに視線を向ける。そして二人の視線の先が私を通り過ぎて

「あら、二人一緒なんて珍しいわね」

(・・・・・えっ?)

二人の視線の先、自分の後ろを振り返るとあの子がいた。
彼女は私の後ろ、少し離れた位置で立ち止まっている。
また微妙な居心地の悪さを感じ、咄嗟に顔を前方に戻した。
何とも言えない気まずさを紛らわすように、足早に扉の方へと向かう。そのすぐ後ろで、もう一人分の足音を聞きながら。
二人の前を通り過ぎる寸前、あの子の母親には愛想よく、自分の母親には素っ気なく対応する。後ろの声も同じ様に聞こえた。
そんな所だけは一緒なのに、それ以外は全然違う私達。

母親達も同じ歳の子供がいる以外は違ってるはずなのに、まるでそれだけで良いかのように会話がいつも弾んでいる。
年齢を重ねれば重ねるほど、違いがくっきりする私達。
でも・・・・・もっと年齢を重ねて、母親達と同じくらいになったら・・・・・
そうしたら、また違う関係になれるのかな?
そんな無意味な想像を一瞬でもした自分を振り払うように、私は扉を固く閉ざした。


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